ゴブリンはワーウルフと出会いました7
ドゥゼアはギリギリまでビッグボアを引きつけて牙を回避すると額にナイフを突き立てた。
「面倒だな!」
ナイフは軽く先端だけが刺さったがそれ以上は入らない。
頭の骨が思ったよりも硬くてドゥゼアの力とナイフの威力では太刀打ちできなかった。
ナイフが手から弾き飛ばされる。
「ドゥゼア!」
「大丈夫だ」
ちょっとだけ腕ごと肩も持っていかれそうだったけれど大事に至らなかった。
素早くビッグボアから距離をとって今度は短剣を抜く。
かわしながらの反撃では力が足りない。
一介のゴブリンがダンジョンのボスに挑む。
どう考えても無謀すぎる。
力も速さも耐久力も及ばない。
勝てない相手。
「……ただのゴブリンだったらな」
普通のゴブリンだったら確実に勝てない相手だ。
けれどドゥゼアはただのゴブリンじゃない。
これまで幾度となくゴブリンとして生まれ変わり、あっさり死んだ経験も多いけど危機的状況を生き残った経験だってあるのだ。
「ぷぎゃあああ!」
再び突進してきたビッグボアの牙をかわしたドゥゼアは短剣を振り下ろした。
狙うは目。
魔物ってやつは基本的に相手の目を狙うことはしない。
冒険者も卑怯だとか小さい目は狙いにくいとかで意外と目は狙わない。
魔物だとそんな面倒なことをする知能、知識がない。
冒険者だと目も貴重な素材だったりすることもある。
そうした事情もあってよほどの強敵で目などを潰さねばならないとかじゃないと狙いにくい目を攻撃することは少ない。
しかし目は大体どの生き物でも柔らかく、視界を奪って大きなダメージを与えられるので有効な攻撃となる。
ドゥゼアもゴブリンの身で目を狙おうと思うとかなり接近しなきゃいけないし、卑怯な感じがあって最初の頃は目を狙うなんてしなかった。
そんな考えもゴブ生を何回かやるとあっさりと捨て去ることになった。
使えるものは使い、できることは何でもする。
「グッ!」
痛みに頭を振ったビッグボアの牙がたまたま当たってドゥゼアは地面を転がる。
俊敏さが少し及ばなかった。
「相手が悪かったな……」
ドゥゼアは笑う。
ゴブリンの凶悪な笑み。
体が興奮してきて痛みを忘れる。
ビッグボアの方も手痛い反撃に怒りを覚えていた。
所詮は単純な魔物であるビッグボアは怒ったところで攻撃パターンが増えるわけでもない。
同じように突進してくるので今度は逆側にかわして大きくナイフを振り上げた。
ビッグボアはドゥゼアが何をしようとしているのか察して急ブレーキをかけて頭を逸らしてナイフを避けようとする。
止まってしまったために完全に無防備になった。
ドゥゼアはナイフを振り下ろしたがその目標は目でない。
そのまま体を屈めるようにして低い位置にある足を切り付ける。
「すごい……」
「本当にゴブリンなんですか?」
「たぶん。
同じ場所で生まれた」
足を切り付けられてバランスを崩したビッグボアが膝をつく。
隙を逃さずドゥゼアがビッグボアに飛び掛かってまだ無事な方の目を狙う。
ビッグボアも頭を動かして抵抗する。
2回なんとか短剣を避けられたが3度となると避けきれなかった。
目に短剣が突き刺さって痛みにビッグボアが地面をのたうち回る。
「レビス……あー、お前もこいつ攻撃しろ!」
ワーウルフには名前もないので呼び方に悩んだ。
とりあえず今はそんなことより総攻撃だ。
「ど、どうしたらいいんですか?」
「とにかく攻撃だ!
噛みついてろ!」
「えぇっ!?」
「やああああっ!」
「も、もうどうにでもなれ!」
手を縛られてどう攻撃しろというのかとワーウルフが困惑するけれどレビスはさっさと突撃する。
それを見てワーウルフもビッグボアに向かって走り出す。
ドゥゼアが短剣で切りつけ、レビスが槍で刺し、ワーウルフが噛み付く。
みんな全力でビッグボアを攻撃する。
「せめて手は外してくださいよー!」
手が使えないと噛みにくいことこの上ない。
噛みやすい足を噛んで頑張っているけど効果も分かりにくい。
「文句言わずに口を動かせ!」
ドゥゼアがビッグボアの首に短剣を突き立てた。
両手で短剣を掴んで無理やり喉を切り開く。
「うらあああああっ!」
喉を大きく切り裂いて血が顔に飛ぶ。
勢いがつきすぎて後ろに転がるドゥゼアは頭を地面に打ち付けた。
一瞬星が目の前に散ったがすぐに起き上がる。
「消えていく……」
ドゥゼアの一撃がトドメとなった。
喉を切られて動かなくなったビッグボアは姿が透けていき、消えてしまった。
「花?」
残されたドロップ品は花であった。
一輪の大きな白い花をレビスが拾い上げた。
ビッグボアとは何の関係もなさそうなドロップ品で、何でこんなものがドロップしたのか不思議でならない。
「死生花か……」
それを見てドゥゼアは何かを察した。
白い花のことをドゥゼアは知っていた。
大きく綺麗な花を咲かせる死生花と呼ばれる花でこれは死体に根付いて花を咲かせる不思議な植物だった。
そして死んだ人に花を咲かせることから意味が転じていき、別れを示す意味を持つようになった花でもあった。
ダンジョンの意思なのだろうか。
もしかしたら出ていこうとするワーウルフに対して別れを告げているのかもしれない。
そんな気がしてならなかった。
「これどうする?」
「持っていこう。
生で食べても薬効がある花だからな」
どんな理由があるにしてもそれを聞ける相手もいない。
別れの選別としてくれるならありがたくもらっていこう。
割と役には立つ花なので持っていてもいい。
「行こうか。
きっとあとは出るだけだ」
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