ゴブリンは初ダンジョンに入ります2

 ドゥゼアは爪をかわしてコボルトの懐に入り込む。

 持っていたナイフで胸を一突き。


 同じぐらいの能力なら負けはしない。

 近くで見てみると目は濁っていて理性を感じさせない。


 やはりダンジョンの魔物だと違うのだろうか。

 足の裏で押すようにコボルトを蹴ってナイフを抜く。


 苦しそうに胸の傷を押さえたコボルトはゆっくりと後ろに倒れて、そしてさあっと魔力になって消えていった。

 コボルトがいたところには小さい魔石とコボルトの爪が1本落ちている。


 ダンジョンの魔物は倒されると消えてしまって素材をとったり持って帰って売ることができない。

 その代わりに消えた後に素材や魔石、アイテムが残っていることがある。


 これをドロップと呼ぶ。

 死体全体よりは手に入る素材は少なくなるが、解体の手間はなく綺麗で品質も良い素材が手に入る。


 一長一短な側面がある。

 そして魔物が魔物を倒しても素材はドロップするらしいことが分かった。


 爪は使うことはないと思うけど捨てておくのももったいない。

 魔石と爪は一応食料を入れている袋の中に放り込んで持って行くことにした。


「よく相手の動きを見ろ!


 ホーンラビットの時と大きくは変わらない」


 ついでだしレビスにも戦いの経験を積ませる。

 いつまでもドゥゼアの後ろに隠れてはいられないし囮役だって動けなきゃ囮じゃ済まなくなる。


 もう一体コボルトに遭遇したので今度はレビスが前に出る。

 能力はレビスも劣らないので覚悟を決めて戦えば勝てるはず。


 レビスはゴブリンにしては頭も良いので理解して戦うことができるはずだ。

 賢いが故の恐れもあるがレビスだって立派なゴブリン。


 唸るように歯を剥き出すコボルトを前にしても臆することなく向かい合う。

 レビスはドゥゼアの教えを守って綺麗に槍を構える。


 恐怖と興奮で突っ込んでしまいそうになるがレビスはしっかりとコボルトの動きを待つ。

 先手を取らせてもいいが相手の攻撃を待って隙を狙った方が安全だと思った。


 コボルトがやや前屈みの体勢で走り出す。

 爪か、牙か。


 レビスはコボルトの攻撃がどちらなのか見極めようとする。


「動きが固いな」


 しょうがないことではあるが全ての行動がワンテンポ遅い。

 見極めるのも、回避行動に移るのも、回避行動そのものも。


 ギリギリコボルトの噛みつき攻撃をかわしたレビス。

 いかにも隙だらけの攻撃だったがかわすのがギリギリだったので反撃に移れなかった。


 バランスを崩したレビスにコボルトは爪で追撃する。

 経験の差というか、攻撃することに何のためらいもないコボルトの方が速くて一枚上手のように目には映る。


 けれど爪が直撃しても浅く傷つくぐらいで死にはしない。

 だからドゥゼアは手を出さない。


 死にそうになったら助けるけどそれまではレビスに任せる。

 爪を避けて地面を転がり距離を取る。


 悪くない判断だ。

 興奮で息が荒くなっているレビスは自分に落ち着けと心の中で言い聞かす。


 よく見れば攻撃は分かる。

 速度もホーンラビットに比べれば速くもなく、対処することはできる。


 動けばかわせる。

 動けば倒せる。


 爪か牙かでそんなに大きな違いもない。

 どちらであってもかわしてしまえばいい。


「おっ、いいね」


 今度はそれなりに良かった。

 かわす動作に移るのが早かったけど遅いよりはマシだ。


 熟練者が相手なら動作を見て攻撃を変えてくることもあり得るがあくまでも熟練者が相手ならだ。

 早めにかわしたレビスには反撃する余裕がある。


 踏み込み、浅い。

 腕の突き出し、遅い。


 攻撃の狙い、甘い。


「でも……よくやった」


 これまで槍の訓練をしてきたのでもない。

 初めて1人で戦う実戦でこれだけやれたなら十分であるとドゥゼアは思う。


 槍は軌道が低くコボルトの腹部に突き刺さった。


「そのまま押し込め!」


 刺さりは浅い。

 コボルトを倒すには不十分。


 ドゥゼアは少し手助けしてアドバイスを飛ばす。

 レビスは何かを考える間も無くドゥゼアの言葉に従ってより腕を突き出し、足を踏み出して槍を深く突き刺す。


 足がもつれてレビスが転び、手から槍を放してしまう。


「痛い……」


 まだ戦いの最中だとハッと顔を上げたレビスの目の前にコボルトはもういなかった。

 カランと槍が倒れてその横には小さい魔石が転がっていた。


「頑張ったな」


 スッと目の前に手が差し出されて見上げるとドゥゼアが優しく笑っていた。

 筋は悪くない。


 頭が戦いを理解し、体が頭に追いつけばレビスは強くなる。

 ゴブリンの限界はあるがゴブリンとしては強くなれるだろう。


「ありがと」


 ドゥゼアの手を取って立ち上がる。

 ぼんやりとしていたレビスだが段々と自分の力で勝利をもぎ取った実感が湧いてくる。


 喜びを噛み締めるレビスにドゥゼアは槍と魔石を取ってきてあげる。


「食べるといい」


「食べる?」


「そう、食べてみ」


 ドゥゼアが渡したのは魔石。

 レビスはドゥゼアの言うことならとどう見ても石な魔石を口に放り込んだ。


 美味しい!

 レビスは思わずドゥゼアを見た。


 人はそんなことしないが魔物は魔石も食べる。

 いわゆる魔力の塊である魔石は魔物にとっては栄養源の一つみたいなもので魔物が食べると美味いのだ。

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