こんな追放ものはイヤだ!~出オチ短編集~

@nyaooon

第1話 追放したリーダーが、病気で長くない 起

「アルフォンス、お前はこのパーティーに不要だ。

 今日限りで、パーティーから追放する」


 いつものダンジョン帰り。

 唐突に、パーティーリーダーである兄にそう告げられた。


「……は?

 兄貴、何言ってんだよ?

 俺の魔法がなきゃ、このパーティーやっていけないって。

 なぁ……何かの冗談だろ?」


 そう聞き返すが、兄の表情は厳しいままだ。


 救いを求めて、他のメンバーを見る。

 エルヴィン、ナターシャ、サラ。

 みんな俺達兄弟と同じ村の出身で、幼馴染のメンバー達。


「…………」

「…………」

「…………」


 三人は口をつぐみ、目を逸らす。

 おいおい、やめてくれよ。

 そんな反応されちゃ、まるで兄貴が本気で言ってるみたいじゃないか。


「なんだよ、みんな。

 どうしたって言うんだよ。

 ついこないだまで、普通に楽しくやってたじゃないか」


 皆、子どもの時から一緒に育った、気心知れた仲間たちだ。

 ただ、近頃は少しだけ、皆がよそよそしく感じることはあった。


 しかしこんな一方的に、断絶を言い渡されることなんてありえない。

 それだけの関係が、俺たちの間にはある。


「なぁ、エルヴィン。

 子どもの時から、兄貴と3人で一緒に遊んだよな。

 祝福の儀の時だって、俺に戦闘職が出て、パーティーを組めるって喜んでくれたじゃないか。

 忘れちまったのかよ、おい」


 そう言いながらエルヴィンに近寄る。


 そして、肩を突き飛ばされた。

 エルヴィンの反応が全くの予想外だった俺は、無様に尻餅をつく。


「……俺は、昔からお前のことが嫌いだった。

 あの時喜んだのは、お前と組めばミッシェルとも組めるだろうと考えたからだ。

 でなければお前みたいな無能と、パーティーを組むことはなかった」


 エルヴィンは俺に謝りもせず、見下しながらそう言い放った。


「……え?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 パーティーを結成したあの日。

 それは俺にとって原点ともいえる、大切な思い出だ。

 Sランクの冒険者になろうと皆で誓ったあの日を支えに、今までやってきた。

 あの日エルヴィンが俺に向けた笑顔が……偽物だった?


「嘘だろ?

 なあ、エルヴィン。

 嘘だって、言ってくれよ……」


 エルヴィンは顔を背け、俺を見ようともしない。

 その姿に、俺の頭が沸騰する。


「おい! 聞いてんのかよ! エルヴィンッ!!」


「やめろ、アルフォンス」


 立ち上がって。

 エルヴィンの胸倉をつかもうとしたが、兄貴の腕に阻まれた。

 剣聖である兄貴の力には、俺ではまるで敵わない。

 どれだけ力を込めても、それ以上エルヴィンに近寄ることはできなかった。


 兄貴は俺を無表情に見つめている。

 まるで素材を取り終えた魔物の死骸でも見るような視線だ。

 この15年間、一度も向けられたことのない視線。


「くそっ。

 なんだってんだよ。

 なぁ、ナターシャとサラも、何とか言ってやってくれよ」


 それに耐えられずに、兄貴の横にいる二人に話しかける。

 いつも優しい二人。

 パーティー最年少の俺を、弟のようにかわいがってくれていた。

 だが。


「正直、ずっと疑問だったのよね。

 アルフォンスって、なんの役に立ってるんだろうなって。

 ミッシェルの弟だから今まで優しくしてきたけど」


「そうなのよね。

 戦闘中、後ろの方でなんかぶつぶつ言ってるだけじゃない。

 魔物から一番遠い位置でさ。

 そのくせ、戦闘後はなんかやり切ったような顔してるし。

 気持ち悪いなって、ずっと思ってたよ」


 彼女達は、そんなセリフを淡々と述べた。


 ……おい、嘘だろ。

 こいつら、言うに事を欠いてそんな――そんなことを。


「待てよ!

 前から言ってるだろ!

 俺の職業は占星術師!

 戦闘中の“確率”を操る職業なんだ!

