番外編 ちびっ子勇者

 水の天罰の神様の名前は、ワッサー。

 雷の天罰の神様の名前は、テュネー。


 臆病だけど、プライドが高い男の神様で、ワッサーからの天罰を受けると、泣くことができなくなるらしい。

 あいつは、泣くこと大嫌いだからな。


 身長160センチの女の神様で、テュネーからの天罰を受けると、怒ることができなくなるらしい。

 こいつは、怒られることにすごく弱いせいもあるだろう。

 そして、女装をしたくなるとか、身長をコントロールできるとか。

 黄色の瞳と、プラチナブロンドのミディアムくらいの髪を持つ。

 ピンクは好きではないみたいだ。

 一人称は「あたし」のなのです口調。


 僕は守護されているだけであって、天罰は受けてはいない。


 二人の神様に導かれるまま、俺は三人の天罰を受けた者を探した。


 どうやってか、無の天罰の神様の天罰を受けたラストリーと、鉄の天罰の神様の天罰を受けたユウヅキと、鋼の天罰の神様の天罰を受けたカルキを僕は、見つけることができた。

 

 そのまま、この三人は僕たちのギルドに入ることになった。


 無の天罰を受けると、人々からは透明人間と同じような扱いで、誰もラストリーの存在を認識できない。

 無というのは、何もないということを意味する。

 というか、ラストリーという存在がなかったこととなり、同じ天罰を受けている者同士か、天罰の神様の守護を受けている者しか、見えない。


 となると、ラストリーの存在を認識できるのは、今のところ俺と、鉄の天罰を受けているユウヅキと、鋼の天罰を受けているカルキと、炎の天罰を受けているユルトと、氷の天罰を受けているりとぐらいだ。


 ユウヅキは鉄を武器にして戦えるみたいだし、カルキは鋼を武器にできる。


 鉄と鋼が当たると、かなり痛いことは想像できる。


 俺は、異世界ではブオテジオーネ。

 若干、憑りつかれ体質だ。


 体は乗っ取られることはないし、知らない間についてこられることはない。

 存在は認知できる。

 ただ、知らない間に異質な存在に好かれてしまうだけで。


 異世界では、緑色の髪を持つ。

 異能力は、水属性。


 そして、僕の周りには様々なものが集まってくる。


 水の天罰の神様のワッサー。

 雷の天罰の神様のテュネー。

 一応、僕を守護してくれているみたいだけど、何から守護しているのかわからない。

 正直、邪魔でしかないように感じてくる。

 

