7🏡レイの恋物語💓

オカン🐷

第1話 おんまが走る


「ねえ、ガクさん、髪切らないの? レイが切ってあげようか?」

「い、いや、いいです。美容室行きます」


 レイは顔に覆い被さるガクの髪を黑ゴムで1つにまとめた。


「ほら、せっかく綺麗な顔してるのにもったいないよ」


 細面の顔は鼻筋が通って、切れ長の涼やかな目元をしていた。

 ガクにしなだれかかるようにして、膝の上に手を置いて立つルナは、自分のツインテールの髪からリボンを外し、レイに手渡した。


「あら、ガクちゃんとお揃いにするのね」


 今朝、ルナの髪をとかし、結んだリボンだった。

 それを今度はガクに結びつけた。


「アクちゃ、おそろ、おそろ」

「何か、おどろおどろしいみたいだけど、ルナちゃん、ありがとう。ところで幼稚園は行かなくていいの?」

「いやあ」


 レイは吹き出しそうになるのを堪えた。


「3日目で登園拒否なの」

「そりゃまたどうして? ルナちゃん、幼稚園、楽しくなかったの?」

「ちなちゃい、ちなちゃ~い」


 レイはガクの毛先にブラシをかけながら言った。


「ああしなさい、こうしなさい言われるのがいやみたい。ブロックでシンデレラ城があと少しで完成するのに、片付けなさいって壊されたんですって。そのあと、お昼寝しなさいって」

「そりゃ、ルナ姫怒るわな」


 同じダイニングテーブルの反対側に座る哲平が同意した。


 思い出したかのように、ルナは首にかけてある赤い笛を吹いた。


 ピッッッッィ。

「おお、小さいのに肺活量がある」

「ちょっとの息で結構大きな音がするの。一平兄ちゃんが、もし何かあったら吹けって買って来たの。でも、この部屋だったら聞こえないよね」


 ピッ。


「レイちゃ、やるの」

「ああ、ガクさんもレイの肩に手を置いて」

「えっ、何するの?」

「おちゃべりちない」


 ダイニングテーブルの回りを列をなして動きだした。


「おんまはみんな、ぱっぱ、はしう、ぱっぱ、はしう~、おんまはみんな、ぱっぱ、はしう~」


 ピッッ。


 ルナの笛が鳴り、哲平が指をさされた。


「えっ、俺もやるの?」

「遼平たちは毎日やらされてるそうよ。哲兄もつき合ってあげて。ルナちゃん、幼稚園でこれの先頭になりたかったんだって」


 ルナは胸の前で両手を馬の足のように曲げて動かしていた。


「おい、おまえたちも付き合え」


 ほかのスタッフも巻き込んで、いい大人がダイニングテーブルの回りを繋がって回って、人様には見せられたものではなかった。

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