やがて王になりし転生ゴブリン〜何度転生してもゴブリンだけど次のゴブ生こそ魔王を倒してみせる〜
犬型大
ゴブリンは復讐して死にました
燃える。
未熟な知識と不器用な指先で必死に建てた家。ようやく一通り揃ってまだまだこれからというところだったのに。
怒りではらわたが煮えくりかえる。
愛着があったわけではない。親愛とか馴れ合いとか感情も持っていなかったつもりなのに無性に腹が立つ。
『なぜだ……なぜこんなことをする!』
「何だこいつ? 何かギィーギィー言ってるぜ?」
「どうやらこいつが群れのリーダーのようだな」
「じゃあ何か、仲間を殺すなーとか言っちゃってんのかな?」
対峙するは冒険者パーティー。ランクはそれなりに高いようで装備品の質は良い。
冒険者の1人の剣士が持つ剣はすでに多くのゴブリンの血で濡れている。
出来る限り人間に迷惑をかけないように森の奥で生活していたのにいきなりやってきた冒険者に蹂躙された。
1人でも多く道連れにしてやる。
槍を構えて切っ先を冒険者たちに向ける。
「見てみろよ。一丁前に槍構えてやがるぜ」
冒険者たちがゴブリンを嘲笑う。
槍を構えたところでゴブリンはゴブリン。
よく見れば素人の構えではないのにゴブリンであるというだけでロクに警戒もしない。
「おい、あんまり油断するな……」
「うわあぁぁぁ! こ、こいつ!」
他の冒険者の方を向いて油断している冒険者に素早く近寄って槍を突き出す。
ドタドタと近寄ってくる他のゴブリンとは違い、しっかりと最短距離で近づき無駄なくシンプルに槍で突いた。
かつてどこかの冒険者が使っていた物をしっかりと手入れした槍だ。
斥候の脇腹にズプリと根本まで簡単に刺さる。
そこで終わらせない。
予想外の攻撃に冒険者たちは動揺を隠せない。
まだ致命傷というには足りないので傷を広げるようにわずかに捻りながらそのまま槍を引き抜き、もう一度突き刺す。
狙うは喉。
「きゃあああ! ベロン!」
「ふ……ごっ」
『まず1人』
グリっと槍を捻られた痛みとゴブリンに刺された怒りと何が起きたのかわからない混乱に行動は完全に遅れていた。
背の低いゴブリンが思い切り腕を伸ばして突き出した槍が斥候の喉に突き刺さる。
流石に喉を切り裂かれては治療もできないだろう。
槍を引き抜いて振るって血を払う。
何にしてもだ、ゴブリン相手に油断してやられるようじゃこの先どこかで死ぬだろう。
「貴様ぁ!」
冒険者たちのリーダーらしき剣士の男が仲間を殺したゴブリンに切り掛かる。
これまでの動きを見ていて実力の高さも分かっている。
どう考えたって敵わない相手だ。
だけどもう無傷で勝つつもりなんてない。
槍を巧みに操って剣を受け流す。
相手の力の方が遥かに強くて槍を持つ手が痺れるが何とか防ぐことができた。
「なんだと!
ヘレン、イムナス、避けるんだ!」
道連れにしてやると決めたのだ、1番厄介な相手は後回しにする。
次に厄介そうなのは回復魔法。
手前にいる魔法使いではなく聖職者を狙う。
「今治療するか……ら」
狙われていないと思うとガードは緩くなる。
あえて魔法使いを浅く傷つけると狙いは魔法使いだと勘違いして、すぐさま聖職者が傷を癒そうとする。
防御魔法は魔法使いが自身に張り、ゴブリンの後ろから剣士が迫る。
しかし魔法使いに追撃するつもりはなかった。
すぐさま魔法使いの脇を抜けると聖職者の腹に槍を突き立てる。
勢いがつきすぎたのか槍が貫通してしまいゴブリンの力では簡単に抜けない。
槍は諦めて手を離す。
「し、死にたくない……」
腹から血が、聖職者の目から涙が流れる。
助からないと思うが何かで援護されたら厄介だ。
腰のナイフを抜いて聖職者にトドメを刺す。
一応聖職者のまぶたは閉じてやる。
せめてもの情け。
「あ、ああああああ!」
魔法使いが発狂する。
こんな形で死ぬような仲間達ではなかった。
魔法使いの周りを炎が渦巻き温度がみるみると上昇していく。
「よくも、2人を!