 牛姫のムーウ。


 白の馬嬢は、メテオリート。

 三姉妹の末っ子。

 気品があって、馬の中で一番に美しい。


 黒の馬嬢のスターン。

 三姉妹の長女。

 性格はお転婆で、好奇心旺盛


 茶色の馬嬢のレーブン。

 三姉妹の二女。

 僕の苦手とするわがままで、高飛車なプライドの高い女性。



 事情があって、馬の姿になっているけど、詳しいことを話すと長くなるから、ここまでにしておこう。


 体全体が赤いリボンに巻かれて、ピンクのスクール水着を着たリボンちゃん。

 喋れないために、本名は不明だけど、リボン巻かれていることから、僕が勝手に名付けた。 


 無の天罰によって、透明人間同然の、誰からも存在を認識されないラストリー。

 こいつも、本名じゃないらしいけど、どういった事情かはわからないけど、本名を名乗れないでいる。

 僕は存在を認識できるけど、他の人は認知できない。

 天罰の存在であるラストリーを認識できるのは、水の天罰の神様と雷の天罰の神様のおかげでもある。


 氷の猿轡をしている少年は、りと。

 氷の天罰を受けていて、常に氷を口にくわえていないとだめらしい。

 暑さや高い熱を持ったものに弱い。

 氷属性。


 そして、最後に薄い緑髪で左目を髪で隠した、エルフの世界での王国の第四王女のおチビちゃんは、クウォーターエルフのニーノ。

 この子は、存在を認識できるし、憑いてくることはないけど、冒険をともにしている。

 次世代の、左目に力を宿した、ちびっ子勇者ということで。

 僕は護衛の役みたいだけど、この子は強いし、俺は必要ないんじゃないかと思うことがある。


 俺には、青髪の恋人もいるし、恋愛対象外だ。


 僕は、異世界では青髪ショートの女の子と付き合っているけど、詳しい説明は後程にしておこう。


 憑かれているせいで、体が重い。

 こいつらにも、それなりの事情があるとわかっていても、それでも一日でも早く俺の体から、離れてほしい気持ちがあった。


 僕の最初の任務は、囚われた副団長のアイリスの救出と、毒蛇どくへびという、いかに名前からしてやばそうなやつの救出と「ワンエイスの末路」とかいう、研究所を見つけ出すことだった。


「ここが、ワンエイスの末路か」


「ワンエイスの末路」という、看板もあるし、ここが例の研究所で間違いないだろう、多分。


 ここに、アイリスという女性と、毒蛇という男性がいるかどうかはわからない。

 俺も、実際に会ったことがないからだ。


 毒蛇が、異世界で有名な蛇使いの曾孫で、蛇使いと人間世界の人間とのワンエイス。


 アイリスが、世界を氷漬けにさせることができるくらの高い魔力を持つ大魔女であるハイエルフと人間の曾孫であるため、ハーフエルフでもなく、クウォーターエルフでもなく、ワンエイスエルフ。

 つまり、ハーフエルフの孫で、クウォーターエルフの娘ということになる。

 エルフの耳を持ってなくて、人間の耳らしい。


 エルフの耳は、人間の耳と比べて、優性遺伝子だから、エルフの耳が生まれやすいらしい。

 だけど、クウォーターエルフ以降となると、エルフとの血が濃くない限りは、エルフの耳は生まれにくくなるという話がある。


 そのせいか、クウォーターエルフであるニーノは姉である第一王女や第二王女を含めて、人間の耳。

 俺は会ったことはないから、聞いた話でしかないけど、第三王女は、エルフの耳らしい。


 僕たちの目的は、ワンエイスの末路からワンスイスたちを救いだすこと、

 アイリスや毒蛇を助けて、守り切ること、

 そして、四つごちゃんの中の一人で、ニーノの姉の一人である第三王女を見つけだすという目的があった。


 ワンエイスの末路は、ワンエイスを研究材料にしているらしいけど、目的は不明。

 僕個人としては、ハーフとか、クウォーターを研究材料にしていけばと思っている。

 その方が、研究のしがいがあると思わないか?


 俺は、とにかく痛そうなモーニングスターを持ち歩いていた。

 痛そうだけど、実際の威力がどうなのかはわからない。

 練習相手もいないし、致命傷になるかと思うと、練習相手をお願いしづらい。


 ニーノは、勇者であるために剣を持っているし、いざという時は、俺を守護している異質な生きているのか死んでいるのかわからない人たちが、どうにかしてくれるだろう。

 あんま、期待はしてないけどな。


 ワンエイスの末路の研究所の前まで行くと、さっそく見張りというやつらがいた。


「何しに来た?」

 

 ここは、正直に言っても、嘘を言ってもだめな気がした。

 しかも、腰には剣が入った鞘が見えている。


 下手なことは言わないでおこうと思うと、言葉につまる。


「えーと、あたち達は、アイリスと毒蛇を助けに来ましたわ」


 いや、これ、僕たちが邪魔しに来ていることをばらしているうようなもの・・・。

 やっぱ、ニーノというおちびさんには、隠し事はできないか。


 僕は、戦闘になる覚悟をした。


「そういうことなら、通れ。

ちなみに、どうなっても知らんぞ」


 通っていいの?


 俺とニーノは、研究所の中に入っていった。


 研究所が広く、どこに何があるのかもわからないし、どこをどう探せばいいのかもわからない。

 この研究所に対する地図もなければ、情報もない。

 入口の前で見張りをしていた人は、ただの雇われだから、それなりのアドバイスもできない。

 だから、手当たり次第、探す形となる。


 ここは、勘と運に任せよう。


「白衣を着ていないから、侵入者だ、多分」


 白衣を着た人が目の前にいたけど、多分って、確証もなく疑うなって。


「侵入者ですわ」


 ニーノが言うものだから、この子の口を塞ぎたい衝動が走ったけど、ここは冷静に対応しよう。

 俺が、不審者みたくなるからな。


「いえ、ここで働いている人です」


 自分でも、明らかにばればれな嘘だとわかるけど、とっさに思いついた嘘がこれだった。


「では、このチビだけ捕縛しよう」


 チビって、ニーノのこと?


