第10話 美鳥 コトリ

 降りて来たエレベーターに乗り、パネルの6のボタルを押した。


「意外に大荷物な」


 一孝さんがお泊まりセットのバックを持ってくれた。荷物が多すぎじゃない、大きすぎて、琴守家で1番大きなバックを持ち出したの。

 大きすぎてエレベーターの客室は、いっぱい。


「ごめんなさい、着物や浴衣って脱いだ後もお手入れ大変です」

「いーよ。今日は、美鳥の浴衣見れたし」

「そう言ってもらえると嬉しい」


 私は一孝さんの胸にもたれかかり、身動きしずらいのを口実に頬擦りしてたりします。


「もっともっと見てもらっていいですか?」

「ああ、いいよ。見せてくれるのかい」


 彼を仰ぎ見て、


「はい、縁日、お祭りはこれから。花火だってそれに…粉もん食べてないです」


 一孝さんの膝が少し崩れた。


「お腹一杯で何も食べてなかったの。連れてってくださいね」

「ハイハイ」


   チン

 エレベーターは止まり、扉は開く。


「一孝さん。もう部屋に入りましたか?」

「いや、まだ。美鳥と一緒の方がいいかと思って」


 2人で回廊を歩いて、彼の部屋まで歩いていく。コトリがまだ私に触れている感じがするから、変な事にはなってないと思う。

 一孝さんの部屋の前まで来た。バックを廊下に下ろすと彼は鍵を出し、ドアノブシリンダへ差し込む。


   カチリ


 ドアノブを回し。ドアをを少し、開けてみる。

ドアの隙間から回廊の明かりが入り込み、三和土の一部を照らし出す。

見えた。 亜麻色の髪の旋毛が見えた。


「一孝さん」

「おう」

 

 彼は、ドアを全開にして、中に入る。

コトリは項垂れ、浴衣のまま、三和土にヒラ座りしている。動く気配はないの。


「美鳥とごっつん子して、そのままかな」

「かもね、コトリの中にいたときはに何も見えなかったし、聞こえない。」

「そんななのか、コトリって」


 私は、彼の顔を仰ぎ見る。

額に皺を寄せて、苦々そうな顔をしている。


「このままじゃ、いけないよね」


 私はコトリを抱き上げようとしたけど、彼に手を肩に置かれて止められた。

「俺が抱き上げてやるよ。コトリは、コトリは大事な美鳥なんだよね。俺が抱き上げるよ」

「一孝さん」


 私の目に涙が滲む。

 彼は、コトリを抱き上げ、廊下をぬけ、簡易キッチンの奥へ入っていった。程なくして奥の部屋と廊下に灯りがつく。

 すぐに彼が玄関まできて、


「コトリはベットに寝かしてある。俺はバックを取ってくるから、美鳥は、見ててやってくれないか?」

「はいです。一孝さん。」


 私は草履を脱ぎ、奥の部屋に行く。入れ替わりに彼はドアの向こうへ行ってしまった。

簡易キッチンスペースをわたり、ベットまで行く。

 ベットの上にコトリは浴衣のまま横になっている。

片手を黄色の帯の上に置いて、微かに頭を傾げて、瞼を閉じている。

微かに開いた唇。なんとなく、襟元が上下しているよう。息してるってことかな。

 亜麻色の髪が数本、額にかかる。その下には、閉じた一重の瞼。


「私の寝顔ってこんななんだね。可愛いや」


 手を伸ばして、額にかかる残り髪を外してあげる。


「まだ、起きないのかな?」

 

 シーツの上のある方のコトリの手に私は自分の手を重ねる。 不思議ね。重ねてるのに、乗せられてる感じもするの。コトリが私に触れている証拠。

いなくなった訳じゃない。私も口元が緩むのがわかる。  


「荷物を持ってきたよ。大きいから玄関に置いたって……コトリ起きたのか?」

 

 一孝さんがきてくれた。

「なんで?」

「なんでって、美鳥、笑ってる」

 

 すっと指が口元を触る。


「笑ってるの? 私?」

「ああ」

「そう、そうなら、ふふ。コトリは寝てるだけです。大丈夫ですよ。一孝さん」


 一孝さんを仰ぎ見て、改めて笑った。


「そうか!」


 彼も笑顔になった。


「美鳥が言うなら、そうなんだろ」

「ええ」


 彼がベットに腰掛ける。


「スターマインが終わっていきなり倒れただろ。気が気じゃなくってね」

「一孝さん」

「良かったよ。後は起きるのを待つだけだね」


 一孝さんが破顔した。


「はい」


 すると、一孝さんが身じろぎする。


「美鳥、今まで浴衣着て苦しくなかったかい」


 いきなりなんでしょう。私は目を瞬かせる。


「俺、ちょっとコンビニに買い物行くから着替えるといいよ」


 彼が、頭をカキカキ話してくれた。


「シャワーは普通のだし、すぐ使えると思う」


 なあんだ。


「ありがとう。使わせてもらいますね」


 一孝さん、ありがとう。気を遣ってくれて、近いうちに私の全部見せてあげるから。

彼がベットから腰を上げて玄関まで行く。ドアが開き、そして閉まり、


   カシャン


 鍵のかかる音がする。

 もう一度、小鳥の顔を見てから私も玄関へ。

置いてあるバックから、衣紋掛けやら、これから使う小物をいっぱい取り出す。

もう一度奥に行って、テーブルに鏡を置く。


「さあって」

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