ゴブリンは初ダンジョンに入ります5

 両手で持ったナイフを振り上げて、ミミックの後ろ側を全力で切り付ける。

 痛みにミミックが大きく跳ねてドゥゼアの方を向く。


「レビス!」


 噛み付くように牙の生えたフタが迫ってくる。

 ドゥゼアはそれをナイフで防いでミミックを受け止める。


 動きの止まったミミックを狙ってレビスが走る。

 狙いはドゥゼアがつけた大きな傷。


「やあああああっ!」


 体重をかけて深く傷に槍を刺す。

 ドゥゼアもミミックを押してレビスを後押しする。


 レビスの槍がミミックを貫通してカパっとミミックの口が開く。

 ミミックの体が消えていく。


 レビスの一撃によってミミックは倒されたのだ。


「レビス避けろ!」


 ようやくミミックを倒したのだとレビスは脱力してしまう。

 そんなレビスの後ろにはミニゴーレムが迫っている。


 いつの間にか拘束を抜け出して起き上がっていたのだ。

 完全に体の力が抜けて警戒を怠っているので避けられない。


「伏せろ!」


 避けられないがドゥゼアの言葉には何とか反応した。

 頭を抱えながら地面に伏せるレビスを乗り越えてドゥゼアがミニゴーレムに肩から体当たりする。


 人ならこれぐらいでは打撲程度だろうけどひ弱なゴブリンの体では勝手が違う。

 固いミニゴーレムの体と脆いゴブリンの体がぶつかればどちらが負けるかなど誰にでも分かる話だ。


 肩から鈍い音が聞こえてドゥゼアとミニゴーレムが互いに弾かれるように地面に転がる。


「ミミックのドロップを取るんだ!」


「う、うん!」


 ドゥゼアは素早く立ち上がるとミニゴーレムに向かって走り出す。

 早くも起きあがろうとしているミニゴーレムを蹴り飛ばしてまた倒す。


「早くここから出るぞ!」


 ミミックのドロップ品は小さい箱だった。

 レビスがそれを拾い上げて2人は慌てて入ってきた穴に向かう。


 先にレビスが入ってドゥゼアがそれを追いかける。

 ミニゴーレムは追いかけてこようとして体が穴に引っかかって後ろに倒れる。


 体高こそゴブリンよりも低いが幅があって穴を通れない。

 横になれば通れるかもしれないがミニゴーレムにそんな知恵はない。


「うぅ……あぶねぇ……」


 ミニゴーレムなんてもの知能がなくて固いだけなのにゴブリンであるが故に倒すことも難しく苦労する。

 ズキズキと痛む肩を押さえながらドゥゼアは穴から出てきた。


 幸い穴の先に魔物はいなかった。


「だいじょうぶ?」


 レビスが心配そうな顔をしている。


「大丈夫じゃない」


 骨はいってなさそうだがヒビぐらいは入ってるかもしれない。


「まあいい。


 いつかこんなことになるのは分かっていた」


 少しでも強い相手、あるいは相性の悪い相手と戦うことになったらノーダメージで戦いを終えられるなんて思わない。

 多少のダメージを覚悟して駆け引きの中で相手を倒していく必要もある。


 体が欠損しないなら傷を負うことぐらいは差し出す。

 なぜならゴブリンには高い回復能力がある。


 ゴブリンは早く成長し、短い時間で死んでいく。

 そのために代謝が早くてよく身につけているものが臭いと言われたりよく腹の減る魔物であるのだが利点もある。


 ケガの回復も早いのだ。

 手足がなくなっても治るほどの回復力はないのだけど命に関わらない程度のケガなら人よりもはるかに早く治ってしまう。


 これがゴブリンの良いところであって、ダメージ覚悟で戦える理由でもあるのだ。


「ケガはいい。


 ほっときゃ治る」


 どうせ魔法も使えなきゃポーションも薬草もないのだから何もできない。

 痛まないように動かさずにいることが精々なので気にしないことにする。


「それで中身は何だ?」


 苦労はしたんだくだらないものだった怒るぞとドゥゼアは思う。

 ただ箱のサイズ感からして武器などの大きなものでないことだけは分かる。


 ハズレくさそうな感じはぷんぷんしているが確認しなきゃゴミかどうかも分からない。

 レビスが箱を開ける。


「これ、なに?」


「イヤリングか……当たりとも外れとも言いにくいな」


 中に入っていたのはイヤリングだった。

 緑色の石がつけられた小さいイヤリングでそこそこ綺麗なものである。


 ポーションとかなら分かりやすく外れだなと言って飲んでやるつもりだったがイヤリングはなんとも言い難い。

 なぜなら分からないから。


 これがただの装飾品であって多少の価値があるものとして売れるのか、あるいはもしかしたら魔道具であって装備したり何かの時に効果が発動するものであるのかドゥゼアには判断できないのだ。

 人間だったなら鑑定して貰うのだけどゴブリンが持ち込んで鑑定してもらえるはずもない。


 魔道具だったら大当たりだが単なる装飾品ならゴブリンじゃ売りにもいけないから大外れだ。


「いや……?」


「イヤリングだよ。


 耳に付けるもんだ」


 イヤリングを知らないレビスは首をかしげる。

 イヤリングそのものは綺麗で気に入ったようだけどイヤリングが何なのかは分かっていない。


「貸してみろ」


 ちょっと腕が痛むがしょうがない。

 ドゥゼアはイヤリングを取り上げるとレビスの耳につけてやる。


「わあ……」


 価値を知る術がないのなら気に入っていそうだしレビスにくれてやってもいいだろう。

 つけてやるとレビスは嬉しそうにしている。


 肌も緑っぽいので意外と悪くないかもしれない。

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