ファイアストーム!」
全力の魔力を込めた炎の嵐がゴブリンに襲い掛かる。
炎が爆ぜ熱風に剣士が思わず顔を腕で覆って防ぐ。
「はぁっ、はぁっ……」
魔力が尽きて足に力が入らなくなった魔法使いはペタンと地面に座り込んだ。
全ての魔力を注ぎ込んだのだ、ゴブリン如きなら骨も残らないだろう。
これで全て終わった。
「えっ」
悔やむべくは聖職者の死体が魔法に巻き込まれてしまっただろうとすぐに冷静になって思った。
でも仇は取れたはずだと顔を上げた魔法使いの目にナイフが刺さった。
「どう……して」
力なく後ろに倒れる魔法使い。
もはや魔法使いに魔力もなさそうだし、トドメを刺さなくてもすぐに死ぬはず。
ゴブリンはグッと力を入れて自分の上にある聖職者の死体をどける。
逃げることも耐えることも出来ない魔法を前にしてゴブリンは一瞬の判断で聖職者の死体に飛びかかった。
聖職者の服を掴み、体ごと地面に転がるようにしながら聖職者の体をゴブリンの体の上に覆いかぶさるように位置を入れ替えた。
ゴブリンの腕力だけじゃ人間の体を持ち上げるのは無理だったので咄嗟の判断で体ごと入れ替えるようにした。
息を止めて熱風を吸い込まないようにして出来るだけ体を縮こめた。
それでも防ぎきれなくて腕の皮膚が焼けて火傷を負ってしまったけれど死にはしなかった。
完全に油断して地面に座っていた魔法使いを狙うのは簡単だった。
覆いかぶさる聖職者の体から少しだけ身を出してナイフを投擲した。
眉間を狙ったナイフはわずかに逸れて魔法使いの目に当たった。
狙いはズレたが当たった場所は悪くない。
これが火の魔法以外の属性で貫通力でもあるものだったら聖職者の体を盾にしても防ぎ切ることはできなかったろう。
運が良かったとゴブリンは思う。
全身が火傷で痛むけれどすくっと立ち上がって余裕があるように見せる。
もう1本のナイフを抜く。
これが最後の武器。
剣士は怒りを通り越して恐れていた。
たった1匹のゴブリンに3人が殺されてしまった。
戦闘職ではない聖職者だって戦おうと思えばゴブリン1匹に遅れを取ることはないのに。
得体の知れないゴブリンに全てぶち壊された。
しかし仇もとらずゴブリンから逃げるわけにいかない。
剣士は恐怖を振り払うようにゴブリンに切りかかった。
相変わらず一撃一撃が致命傷になりうる攻撃でゴブリンの力では受けることもかなわない。
けれども攻撃は単調。
剣士からは引きつけてかわしているように見えたがゴブリンは紙一重のギリギリのところで必死にかわしているに過ぎない。
ゴブリンはひたすら回避を続けて機会を狙う。
チャンスは一度だけ。
「バカに……してるのかぁ!」
反撃に出ないゴブリンに恐怖がどこかにいき、忘れていた怒りが沸き起こる。
出が素早くコンパクトな攻撃として剣士は突きを繰り出した。
今だ!
ゴブリンは剣に突っ込んだ。
剣先が皮膚を突き破り、内臓を傷つけ、体の後ろから出てくる。
まだだ、まだ進む。
「は……あ?」
視界が半分暗くなった。
醜悪な笑みが目の前にあって何が起きたのか剣士には分かっていなかった。
剣を手放して己の右目に手をやる。
深々と刺さったナイフ。
「この……化け物…………が」
剣士は結局は何が起きたのか分からないまま力なく地面に倒れた。
ゴブリンは自分の命を差し出した。
勢いよく刺さりに行って剣の根元まで行くことで剣士との距離を詰めた。
同時に自分の体で剣を封じ、剣士の動きを制限することまでできた。
ゴブリンがそんなことをするだなんて思っても見なかった剣士は動揺して完全に動きが止まった。
あとは腕が動いてくれればいい。
もはや痛みなんて感じない。感覚すら無くなっていたが剣士の顔めがけてナイフを突き刺した。
どこに刺さったのか、どうなったのかゴブリンには見えていなかった。
ただ薄れゆく意識の中でいつまでも剣が抜かれないことに成功したの確信していた。
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