 今日みたいな高ランクのダンジョンに潜れるのも、俺の補助があってこそなんだ!」


 激昂して、俺は叫んだ。

 しかし、皆の反応は冷ややかだ。


「はいはい、そうだよねー。

 ずっとそう言ってるもんねー。

 でも私達は実際、その恩恵を感じてないんだよー。

 そうなると、本来私達だけのものである名誉と報酬を、あなたが不当に掠め取ってるって思っても仕方ないじゃない?」


 サラがあきれたように言ってくる。


「っふざけんなよ!

 スキルの効果は開示できる!

 ほら、よく読めこのバカ!」


「あはっ。

 ごめんなさい、私バカだから。

 確率がどうとか言われてもよくわかんないなー」


 俺がスキルを提示しても、サラはそれを見る素振りもない。


「……おかしいだろ!

 ついこの間まで、ちゃんと理解してくれてただろ!

 俺のレベルが上がる度に、おかげで戦闘が楽になったって!

 そう言ってくれてただろ!」


「それは、ミッシェルの不興を買いたくなくて、適当にお前をおだてていただけだ」


 エルヴィンが、冷たく言い放つ。

 前衛のタンク役で、俺のスキルの恩恵を一番受けているはずの、エルヴィンが。


「長年そうやってきたが、ついに限界がきたんだ。

 俺とサラとナターシャで、ミッシェルに直談判した。

 そしたらすんなりと、同意してくれたよ。

 『俺もそれがいいと、ずっと思ってた。お前らが褒めるから、使ってただけだ』ってな」


 その言葉に、背筋が凍る。

 確かめるように兄貴を見ても、否定の言葉はなかった。


 バカな! バカな! バカな!

 そんなこと、あるわけがない。

 兄貴も、皆も、俺のスキルなんて嘘っぱちだと思ってた?

 効果がないと思ってた?


 じゃあ、初めてAランクダンジョンを踏破した時のあの充実感は?

 Aランクに上がった時、喜びを分かち合ったあの夜は?

 苦戦したボスを何とか倒せて、お前のおかげだと言ってくれたあれは?


 ――全部全部全部、嘘だったって言うのか!?


「嘘だ!

 そんなわけないっ!

 そんなわけないだろっ!」


「嘘じゃない。

 みんな、お前をいらないと思ってたんだ」


 兄貴が、氷のように冷たい口調で言った。


「……じゃ、じゃあ、試してみればいい!

 一度、俺抜きでダンジョンを攻略してみてくれよ!

 そうしたら、俺がどれだけこのパーティーに貢献してたのか、わかるはずだ!」


 必死で訴える。

 気づけば涙がこぼれていた。

 たとえ過去が全部嘘だったとしても。

 俺はこのパーティーが好きなんだ。

 このパーティーだけが、俺の生きがいだったんだ。


 実直で誠実な兄貴。

 朗らかで頼りになるエルヴィン。

 抜けてるけど優しくてかわいいサラ。

 冷静で視野が広いナターシャ。


 皆、大好きだったんだ。

 俺の夢は、このパーティーでSランクになることなんだ。


 こんなのは、何かの間違いだ。

 まだ、取り戻せるはずだ。

 皆のこの態度は、俺の能力への誤解から生まれてる。

 その誤解さえ解ければ、また以前のようにみんなで楽しく冒険できるはずだ。


「それはいい考えだな、アルフォンス。

 では、次のダンジョンはお前抜きで挑もう」


 初めて。

 意見を肯定された。

 よかった。

 まだ俺は、ここにいられる。


「ああ、そうだよ!

 そうしてくれ!

 そうすれば俺の――」


「そして、その次も。それ以降も。

 永劫、お前抜きでダンジョンには挑む。

 お前はこのパーティーに必要ない。

 ……さらばだ、アルフォンス」


 兄貴はそう言うと。

 くるりと踵を返して歩いていった。

 仲間達――仲間だった人達――もそれに追従する。


「……嘘だ」


 膝から崩れ落ちる。

 去っていく背中を見ることさえできず。


「……嘘だぁぁぁぁぁぁっ!」


 地面を這いつくばる虫を眺めながら、叫んだ。


「お前らみんな、後悔するぞっ!

 俺を手放したことをっ!

 絶対に絶対に、後悔するからなぁぁっ!」


 虫の上に、雫が落ちる。

 虫は何事かと、その動きを速くした。


 俺は立ち上がることもできずに、その場でずっと、雫を落とし続けた。






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