歩く死神の魔力

野うさぎ

プロローグ

 俺は、生まれた時から研究所にいた。

 どうして、そこで育つことになったかはわからない。


 俺は、研究材料であるがために、名前がないという話があったが、当時の俺は納得できなかったけど、大人たちに反発できるほどの勇気も、力もなかった。

 体の大きい大人に叶わないことは、一目瞭然だから。


 そして、俺の髪は生まれた時から切ったことがないために長かった。


「この個体は、使い方がわかっていないようです」


「では、明日から能力を引き出せるようにしよう」


 俺は、その時は自分の個室にいた。

 この個体って、誰のことを言っているのかわからなかった。


 なぜなら、この研究所にいる子供たちは、みんな名前がない。

 どうして、名前がつけられないのかわからないけど、俺は心底「名前くらい、つけてあげてもいいのに」と思っていた。


 次の日になれば、白衣を着た一人の男性に俺は呼び出された。


「何でしょうか?」


 俺は、おそるおそる聞いてみた。


「君は、自分の能力を自覚しているか?」


 唐突な質問で、俺は動揺を隠しきれなかった。

 今まで、こんなことを聞かれることがなかったから。


「自覚・・・・していないです」


「そうか。


調べたところ、君は何かしろの属性を持っているようだが」


「・・・属性?」


 俺は、何のことだかさっぱりわからなかった。

 

 生まれた時から、研究所の個室の中に閉じ込められて、体を調べれるだけの日々の中で、自分自身のこともわかってすらいないのに、何の説明もなしに、能力のことを言われても、頭の中はクエスチョンマークでしかなかった。


「君は、特殊な力を持っているんだ。


だから、能力を引き出せるように頑張っていこう」


「はい・・・・?」


 俺は意味もわからず、返事をした。


 俺は、白い個室に戻る戻ることになった。


 白い個室には、白いベッドがある。


 本棚はあるけど、娯楽みたいなものはなくて、ぜんぶ勉強に必要な本だけだった。

 俺は、勉強というものを強いられてきたせいか、この年齢の子にしてみては、学力が高い方だと思う。

 すでに、ひらがなやカタカナの読み書き、漢字もできていた。


 その子供たちは様々な年齢もいたし、中には年齢がわからない子もいた。

 子供たちは、研究所にいる時から髪を切ってもらえないために、髪の毛はみんな長かった。

 髪の色は、ピンク、水色、青、黄色、オレンジ、赤、白、銀、栗色、紫、緑などたくさんの髪の色がいて、黒髪が珍しいくらいだった。


 髪を切らないのか、切れないのかわからないけど、とにかく切らしてもらえなかった。


 ある時、研究員に呼び出された。

 白衣を着た人同士が会話していた。


「おかしいですね」


「やっぱり、勘違いだったんじゃないですか?」


「そんなことはないはずなのですが・・・・」


 研究員が、言葉を濁していた。


 研究員たちが集まり、俺の体を調べていた。

 

「やはり、波動を感じますね。


もしかしたら、奥の潜在的な部分で眠っているのかもしれません。


そこは、何としてでも引き出さなくてはなりません」


「ですが、そんな簡単に引き出せるのですか?


呪文とかも唱えられないみたいですし」


「たしかに、この子の詳しい情報がないんですね」


「ということは・・・・?」


「我ら、研究所でも、この子には未知な部分が存在します」


「となると、自然的な方法で能力を引き出すことは、厳しい見込みですか?」


「厳しいってことは本来ならないかもしれませんが、正しい呪文もわからない、本人が能力を自覚していないとなりますと、そのような結果になります」


「そうか。


なら、無理やりにでも、能力を引き出せるようにするしかないな」


 俺は、大人たちの会話を聞いていたけれど、何のことを言われているのかよくわからなかった。

 幼い俺には、難しい内容でしかないのか、俺の方に研究所内での情報が共有されていないから、よくわからないのか。


 だけど、どうしてなのかはわからないけど、いやな予感しかしなかった。


「おめでとう」


 研究員の人に、喜ばれた?

 幼い俺は、状況が把握できずにいた。


「これから、君は、外の世界に出ることを許可されるようになったんだ。


これかは、戦うか、普通の人たちと同じように幼稚園に行くか、どちらがいいかい?」


「戦うって、痛いのが待っているのはいや。


だから、幼稚園の方がいいです」


 その時の俺は、後先のことなんて、あまり深くは考えてなかった。

 とにかく、今のこの状況から、抜け出せるのなら何でもよかった。


 後から、わかったことがあった。


 俺のまわりにいるだけで、人が死んでいく・・・。

 俺のいる場所には、必ずと言っていいほど、殺人事件、自殺、事故死など、死に関わる事件が起こる。

 それが、死に寄せ。


 研究所にいた頃も、研究員が何人か死んでいったと、スクイアットロから聞かされた。


 今日は、俺の両親が事故により、亡くなった。

 それで、俺は児童養護施設に入所することになったのだけど、そこでも誰かしろが死んでいくんだな、と想像ができる。

 この、死に寄せの魔力が消えない限りは・・・。

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