ゴブリンはウルフと戦います2

 とはいってもコボルト側から仕掛けはしない。

 繰り広げるのは防衛戦であり、ウルフが襲ってくるなら戦う。


 来ないのなら別にウルフと敵対することもないのである。


「見えましたよ!」


 だけどウルフだって簡単には引けない。

 木の上に隠れるようにして監視をしていたユリディカがウルフの姿を見た。


 コボルトの間に緊張が走る。


「レビス」


「なに?」


「いざとなったら逃げるんだぞ」


「……ドゥゼアは?」


「もちろん逃げる」


「なら逃げる」


 成り行き上共に戦うことになってしまったが運命を完全に共にするつもりはない。

 コボルトたちが瓦解して危険になりそうならドゥゼアは一目散に逃げるつもりだった。


「どうして、コボルト助ける?


 そうしなくてもいい」


 レビスの言う通りだ。

 通りかがっただけのコボルトを助ける理由なんてない。


 周りの状況を知りたいからなんてことは理由としてかなり弱い。

 コボルトが知っていることなんて高が知れているし期待もできない。


 無視して周りを見て回った方が早いかもしれないとすら思う。

 なのにドゥゼアはコボルトを手助けすることに決めた。


 弱肉強食で助け合いなど基本ではない魔物においてドゥゼアの行動は不思議である。


「……これは俺の意地みたいなものだ。


 最後のプライドかもしれない」


「……?」


 レビスは意味が分からなくて首を傾げた。

 コボルトを助けるのは合理的な理由からではなかった。


 言うなればドゥゼアが人であったから。

 人だと助け合うことも常である。


 困っている人がいれば助けることもあったし協力出来ることならしてやるのが人ってものである。

 コボルトを助けるのはドゥゼアが人であったことを忘れないため。


 魔物ではなく、自分の本質は人であるのだという最後のプライドのためにコボルトを助けようとしていたのであった。

 無視することもできた。


 むしろコボルトのためにウルフと戦うなんてリスクも大きくて避けるべきである。

 だけどドゥゼアはそうはしない。


 もはや人であったことを忘れそうなドゥゼアに残された最後の人らしさがコボルト助けということなのである。


「俺のワガママに付き合わせてすまないな」


「ううん、ドゥゼアがやるなら私もやる」


 弱いものイジメは許せないとかコボルトが可哀想とか細かな理由はあるけどこれはドゥゼアのちっぽけなプライドのための戦いである。

 それについてきてくれるレビスとユリディカには感謝もしている。


「ミエタ!」


 そうしている間にコボルトたちにもウルフの姿が見えていた。


「全員構えろ!」


 コボルトたちはドゥゼアの指示に従う。

 構えるのはヒモの真ん中に布が取り付けてあって、そこに石がセットされているもの。


 いわゆる投石器というやつである。

 コボルトたちが自衛をするために攻撃手段が必要だと思ったドゥゼアは何がいいか頭をひねった。


 そこで思いついたのが投石器であった。

 冒険者でも狩人に近いような人だとこのような道具を使うことがある。


 石を投げる補助と力を上手く伝えて投石の威力を増してくれる。

 ただしコボルトの手が人よりも獣に近い形をしているのでドゥゼアの想定と違って両手で投石器を持って全身で振り回して石を投げるような形になったけど。


 片手の肉球でヒモの端を掴み、反対側の端をもう一本の手も使って挟むように持つ。

 そして体ごとグルンと石を回して片手を離すと石が飛んでいく。


 最初は苦労したけど1体ができ始めると他のコボルトもなんとなくできるようになった。

 熟練者のような精度は求めない。


 ある程度の威力があってウルフにとって脅威があると見せつけられたらいいのだ。

 あとはゴブリンの巣から持ってきた弓矢を手先が器用なコボルトとレビスに持たせた。


 こちらも当たる保証はないけれど石よりはいいかもしれない。

 ウルフたちは見つけたコボルトに向かって走ってきている。


 愚かにも抵抗を選んだコボルトを噛み殺し、ここを安住の地にすべく闘志に燃えていた。


「まだだ……」


 ウルフを出来るだけ引きつけようとする。

 一瞬ウルフたちはどうしてコボルトたちの先頭にゴブリンがいるのか疑問に思った。


 その時だった。

 前を走っていたウルフが急に転倒した。


 何が起きたのかも分からず、他のウルフは止まることもできない。

 次々とあちこちでウルフが転倒して勢いよく転んでいく。


「今だ!」


 ドゥゼアが手を振り下ろす。

 同時にコボルトたちが投石器を振り回して石を投げる。


 緊張のためか練習で出来ていたのに失敗してあらぬ方向に石が飛んでいくものもあったけど結構な石がまっすぐウルフに飛んでいく。

 狙いは転倒したウルフ。


 普通の状態なら当てることも厳しいが転んで動けなくなっているウルフになら当たる可能性も高くなる。

 レビスとコボルトの矢も同じく放たれる。


「ギャンッ!」


「いいぞ!」


 石がウルフの頭に当たってウルフが悲鳴をあげる。

 投石器を使って威力を増した石はコボルトが投げたものでも致命的な威力となる。


 思っていたよりも精度が良くて転んだウルフの4匹が石の直撃を受けて動けなくなった。

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