ゴブリンは巣立つしかなくなりました1

 次の日ドゥゼアとレビスは巣を出て狩りの対象を探した。

 レビスはドゥゼアの指示を聞いて体勢を低く、音が出来るだけでいないように息を殺して慎重に進んでいた。


「……いた」


 予想していた通りの魔物がいた。

 ビッグラットが3匹少し離れたところに見えた。


 ビッグと言っても大体人の頭の大きさぐらい。

 デカいといえばデカい。


 バレないようにもっとゆっくりとビッグラットに近づく。


「レビス、俺は回り込むから手をこう上げて合図をしたらビッグラットに突っ込め。


 倒せるなら倒してもいいが無理はするな」


 ドゥゼアは手を真っ直ぐ上に上げてこうするのだと合図を一度ちゃんと見せておく。

 レビスは深くうなずき、ドゥゼアもうなずき返して移動を始める。


 嗅覚にはそれほど優れていないが耳はいい。

 音を出さないように気をつけてレビスがいる位置の逆側に回り込んでビッグラットを挟み込むような形となる。


 木の影から顔を出すとレビスとビッグラットが見える。

 レビスと目があって、ドゥゼアが手を上げて合図する。


 合図を待ち構えていたレビスは一気に木の影から飛び出してビッグラットに走り出す。

 ビッグラットはすぐさまレビスに気づいて走り出す。


 ゴブリンの身体能力ではすばしっこい四つ足の魔物に追いつくはずもない。

 距離を詰められたのは飛び出した一瞬だけで逃げるビッグラットとレビスの距離はあっという間に離れる。


 レビスは悔しそうな顔をするが十分に役割を果たしてくれた。

 走るビッグラットはドゥゼアの方に向かってきた。


 タイミングを伺い、ドゥゼアも木の影から飛び出した。

 ナイフを振り上げて1番近いビッグラットの首を目がけて振り下ろす。


 片手で持っていたところを両手にし、さらに力を加える。

 他のビッグラットたちは逃げ去って助ける様子もない。


 暴れるビッグラットの首から血が流れ、思いの外強い抵抗を必死でドゥゼアは押さえる。


「よくやった!」


 そこにレビスが駆けつける。

 ドゥゼアに協力せねばならない。


 槍を振り上げてビッグラットの頭に突き刺した。

 ドゥゼアとレビスでビッグラットの抵抗を押さえつける。


 少しずつビッグラットの抵抗が弱くなり、そこらを血まみれにしてビッグラットは力尽きた。


「はぁー!」


 ナイフを抜いて地面に座り込む。

 思っていたよりも抵抗してくれた。


 レビスの助けがあったから早く楽に終わらせられた。


「成功?」


「ああ、大成功だ」


「やった!」


 これで肉にありつける。

 虫も悪くないけどやはり肉がいいのは言うまでもない。


 少し休んでドゥゼアは立ち上がる。

 ナイフを使って首を裂いて頭を切り落とす。


 頭は頭蓋骨が硬くて食べにくいし可食部も少ない。

 余裕がなきゃ食べるけど今は余裕があるので頭は捨てる。


 他のゴブリンは気にしないだろうがドゥゼアは皮も剥ぐ。

 利用しようとかそんなつもりはなく、ただ毛が口に入ると感触が不味いだけだから。


 レビスはドゥゼアの手際を覚えるように集中して眺めている。

 そしてただの肉となったビッグラットを半分に分けてレビスに渡す。


「えっ」


「なんだ?」


「こんなに……」


「レビスのおかげで楽に狩りが出来た。


 正当な分け前だ」


 半分では足りないのかと思ったが逆にレビスは半分も貰えるなんてと驚いていた。

 本当は焼いて食いたいが火を用意するのも楽な作業じゃない。


 肉もそんなに多くないので生でもしょうがない。

 人の体なら生食は危険だけどゴブリンの腹なら生食でも全然大丈夫。


 胃腸の強さだけは人間を大きく上回ると思っている。

 ビッグラットの肉にかぶりつく。


 レビスは初めて食べる肉の味に感動したようでガツガツと食べきってしまった。

 量的にちょっと物足りない気もするが虫を腹一杯食べるより体に力が満ちてくる。


「美味いか?」


「美味い!」


 相変わらずゴブリンらしい可愛くない笑顔だけどなんだか愛嬌を感じるようになって気がしなくもない。


「少し休んだらまた獲物を探すぞ」


 競争を勝ち抜いて好き勝手やりがちなドゥゼアはゴブリンの中でも浮きがちでこのような協力者を得られないこともままあった。

 こうして手伝ってくれる相手がいるとかなり楽だ。


 しかも脅しているわけでもなく積極的に手伝ってくれる。

 多少長く生きられるように気にはかけてやろうと思わせられる。


 日が落ちるまでにあと2回ぐらいは狩りを成功させたい。

 ドゥゼアが立ち上がるとそれを見てレビスも立ち上がる。


 一度狩りをしたところはしばらく他の魔物も警戒してしまう。

 大人しくドゥゼアは狩り場を移す。


 このために巣の周りを見て回って狩り場となりそうなところは見繕ってある。

 2ヶ所目にいたのもビッグラットだった。


 1ヶ所目の時とやり方は一緒なので再びドゥゼアが回り込んでレビスがビッグラットを追い込む。

 そしてドゥゼアがビッグラットをナイフで刺して倒した。


 こちらも捌いて食べる。

 これでおよそ1匹分食べたことになり、それなりに腹もいっぱいになる。

 

 もう1匹ぐらい狩って保存して明日の分にするなりしておきたい。

 3ヶ所目に移動して魔物を探す。

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