第6話 初恋の人

 俺は、コンディジオーネさんが普段、いる部屋にかけこんだ。


「コンディジオーネさん、ここにいると安全ではないのですか?」


「安全が保証できるなんて、話はしてなかったと思うが、記憶を改ざんしてないか?


私とスクイアットロが一緒にいても、何も問題が起こらないというだけだ」


 これは、辛辣な態度でしか俺には思えなかった。


「今日も、近場で死体が出たんです」


「そうか。


だとしても、どうすることもできないな」


 俺は、どうしてこんなに平然とできるのかと怒りがふつふつとわくのを感じた。

 こんな異常事態なのに、こんな冷静でいることができるなんて。


「なんとも、思っていないんですか?」


「そんなわけがないだろう。


悲しい気持ちや、哀れみもある。


だが、どうすることもできない。


ただ、それだけだ」


 俺は、かっとなって言ってしまった。


「どうにかしてくれないんですか?」


「スクイアットロの言う通り、

小学校入る前かつ、幼稚園に入りたての子供に、

どうやったわかるように説明しようか、これは悩むところだ。


いいかい?


世の中には、救える命と救えない命がある。


私も救える命だけかもしれないが、誰かを助けたい。


だけど、救えない命に出くわしたら、どうしたらいい?」



 俺の答えは、即答だった。


「それを可能にすればいい!」


「やはりな、自身には不可能なことは求めないものの、他人にはそれを求めるのか。


なら、そのわがままがいつまで通るのか、理解するまで教育だ」


 俺は、こうして様々な事情を抱えた人たちが通う学園に通うことをコンディジオーネさんにすすめられた。


 この学園は幼稚園から、小学校、中学校、高校、大学まであるという話だった。

 俺は、当然、幼稚園の年少クラスになるんだが、死に寄せにより、また同じ悲劇は繰り返したくない。


 俺は、コンディジオーネさんが理解できない。

 こんなに苦しいのに、どうして何もしてくれない?


 どんな学園に行こうと、変わらない。

 また同じ地獄を味わうのかという絶望感しかなかった。


 俺は泣きながらも、寮があるその学校に入ることになった。

 俺は無理やり行かされたために、学園内でもめそめそと泣いた。


 そんなところに、緑髪の女の子の声をかけられた。


「どうしたのですか?」


「君は、あの時の・・・・!」


「男の子が泣くところは、こんなにもかっこ悪いのですね。


久しぶりの再会のところだったのに、これは引いたのです」


 俺は馬鹿にされたようで、悔しさのあまり涙をふいた。


「泣いてないし、目にゴミがはいっただけ」


「わかりやすい嘘をつくのですね」


 緑髪の女の子は、クスリと笑っていた。


「この学園に来たら、先生が名前発表してくれるって。


よかったのですね。


君も、やっと名前を授かることができるのですよ?」


「どういうこと?


俺は、名前を持っちゃいけないんじゃないの?」


 不思議そうに問いかける俺に、なぜか緑髪の女の子は笑い出した。

 

「これが、平等っていうやつなのですよ。


名前を授かる権利も、生きる権利も、生まれた時からあっていいものなのですよ。


うち達のように、呪いを受けたからっていうことをなくそうっていうのが、この学園の目的なのです。


何も聞かされなかったんですか?」


 そう言われてみると、

 コンディジオーネさんは何か言っていたような気がするけど、

 俺はすでに大泣きしてしまって、

 彼の説明を聞けるような状態じゃなかった。


 あの時にしっかり話を聞いていればと、今更ながらに後悔した。


「この学園には、呪いに悩まされている人たちが集まるのですよ。


仲良くしましょうなのです」


「いいの?


俺も、友達を作っていいの?」


「それも、権利ですなのですよ。


君は、自信を持って生きていいのです」


 こうして、大人の人が入ってきた。

 綺麗な女の人だった。


「皆さん、静粛に。


私は、君達の担当をすることになった先生です。


名前は、アシーロと言います」


 アシーロって、足ていう意味?

 こうして、園児達と俺は「変な名前」と爆笑した。


「こら!


私だからいいですが、人の名前を笑うようなことをしてはいけません。


自分の名前が嫌いで、悩んでいる人もいます。


名前に誇りを持っている人もいます。


だから、名前を軽蔑することをしてはいけません」


 この先生は、真面目な雰囲気だけど面白い。

 

「さて、これから本題に入ります。


生徒の皆さんには、名前を与えようと思います。


この名前は、一生使えるので大切にして下さいね。


名前を忘れたとか、そういったことがないようにメモをとるとか、

工夫してみるようにして下さいわね」


 やった。

 こんな俺でも、名前をもらってもいいんだ。

 そう目を輝かせていた。


 ここで、一人の子供が反論した。


「先生が覚えていればいいじゃないですか?」


 その瞬間、アシーロ先生は顔を真っ赤にした。


「先生を何だと思っているんですか!


生徒一人一人の名前なんて、覚えられません!」


 これは、なんていうか・・・。

 完全なる逆切れだ。


「とにかく、そういうことで、名前を配ります。


いじめ寄せ、死に寄せ、不幸寄せ、

それぞれの運命を抱えているかもしれません。


ですが、辛い出来事の中に楽しい思い出さえあれば、それが心の支えになることもあります。


みなさんも、お友達のことは名前で呼んであげるようにして下さいね」

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