 しかも、こんな簡単な嘘を信じるの?


 白衣を着た男の人が、ニーノに手を伸ばそうとしたけど、ニーノがその手を弾いた。


「触らないでくださいますの?」


「侵入者を見逃せるほど、甘くないんだぞ」


「こんなか弱い、小さな乙女に、触るなんて、非常識にもほどがありますわ」


 ニーノが怒っていたけど、非常識なのは君だ!

 まず、堂々と「侵入者です」って、明かしたのは紛れもなく、ニーノだ。

 この外見も、心も幼女が!


「ならば、今すぐ所長に会わせなくてはな」

 

「所長に会えば、何かご褒美がもらえますの?」


 なぜ、そう思った?

 このロリは「身柄を捕縛する」という言葉が、聞こえていないのか?


「ご褒美を期待するんじゃない、チビ」


 ご褒美を期待するとか、いつまで、幼稚園児や保育園児が持っているような発想を持ち続けているつもりだ?

 エルフは先祖代々かしこい種族と聞いたけど、クウォーターエルフまでくると、知能が落ちてくるのか?


 とにかく、事を大きくしないように・・・。


「つまり、従う必要すらもないということ・・・・ですわね?」


 何をしでかす気なんだ?


 雰囲気が急に変わった・・・。


 ニーノが剣を抜き、一撃で白衣を着た男性を倒した。


「倒しちゃったけど、いいの?」


 俺は、さすがに驚きを隠せないでいた。


「いいんですの、いいんですの。

目的は、ワンエイスの救出って、おっしゃられたではないんですの?


なら、どんな手段とかでも、問題ありませんわ」


 鬼だ、サイコだ。


 笑顔のまま、スキップするニーノの後を僕は追った。


 先頭きって歩いているけど、どこに向かう気なのか・・・。


 目的と場所にはたどり着けずにいたけど、ここで研究所にヒビが入った。


「一体、何が起こった!?」


「魔力の波動を感じる場所に、行きますわ」


「魔力に、波動なんてあるん・・・・?」


 走るニーノの後を追って、そこでたどり着いたのは、研究員を倒し、ワンエイスたちを助け出している、左目を髪で隠し、背中までの長い髪を持つ薄い紫髪の、たった一人の小さな尖った耳を持つエルフだった。


「リコルド・・・」


 僕は、その子の名前を呼んだ。


 三つ子ではないけど、三姉妹の長女で、性格も穏やかで、気品があり、常識的なニーノとは正反対の勇者の使命を持ったお嬢様で、その実力はニーノを超えていて「勇者嬢」として、世間に認められるぐらいだった。


 ちなみに、ニーノは人間の方の血が濃いクウォーターエルフで、そのためか人間の耳を持ち、知能も人間の子供並みでしかないが、こちらはエルフの方の血が濃い方のクウォーターエルフであり、リコルドはエルフ特有の尖った耳を持ち、身体能力や知能も、人間の子供とは思えないくらいだった。


 同じように勇者の予言を受けていても、素質はリコルドの方があった。

 リコルドの方が勇者として覚醒した年齢は早いし、一般人の中からは強いかもしれないけど、数々の勇者の中では、ニーノが最弱勇者であるのに対して、リコルドは最強の勇者だ。


「リコルド様・・・、どうしてここにいらっしゃいますの?」

 ニーノが、驚きを隠せないでいた。


「そんなことは、決まっているのです」


 リコルドは、一人称は「あたし」のなのです口調。

 長い剣を腰にしまいながら、話す。



「あたしも、ワンエイスの研究所を壊し、ワンエイスたちを助けるようにと、言われたからなのです。

アイリス様や、毒蛇様も、あたしが助けて救出したのですよ」


 すごい・・・・。


 こんな小さな体で、どうしてこんな力を発揮できるんだ?

