第12話 追放した人がヒロイン 転
彼女達に追放されてから、1か月が過ぎた。
ボクはどうやら、ショックなことがあると部屋から出たくなくなるらしい。
何をするでもなくずっと、宿でぼんやりしている。
朝起きてから寝るまでずっとだ。
その変わり映えのない日々のおかげで、ようやく、少しずつ、事実を受け止められてきた。
彼女達はもともと、3人のパーティーだったんだ。
ボクは駆け出しの彼女達に知識を与えるためにパーティーにいた。
それが不要になったなら、パーティーを去るのが当然だ。
いつまでもボクがぐずぐずと居座ってるから、彼女達もしびれを切らしたんだろう。
それはしょうがないことだと、思えるようになってきた。
ただ、やっぱり胸の中は空っぽだ。
埋まりかけていたものが、またなくなってしまった。
いや、以前よりひどい。
もうボクは、この穴を埋めることを諦めそうだ。
結局、ボクと彼女達の間にあると思っていたものは、ボクだけのものだったんだ。
彼女達と冒険して。
いくつかの幸運を喜んで。
いくつもの危機を乗り越えて。
いろんな経験を共有して。
いろんな感情を分かち合った。
それらを経た彼女達との間に、絆を感じていたんだ。
以前、母や姉、妹に感じていたのと同じ種類のものを。
ボクの胸から伸びるそれは、彼女達に通じてると思っていたんだ。
でも。
それを辿ってみると実は、その辺の木にくくりつけてあって。
離れたらちゃんと引っ張ってくれると喜ぶボクを、彼女達は遠巻きに眺めていただけだった。
でも、彼女達に否はない。
悪いのは、勝手に彼女達のイメージを作り上げていたボクの方だ。
そのイメージが現実の彼女達と違っていたからといって、裏切られたなんて主張するのは間違ってる。
それは分かってる。
それは分かってるんだけど。
とにかくもう、ボクは疲れた。
なんだか、他人と関わることが嫌になった。
これからは、一人で生きていこう。
一人で生きていくと決めてしまえば、少し楽になった。
期待するから悲しいんだ。
その相手がいなければ、こんな思いはせずにすむんだ。
結局それが、この一か月間で、ボクが出した結論だった。
―――――
さて。
できることならもう少し何もせずにいたいけど、世界はそんなに甘くない。
そろそろ財布の中身が心もとなくなってきたのだ。
しかたないから、クエストをこなすしかない。
ボクはようやく部屋を出て、ギルドへと向かう。
日差しがやけにまぶしい。
風が少し心地いい。
そういえば外の世界って、こんな感じだった。
ギルドで適当にクエストを選んでると、噂話が聞こえてきた。
「あの、きれいな女が3人いるパーティーあるだろ?」
「ああ」
「なんか、Cランククエストから5日間戻ってないらしいぞ」
「えー、まじかよ。死んだのか?
青い髪の子、タイプだったのになぁ」
「はっ。そんなこと言ってると、あのリーダーにぶん投げられるぞ」
「違いねぇ。剣聖じゃねえかって話だろ?
1年前に格闘王のユバルがボコボコにされたんだもんな」
「あれがもう1年前か……。
時が過ぎるのは早えなあ」
「まああの剣聖がいるなら、Cランクくらい問題ねえだろ。
大方、クエストのついでにダンジョンでレベリングでもして、時間を忘れてんじゃねえか?」
「そんなとこだろ。
まぁ、たとえ死んでたって、しょうがねぇな。俺らにゃ関係ないことだ。
ところで、B地区の新しい酒場あるだろ?
あそこの……」
「おい」
男達は会話を邪魔されて、不快そうにこちらを見た。
「ああん?
なんだてめぇは……って剣聖じゃねえか!
な、なんだよ?」
「今の話、詳しく聞かせろ」
「あん?
お前のパーティーの話だろ。
お前が一番知ってるんじゃ……ってなんでお前、ここにいるんだ?
あの女達と一緒じゃなかったのか?」
「いいからさっさと話せ!」
テーブルに拳を叩きつける。
男達はおびえた口調で言った。
「い、いやだから、あの、お前がいつも連れてる女達が、ダンジョンから帰って来てないって……」
「どこのダンジョンだ?」
「え?」
「どこのダンジョンだって聞いてんだよっ!」
「あ、あそこだよ。
あの、街の東にある、Cランクダンジョン!」
その言葉を聞いて、ボクは即座に駆け出した。
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