ゴブリンは巣立つしかなくなりました2

 3ヶ所目にいたのはホーンラビット。

 ツノの生えたウサギで駆け出しの冒険者や貴族のお遊びでも狩りの対象になることがある魔物である。


 ビッグラットよりも警戒心が高く逃げ足も早いが肉質はビッグラットよりも良い。

 ただし警戒せねばならないこともある。


 ホーンラビットは反撃してくる可能性がビッグラットよりも高いのである。

 そのツノを使って突撃して攻撃してくる。


 ビッグラットは群れない限り攻撃性が低くて逃げることしかしない。

 しかしホーンラビットは1匹でも逃げるか反撃してくるか分からないところがある。


 無理はしないでホーンラビットが自分の方を向いたら横に飛ぶようにレビスに言っておく。

 逃げられようと無事に生きていることが大事なのである。


 弓矢でもあれば楽に仕留められるのにと思いながらドゥゼアは回り込む。

 ゴブリンでも賢い個体が出て弓を使い始めると人から奪ったものを使うことがある。


 けれどここのゴブリンはそこまで発展せずに武器のストックにも弓矢はなかった。

 ビッグラットの時よりも慎重を期して大きく回り込んだのでホーンラビットにも気づかれずに済んだ。


 レビスに向かって手を上げる。

 すると一度うなずいてレビスがホーンラビットに向かって走り出した。


「……レビス、避けろ!」


 ホーンラビットが何を選択するのか注意深く見ていた。

 走ってくるレビスに気がついたホーンラビットは逃げるのではなく戦うことを選んだ。


 レビスが弱そうとでも思ったのかもしれない。

 頭を下げてツノをレビスの方に向ける。


 グンと地面を蹴って弾丸のようにレビスに向かって飛び出したホーンラビット。

 一瞬で迫り来るホーンラビットにレビスはドゥゼアの言葉を思い出して横に飛ぶ。


 とっさのことで反応が遅くて脇腹をわずかにツノが掠める。


「こっちに走れ!」


 はじめての痛みに動揺するレビスをホーンラビットが追撃しようとしている。

 ドゥゼアの声に反応してレビスがとりあえず走る。


 再び頭のツノを突き出して突撃する。

 逃げきれない。


 ドゥゼアが飛び出してレビスとホーンラビットの間に割り込む。

 ナイフをツノに当てて軌道を逸らしながら逆の手でホーンラビットの耳を掴む。


「うらあァァァっ!」


 ホーンラビットの勢いを活かしながら回転して木に思い切り叩きつける。

 ツノの分攻撃力は高いが防御力は無いに等しい。


 叩きつけられて動けなくなったホーンラビットにナイフを突き立てる。

 近づいてみると意外と体がデカく、そのために好戦的だったのかもしれない。


 もう一度念のためにとナイフで喉を切り裂いてトドメを刺す。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫……」


「チッ、大丈夫じゃないだろ」


 脇腹から血が流れている。

 ちょっと待ってろと言い残してドゥゼアは森の中に消えていき、程なくして戻ってきた。


 手には葉っぱを抱えている。

 戻ってきたドゥゼアは何枚か葉っぱを重ねてナイフの柄で殴りつけて軽く潰す。


「痛いけど我慢しろよ。


 手で押さえてろ」


 葉っぱの汁が出てきたら軽く手で揉んでレビスの傷口に押し当てる。

 痛むが迷惑をかけたくなくてレビスは歯を食いしばって我慢する。


 持ってきた葉っぱは弱い薬効のあるもので薬にもならない潰して汁を傷口に塗るといくらか治りが早くなる。


「待ってろ」


 次にホーンラビットの解体に取り掛かる。

 頭を切り落として腹を裂いて皮を剥ぐ。


 腹に収まれば皆同じなので多少乱雑でも構わない。


「食え。


 食ったほうが回復が早い」


 もうビッグラットを食べているのでそんなに食べられないけど怪我をしたら食うのが1番。

 ゴブリンも腐っても魔物なので相手を食らえば回復は早くなる。


 半分にしたものをさらに半分にしてレビスに渡す。


「ありがと……」


「そう気にするな。


 結局はお前のおかげで狩れたんだし、生きていれば次がある」


 上手くやれずに落ち込むレビスを慰める。

 むしろホーンラビットの突撃をよくかわしたものだとすら思う。


 一度経験した。

 賢いレビスなら次はもっと上手くやれる。


 ドゥゼアは残りの半分を剥いだ皮で包む。

 やはり朝を食べると1日の動きが違ってくるのでこの肉は次の日の朝ごはんにするつもりだった。


「……いいか、ホーンラビットはだな」


 いまだに落ち込むレビスにホーンラビットの動きを教えてやる。

 血が止まるまで動けないし、このまま落ち込まれていたら空気が重くて仕方がない。


 ホーンラビットの突撃はゴブリンにとってしてみれば早い。

 決して余裕のある攻撃ではない。


 だが対処できない攻撃では決してないのだ。

 第一に攻撃は直線的。


 真っ直ぐに飛んでくるし、頭のてっぺんに生えたツノで攻撃してくるので突撃中は相手のことがほとんど見えておらず軌道修正や即座の追撃もない。

 第二に分かりやすい予備動作がある。


 大きく頭を下げて足に力を溜めて飛び出す攻撃の動作は見ていれば簡単に突撃を予想できる。

 事前に警戒をしていれば少ない動きでもホーンラビットの攻撃をかわすことはできるのである。


 ドゥゼアのように少し出来るものなら武器で軌道を逸らす、そのまま切り付けることもできてしまう。

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