 

 彼女こそが、予言の通りの、世界を救出すると言う、本物の「ちびっ子勇者」だ。

 間違いない。


 二人は、幼い頃に「左目に力を宿したちびっ子勇者の予言を受けていた」らしいけど、どちらが真の勇者になれるのかは、この時ははっきりしていなかったそうだ。


「あたち達が、迷子になっている間に、研究所の中から、囚われている人たちを見つけ出すなんて・・・・」



 俺も人のことは言えないけど、迷子になったのは、間違いなく、君が極度の方向音痴で、情報のない中、突っ走るからだろう?


「あたしは、無謀なことはしないのですよ。

地図とかも、持ってきているのです こうして、リコルドがどこからか、地図を出して、俺たちに見せた。


「研究所に来る前から、入手していたのです」


「そんな発想があったのですの?

悔しいけれど、あたちの負けですわ」


「やっと、負けを認めてくれたのですね?


ということは、明日からはこのあたしが、ブオテジオーネ様のパートナーとなるのです。


これで勝敗も決まりましたし、文句は一切と言わせないのです」


「あたちが負けるなんて、これからは、どうやって第三王女である姉を見つけ出せばいいのでしょうか?」


「ニーノ様が見つけられなくても、あたしが見つけるので、大丈夫なのですよ」


 そう、ニーノには言ってなかったけど、ニーノとリコルドで、試験を受けていた。

 どちらが、ワンエイスの末路という研究所を壊し、毒蛇やアイリスを助けられるのかを。


 そして、勝った方が真の勇者として選ばれ、俺は勝利した方のパートナーとなる。

 今、こうしてニーノの護衛をしていたのは、ニーノだけで行かせるのは不安という、上からの命令であった。


 勝敗は一目瞭然で、明日からは、僕はリコルドの相棒となる。


 元々、ニーノとはそっれきりにする予定だったし、俺としても、リコルドの護衛をしていた方が、まだ安心できる。

 ニーノは例え、どんなに強くても、計画性のない行動ばかりしかしてこないので、僕からしても勇者に向いていないことはわかる。


 この後は、ニーノは勇者ではなく、本格的に王女として王国にいることになった。

 ここで、試験が終わりということではなく、勇者として選ばれる称号をリコルドが得ることになっただけであって、ニーノからしてみれば父親だけど、ハーフエルフである、尖った耳を持つ王様からは「勇者として旅立つことができる」という称号をもらってなかった。


 つまり、第一次試験には受かったけど、第二次試験は受けていない状態。

 次の試験は明日からで、この試験に受かれば、リコルドと俺は、旅立つことができる。


 試験の内容と言うのは、行方不明になった第三王女を見つけ出すことだった。


 情報もない中、さすがにそれを見つけることは難しいと思っていたが、王様がいくつかヒントをくれた。


 ヒントが書いてある髪を、俺にくれたんだ。

 中にはいらなんじゃないかという、情報も書いてあった。


 エルフの耳を持つ。

 顔は、ニーノと似ている。

 名前は、バンビーナ。

 第一王女の育とは一日遅れて生まれて、第二王女のバンビーノと同じ日に生まれ、第四王女のニーノより一日早く生まれた。

 右目に不思議な力を持っているため、右目を髪で隠している。


 正直、情報が少なすぎるし、一日早く生まれようと、遅く生まれようと、行方不明捜しには関係ないと断言できる。


「王様、こんな情報だけではわかりません」


 娘も娘なら、親も親なのか。


「うむ、少しだけ情報を付け加えておこう」


 王様がメモを書いてくれたけれど、これは少しというレベルではなかった。

 見てみると、こんな内容だった。


 白い肌を持つ。

 行方不明になった時期は、今から3日前。

 身長は、四つごの中で一番高い。

 時期女王としての素質を、四姉妹の中で一番に持っている。

 ニーノとは、異母姉妹。

 隣国の王子と婚約し、居候して以来、我が国にはいない。

 

「王様、お言葉なのですが・・・」


 俺は、紙を握りしめながら、王様に怒りの炎をメラメラと向けた。


「なんじゃ?

