ゴブリンは初ダンジョンに入ります1
泥棒が入ったことによりダンジョンの前で一騒動あったけれど犯人が分かるはずも見つかるはずもなく時が経って落ち着いていく。
ドゥゼアは木の上で盗んだ食料を食べながらパンフレットを見て、どのようなダンジョンであるのかを確認する。
地下2階まである階層式ダンジョンで中は洞窟のようになっている。
大きな部屋と細めの通路で繋いだような形になっていて意外と複雑で道に迷いやすい。
ダンジョンの最奥にはボス部屋があってボスとしてオークが1体いるらしい。
道中に出てくる魔物は一定の種類の中からランダムに湧いてくるのだが時折能力が高い中ボス的な魔物も湧く。
アイテムもランダムな場所にランダムに湧くらしく、隠し通路などが時折発生することもあるようだ。
湧いてくる魔物もそんなに強いものではないので初心者が経験を積むのに人気のダンジョンがこのデアイである。
ダンジョンの中の部屋と道という構造が大きく変わることはないが部屋の繋がりなどは比較的頻繁に変わる方で地図などはない。
「ふーん……なかなか面白いダンジョンだな」
そしてパンフレットとは別に挟まれた紙に現在のダンジョンの特記事項が書いてある。
中ボス的な魔物は見た目に分かりにくい。
発生しやすさも違うし倒されずに残っている中ボス的な魔物がいるようだ。
「ワーウルフとゴーストが強化個体と見られ、現在倒されていない……か」
中ボス的な魔物は強化個体と呼ばれているらしい。
そういえばワーウルフに怪我をさせられた冒険者がいるとか話を聞いたのを思い出した。
進んでいけば確実に遭遇するものでもないのでこうしたことも起こりうるのだろう。
昼間では人の目があるのでダンジョンにはいけない。
のんびりとダンジョンの様子を見ながら日が暮れるのを待つ。
時々慌てたようにダンジョンの中から冒険者が飛び出してきて、ダンジョン近くに待機していたベテランの冒険者が入っていく。
そしてケガをした冒険者がベテランに運び出されてくるなんて光景も目にする。
失敗した初心者冒険者を助け出すシステムもあるようだ。
明るいうちに入っていった冒険者たちがダンジョンから出て帰っていき、ダンジョン前のお店も閉められて人の姿が無くなる。
ドゥゼアの見立てでは1組まだ出てきていない冒険者パーティーがあるが日も暮れてきたし悠長に出てくるのを待っていては暇である。
「いくぞ」
「モグ……待って」
人の食べ物が美味いのかレビスはちょいちょい食料をつまんでいた。
落ちないように気をつけて木から降りてダンジョンに向かう。
「気を抜くなよ」
これまで幾度となくゴブリンとして転生してきたドゥゼアであるがゴブリンの身でダンジョンに入ることなど初めてだ。
あまり格上の魔物にも出会ったことがないし、ダンジョンの魔物が外から来た魔物にどうするのか予想もできない。
改めて気を引き締めてドゥゼアとレビスはダンジョンに足を踏み入れた。
階段を降りていく。
天井には光る石が露出していて人でも活動には問題なさそうなぐらいには明るい。
階段を降り切った先は少し広めの部屋となっている。
天井が低めて圧迫感はあるが動き回るのに問題はない。
もうすでに道は3つあってどれかに特徴があるのでもなかった。
地図もない、特徴もないのであればここで迷っていてもしょうがないので適当な道を選んで進む。
「コボルトか……」
魔物に遭わないなと思っているとようやく先の部屋に魔物を見つけることができた。
ランク的にはゴブリンといい勝負をしている魔物であるコボルトがいた。
人にも獣にもなれない出来損ないのような姿をした魔物で歪んだ犬みたいな顔をしている。
「おーい、話分かる?」
いきなり襲い掛かってもいいけど試してみたくなったのでコボルトに声をかけた。
外の世界でコボルトとゴブリンの関係はどうか。
それは状況によってマチマチである。
時としてコボルトはゴブリンにとって良い隣人、良い友人であり仲が良い。
協力関係にあって手を取り合って狩りをしたりして生き延びているなんてことがある。
しかし状況が変わるとコボルトはゴブリンと敵対関係になる。
少ない食料や住処を取り合って争いになって見かけると殺し合いになるような関係であることもあるのだ。
力が同じぐらいで似たような弱い魔物なので周りの環境やその時にいる個体の頭の良さなんかで関係がガラリと変わったりする。
そして魔力に意思を乗せて対話するというやり方で意思疎通ができるのでゴブリンとコボルトは対話も一応成立する。
だから話しかけてみた。
戦いを避けられたり、もし仲良くできるならダンジョンについて何か聞けないかと思った。
「あー、ダメかー」
声をかけたドゥゼアを見たコボルトは一瞬固まった。
返答するのかなと思ったが歯を剥き出しにしてコボルトはドゥゼアに襲いかかってきた。
「話せるけど話さない?
それとも話せない?
まあ、どっちでもいいや」
武器を持たないコボルトは爪で切り裂こうと大きく腕を振り下ろした。
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