目を覚ましたら、そこから

@hayasi_kouji

第1話 夢世界

 眩しくて目を覚ましたら、暖かな日差しが目に入る。机を腕で押し返すと、穏やかな風が吹き込んできた。


「なんや、この夢世界は」


 温かくて心地よくて、一人である。辺りを見渡すと、右前方へと机が整然と並んでいて、黒板がでかでかとあった。


「うーん、授業でもあったんだっけ?」


 机の横にも中にも、なんにも入っていなかった。というか、私服である。


「えぇんかな、こんなとこにおって」


 一転して居心地が悪くなる。音を立てる椅子が憎い。


 畳の上にビール瓶の破片が飛び散る。赤ちゃんの小さな足元と共に映る、最古の記憶だ。場面が飛び、電車の中で白いF1のミニカーを片手にいった。


「ぼくがまもる」


 その後は保育園、小学校と記憶は繋がっていくから、3つ違いで父違いの妹が生まれた直後だろう。ぼくも妹も父を知らない。


「そこが君の最古のトラウマか」


 声に目をやると黒髪黒目の美女がいた。教室を見渡しながら、うなずきを重ねている。


「学生時代にフォーカスされたものと思わせておいて、ふふ、君は隠すのが自然だ」


「ようわからへんけど、まずは挨拶しましょか。ぼくは」


「キスティス、だ」


 口の中で転がすと、不思議と甘い香りがする名前だ。


「聞かせてくれ」


「えっ?」


「君の全てを」


 心臓が高鳴って、視界が歪んで、嗚咽をあげる。ぽつぽつとシミを増やす机。


「使ってくれるかい?」


 差し出される白いハンカチ。何度も拭った。


「ありがとう」


 オレンジ色に染まる麗人に礼を告げた。


「なんでもするさ」


「なぜ?」


「君の全てを知る。その代償だ」


 無垢な瞳を向けてくる彼女に慄えた。


「この恰好も心を映したもん、ってやつかい?」


 上下、デニムに赤シャツの服を見下ろす。


「しょうゆうこと」


 白い指をこちらにさしながら、頬を染めていた。


「ボケとしては0点やけど、かわいいから花丸やな」


 椅子に腰掛けると、真向かいにふわりと座った。


「全てと言って、どこから話したもんかな」


「ほっぺが赤いぞ」


 麗人に誑かされた長い自分語りが始まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る