まだ、情報が足りなかったのか?」


「行方不明って、言いましたよね?」


「それがどうしたんじゃ?」


「隣国の王子と居候して、この国にいないということが書いてありますが・・・・」


「そうじゃ。

我が国では行方不明扱いにはなっているが、隣の国にはおる」


「どこが行方不明だ!」


「ははははは・・・・」


 王様が、苦笑いをする。


 これで、よく王様になれたな・・・・。


「今までの苦労・・・・返してくれないか・・・?」


 さすがに、俺はこればかりは許せそうになかった。


「いやあ、その方が盛り上がるかなーって・・・・」


「お父様、それではバンビーナお姉さまは・・・・?」


「試練を乗り越えることも、時としては必要だということを学ぶためにも・・・・。


このでっち上げが、欠かせなくて・・・・」


「でっち上げかあ・・・。


じゃあ、この試練は、必要ないんじゃない?」


「わはははは・・・・」


 僕は、水を手から湧き出させ、痛くないしゃぼん玉をいくつか王様に噴射させた。

 しゃぼん玉は、王様の顔の前で、いくつか弾けた。


「わ、すまん。


許してくれ」


「暴力で解決されなかったことくらい、ありがたく思いな。


ということで、今日から、俺は旅に出るから」


「二次試験は合格とする・・・・。


だから、許しておくれ」


 こうして、王様からリコルドと俺で、勇者としての旅に出ることを許された。

 

「王様相手に、こんな技を放ってよかったのですか?」


「あんな話を大げさにする王様、王様でもなんでもない。


今日で、おさらばだ。


リコルド、今日からよろしくね」


「こちらこそ、今日からよろしくお願いしますなのです」


 こうして、リコルドと俺での旅が始まった。

 

 王様には洗いざらい白状させてもらったけど、ニーノが勇者としての予言を受けたというのも、王様のでっち上げで、左目に力を宿した、本物のちびっ子勇者はリコルド一人しかいないらしい。


 リコルド。

 氷属性の勇者嬢かつ、ちびっ子勇者。

 年齢は、10代。

 10代の幼女悪役令嬢の妹がいて、今から討伐に行くところ。

 そして、10代で、運命を抱えてしまった末娘を、守り切らなくてはいけないところ。


 悪役令嬢と言えば、大人の女性が好き放題しまくるイメージがあるかもしれないが、リコルドの妹の場合は違っていて、幼い段階で、幼女悪役令嬢に目覚めている。

 あいつの妹を見たこどがあるけど、性格は姉と正反対で、プライドが高く、わがままで、高飛車な性格。


 これから、幼女悪役令嬢のところに向かおうとしたところに、俺とリコルドはたくさんの兵士に囲まれた。

 ここは、お決まりの戦闘シーンが登場するところかと思いきや、この兵士たちは見覚えがある人たちだった。


 ここで、王様が登場した。

 さっきのでっち上げ王様だ。


「わしは、貴様は、リコルド勇者嬢の護衛に向いていないとみなした」


「その理由は?」


「わしが、気に入らないからじゃ」


「そんな理由が、成立すると思っているのか?」


「どんな理由であっても、たとえ、それが正当な事情じゃないとしても、王様の命令は絶対なのじゃ。


よって、貴様は今日から護衛を解雇とする」

 

「え・・・・?」


「ブオテジオーネを守護している者が、たくさんおるな」


「見えるの・・・?」


 確か、僕以外は存在を認識できないはず・・・。


「見えるぞ。なぜなら、わしは王様だからな」


「言っている意味が、わからない」


「とにかく、貴様を守護している者たちを、リコルド勇者嬢のことを護衛する守護髪神にしてもらい、よってブオテジオーネを、勇者パーティーを追放とする」 


 王様が、俺には聞き取れない呪文を唱えたら、俺を守護しているりと、リボンちゃん、三匹の馬嬢、牛姫のムーウ、ラストリー、テュネー、ワッサーなどを引きはがされ、リコルドの方に憑いてきた。


 そして、僕は飛ばされた。

 俺が王国にやってくる前にいた、ギルドに・・・。


 ギルドに、瞬時に飛ばされた俺は、ユウヅキとカルキに、任務の失敗を話すことにした。

 雇われ勇者嬢の護衛をして、ギルドから報酬をもらうはずが、俺はかっとなってしまった。

 それが、まさか勇者パーティーの追放をされ、俺に憑いている者たちを引きはがされて、リコルドに憑いていくことになるとは・・・。



 おかげで、無重力かのように体が軽くなったけど、俺は若干の憑かれ体質のために、また新しい者が憑いてくるような気もした。


 だけど、僕は一人で何ができそうな気がしなかった。


 ユウヅキや、カルキも、僕の味方になってくれると手を差し伸べてくれても、水と鋼と鉄で、一体、何ができるんのだろうか?


