ゴブリンは初ダンジョンに入ります4

 動き出したミニゴーレムは体を左右に振るようにして走り出した。

 ただ動きはノロマ。


「よっ、ほっ!」


 テコテコと歩いてくるミニゴーレムをギリギリまで引きつける。

 ドゥゼアはミニゴーレムの胴体に手をついて飛び越える。


 そして遥かに遅く、ドゥゼアがいたところをミニゴーレムが殴りつける。


「倒れてろ!」


 後ろに回り込んだドゥゼアは体を押し付けるようにして体当たりしてミニゴーレムを押し倒す。

 バランスを崩したミニゴーレムは最も簡単に前に倒れる。


 背中の真ん中に紫色の宝石のようなものがある。

 アレが弱点であり破壊できればミニゴーレムを倒すことができる。


 ナイフで思い切り突けば破壊できるだろうかとジタバタと起きあがろうとしているミニゴーレムを眺めながら考える。


「ドゥ、ドゥゼアァ!」


「なんだ!


 ……レビス!」


 悲鳴のような声が聞こえてきて振り返る。

 レビスが襲われていた。


 箱の上側がパカっと開き、そこに牙が生えていてレビスに噛みつこうとしている。

 レビスはそれを槍でなんとか防いでいる。


「ミミックか!」


 端っこにチラッと書かれていた超がつくレアな魔物がミミックである。

 このダンジョンにも現れることがあるが目撃されたのは数例しかない。


 だからドゥゼアもミミックがいることは知っていたがいないだろうと警戒していなかった。

 一般的に宝箱のようなものをイメージするが宝が入っていそうな箱にも擬態することがある。


「待ってろ!」


 ドゥゼアは起き上がりかけているミニゴーレムを蹴り飛ばしてまた倒してレビスの方に向かう。

 横にした槍に噛みついているミミックに押さえつけられているレビスは必死の形相で耐えている。


「どけろ!」


 ドゥゼアはミミックを思い切り蹴飛ばす。

 思わぬ伏兵だったがレビスはよく反応してやられなかった。


 これは好機だ。

 ミミックは宝箱に擬態して近づいたものにいきなり襲いかかる狡猾な魔物だ。


 けれど何もなくミミックは生まれない。

 お宝あるところにミミックありなのである。


 つまりあのミミックもただの魔物ではなくお宝を持った魔物である可能性が非常に高いのである。


「うおおおおっ!」


 ゴロゴロと転がるミミックを追いかけてドゥゼアはナイフを振りかざす。

 残念ながらミミックの弱点までは把握していないのでナイフで刺しまくる。


 見た目には効いているのかも分からない。


「クッ!」


 ミミックが口を開けてドゥゼアに噛みつこうとした。

 とっさに口を手で押さえるがナイフがミミックに刺さったままになってしまった。


「ドゥゼア!」


 レビスが槍を構えて突撃する。


「いいぞ!」


 レビスの槍が押さえて開いていた口の中にスルッと入って突き刺さる。

 すると口を閉じようとする力が弱くなる。


 攻撃が効いている。


「レビス、もう一度だ!」


「うん!」


 レビスが槍を引き抜いてもう一度突き刺す。


「うおっ!」


 ミミックが嫌がって大きく後ろに飛び退いた。

 その隙に地面に落ちたナイフを回収する。


「レビス、後ろだ!」


「えっ?


 ぎゃあ!」


 いつの間にか立ち上がったミニゴーレムがレビスの後ろまで迫っていた。

 レビスは前に倒れるように飛んでミニゴーレムの攻撃をかわす。

 

 他の魔物ならやられていたが遅いミニゴーレムでよかった。


「チッ……めんどくせえな」


 すっかりミニゴーレムのことを忘れていた。


「ちょっとだけでいい、ミミックの相手出来るか?」


「まかせて」


 ドゥゼアは荷物を漁りながらミニゴーレムに向かう。


「転がってろ!」


 パワーはあるがバランスも悪い。

 しっかりと上を狙って押すように蹴ると後ろにミニゴーレムが転がる。


 ドゥゼアは荷物の中から毛皮を取り出して広げる。

 これはスモールホーンブルからドロップする毛皮である。


 物としては小さいし人間の大人用に加工しようと思ったら何枚かツギハギしなきゃならないのであまり人気もない。

 ゴブリンなら使えるかなと思うので取っておいたがここで使えないかと思った。


 広げた布をミニゴーレムに被せて、今度はスモールホーンブルのツノを取り出す。

 オデコに生えている小さいツノでこちらも利用価値がとても低い。


 削って装飾品にするぐらいの物だがそれを毛皮に突き立てて地面に刺す。

 もう1本ツノを取り出してまた毛皮を地面に固定する。


「しばらくそこにいやがれ!」


 打ち付けられた毛皮の下でジタバタと暴れるミニゴーレム。

 さらにナイフでツノを深く地面に刺す。


 時間稼ぎにしかならないがミニゴーレム程度の知能なら時間はかかるだろう。


「……もうちょい刺しとくか」


 コボルトの爪も取り出して毛皮を地面に固定する。


「よしっ、レビスは……上手くやってるな」


 心配していたがレビスはちゃんとミミックと戦っている。

 ミミックの体の表面にはいくつか穴が空いている。


 無理をしない範囲でレビスが突いて空けた穴だった。

 ミミックの方も中を刺されるのが嫌で大きく飛び掛かることができずにいた。


 よく見ればドゥゼアが刺したナイフの跡もあるし結構ボロボロになっている。

 もうちょっと押せば倒せる、そんな気がしてきた。


 今は完全にレビスの方に注意が向いている。

 ドゥゼアは体勢を低くしてミミックの後ろに回り込む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る