 俺が一人で落ち込んでいるところに、ギルドの女性で、腰まで長い青髪を持つ小柄な勇者嬢のコレジョージョが、話しかけてきてくれた。


「いつもより、顔色が悪いのですわ」


 コレジョージョは、一人称は「あたし」でなのです口調で話す。

 リコルドと違うところは、時々「なのですよ」と話すところが、彼女は「なのですわ」となる。


 穏やかで、気品があるリコルドは忠誠心が高く、王様や上からの命令に絶対に逆らわないけど、コレジョージョも、同じ勇者嬢だけど、全然似ていない。

 コレジョージョはお人よしで、困った人には手を差し伸べられるくらいの行動力を持ち合わせ、自分なりのプライドがあるために、上からの命令は基本は嫌がるけど、人助けのためなら、動いてくれる。

 勇者嬢だけど、ギルドにいるのは、この性格のためだと思う。


 いつもより、顔色が悪いって・・?

 俺は、いつも、顔色が悪いのか?


「任務失敗したことに、落ち込んでないから」


「ということは、落ち込んでいるのですか?

かわいいのですわ」


 かわいいって・・・・。

 まるで、俺が女子かのように扱うの?


 肩まで髪を伸ばしてたら、実質、女子のようなものか?


「俺、勇者嬢の護衛、向いていないかもって、近頃から感じていて・・・。

だけど、こんな俺でも守れるものがほしいんだ」


「そしたら、勇者嬢にこだわらなくてもいいと思いますのですわ。

巫女でも、聖女様でも、守りたい者を守れたら、それはそれで、護衛が成立するのです」


「そっか・・・・。


俺は、勇者嬢にこだわりすぎたのか・・・?」


 この世界が、どうなっているとかよく知らない。

 異世界転移して一週間もたっていないし、右も左もわからない状態で、とにかく勇者嬢を守ることだけが、この世界の常識だと思っていた。


 だけど、素人の僕に、護衛なんて役割が務まるわけがないって、どうして、わからなかったんだろう?


「ブオテジオーネちゃまは、いつも頑張っているのです。

毎日、努力しているのですわ。


だから、あたしはいつでも応援するのです。

相談に乗るのですわ。


だから、ブオテジオーネちゃま、あたしを頼ってくれないのですか?

むしろ、頼らせてくださいなのです」


「はあ、しょうがないな。


今だけ、頼らせてもらおうっと。


なぜなら、新しくできたパーティーメンバーがユウヅキと、カルキしかいないんだ」


 こうして、俺、コレジージョ、ユウヅキ、カルキの四人でのギルド内で勇者パーティーが結成された。

 

 コレジージョは、勇者嬢だけど、髪で左目を隠しているようなことはない。

 どいういうわけだが、右目を髪で隠している。


 鋼と鉄と、水と炎で、パーティーを組めば、ほぼ最強のパーティーメンバだ。


 ちなみに、炎はコレジージョのことだ。


 だけど、そこでギルドを兵士たちが襲ってきた。


 そう、このギルドを襲う元凶は、あの王様だった。

 俺を、追放した・・・・。


 王様の名前は、バレシメントで、ハーフエルフの王様。


「兵士どもよ、このギルドを壊せ!

ブオテジオーネ以外は、皆殺しだ!」


 え?

 今、なんて?


 兵士たちとギルドメンバーたちが戦い、互角の勝負だったところを、リコルドが加戦して、そこから、俺たちのギルドメンバーが倒れていった。

 リコルドは、強い。

 味方でいれば心強いけど、敵となると厄介。

 そんなリコルドが王様の命令によって、ギルドメンバーを攻撃して、倒していく。


 目の前で、俺の大事な親友である、ユウヅキやカルキも倒していった。


 嘘・・・!


「ユウヅキ!

カルキ!」

 


 俺は、何もできないでいた。

 目の前で、死んでいくギルドメンバーたち。


 最後に、コレジージョとリコルドの激しい戦いが始まった。


「あたしだけでも、生き抜いて見せるのですわ!

ブオテジオーネのために」


「これは、王様の命令なのですよ。

コレジージョと言うのですか?


死ぬのです!」


「リコルド、やめてくれ・・・・。


これ以上、俺の大切な人を奪わないで・・・・」


 俺は、涙が出ていた。

 普段は泣かないけれど、あまりの悲劇に耐えられなかった。


「いいえ。

これは、命令なのですよ。


確実にこなさないといけないのです」


「君には、人の心がないのか・・・?」


 我ながら、ひどい言葉を発したと思う。

 だけど、リコルドのやることはいくら、王様からの命令であっても、理不尽以外の何物でもなかった。


「あたしにあるのは、王様のための忠誠心だけなのです。


人の持つ、感情なんていらないのですよ」


 この時、リコルドには何を言っても、無駄だと痛感した。


 リコルドは、命令されたら動くだけの機械同然の人でもなけば、魔物でもない、感情を持たない操り人形なんだって。


「コレジージョ、逃げよう・・・。


これ以上、誰かが失うのは耐えられないからさ・・・」


 僕は、泣いていた。

 涙は止まることなく、ただあふれるばかりだった。


 水を操ることしかできない俺には、リコルドと戦う戦闘能力は秘めていない。


 ひとつだけ、願いが叶うなら、俺はコレジージョと逃げ切りたい。


 コレジージョとリコルドは互角の力を持っていて、いつまでも勝敗が決まらないところを、王様が後ろからコレジージョを刺した・・・。


 え?刺した・・・?


 コレジージョは、その場に倒れこんだ。


 俺は泣くどころか、目の前が灰色の世界に染まった。 


「王様、あたしはやったのですよ」


「よかろう、帰るとしよう」


「待ってよ・・・。


どうして、こんなひどいことをするの?」


「そんなもの、お前が気に入らないからに、決まっておるだろう。


ブオテジオーネ」


 こうして、二人は俺に背を向けて帰っていった。


 この後、俺はギルド大量殺人事件の罪を、王様から着せられることになって、この世界で指名手配犯となり、常に追われた。


 この世界のすべてが敵となった・・・。


 逃げろ、逃げろ・・・。


 逃げるんだ・・・。


 逃げ切るんだ・・・・。



 俺は、賞金首にもなった。


 そして、ユウヅキとカルキの魂の行方は知らないけど、コレジージョの魂は俺の憑いていくことになった。


 これで、体が重くなるけれど、孤独にならなくてすむ。


 寂しい時は、コレジージョとの会話が、心の支えだった。


 だけど、厄介なことに魂だけの存在も、王様には見えてしまうから、俺はコレジージョを守るために、逃げ切らなくてはならない。


「ブオテジオーネ、あたくしはもうすぐ成仏しますわ」


「え?」


 成仏したら俺が孤立してしまうし、このまま憑いていたら、王様がどうしていくのかわからない。


「君は、死んでも大丈夫なのですわ」


「どういうことなんだ?」


「じきにわかりますのですわ。


君が何者で、どうしてこの世界に来たか、とか。


ですので、死んでもなんとかなるのです。

安心してくださいなのですわ」


「何を安心するんだ?」


 何も安心できないし、不安と恐怖でしかない。


「君の使命は、この世界の勇者と名乗る、悪役令嬢を倒すことなのです」


「さっきから、何を言っているのか、さっぱりわからないのだけども」


「いたぞ!


災いを呼ぶ、不吉な緑髪の水属性、ブオテジオーネだ!」


 兵士、騎士、軍隊などにとうとう囲まれてしまった。


「あたしの役目は、もう果たしましたなのですわ。


さようならなのです・・・」


 こうして、コレジージョは消えていった。


 俺は、たくさんの人たちにつかまり、死刑にされてしまった。

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