第3話 コトリ 浴衣 その1

 両手で頭を隠してコトリは小さく舌を出している。


「バレちゃった」


 亜麻色の髪を編み上げ、髪飾りで飾り、藍色の浴衣に赤い飾り帯、少し大人ぶっ両手で頭を隠してコトリは小さく舌を出している。

 

 少し大人ぶった浴衣を着ている美鳥、中身はコトリだという。

 最近覚えたメイクで、ヘイゼルの瞳もつ目は睫毛も整えられ、何時にも増して大きく見える。イエロー系のアイシャドウが目の色と相まってミステリアスな感じになってるんだ。頬にはピンクのチークを載せ!それに負けない濃さで唇が彩られて、艶々になっている。

 綺麗すぎて、誰にも見せずにお持ち帰りしたいぐらいなんだけどなあ。


「コトリ、美鳥は大丈夫なのかい?」 

「うん、ウチでボッーと外見てる」『一孝さぁーん、コトリに体取られたぁ』


 2つの声が艶やかな唇から出てくる。


「じゃあ、まず、コトリ可愛いよ。びっくりしたよ。綺麗だ」


 美鳥の姿をしたコトリ、おかしいな、コトリは美鳥なんだし、矜羯羅がるから コトリで通すよ。俺が褒めた事で頬に手を当てて体をクネクネさせている。


 『一孝さぁーん、私なんですよー、お化粧したのも浴衣選んだのも、もう』


 俺は苦笑いしながら、


「わかってるよ、もちろん。綺麗だよ」

『やだぁ、もう一孝さんたら』


 おう、クネクネに捻りが加わった。

珍しい動きなんで暫く鑑賞していたいけど、時間は限られている。


「どうしよう美鳥、マンションに戻って、コトリと入れ替わるか?」


 俺は声をかけるんだけど、コトリは眉を下げ悲しい顔をして聞いている。


『いえ、一孝さん。どうすれば戻れるからわからないし、コトリが見聞きする事

 

 がこちらでもわかるんです』

俺はコトリの顔を見つめて、


「そうなの?」


 聞いてみる、


「わかるよー、おんぶしてもらった時や抱っこしてもらった時ー、嬉しかったよう」


 コトリはにっこりと答えてくれた。


「もしかして」


 コトリは唇に指を当てて、


「チューも…」

「公衆の面前で話さなくっていいから、やめよ」


 俺もコトリの前で手を振って話を止めた。でもね、


「コトリ」

「なんですか」


    ♡


 コトリが俺を向いた時、素早く前後左右確認して、俺たちに目線が向いてないと確認したんだ。そしてフレンチキス。


「こんな感じだったかな?」


 コトリの目が蕩けたようになっている。耳から首まで真っ赤になって、


「うん、そう………幸せぇ」


 すぐさま、


『一孝さん、コトリへは犯罪です』


 美鳥が蕩けた顔のまま、抗議して来た。


「戻ったら、濃厚にしてあげるから」

『許す』


 そんなやりとりをしている時だった。丁度、背中の方向から、


   バシュツ、シュルシュルシュルシュルー、どぅーどドーン


 花火が上がり、開いた。菊先一発。体に響く音場。


オレンジ色の火の粉が尾を引きながら菊の花を咲かせていく。


「きゃあー」


 コトリが耳を抑えてしゃがみ込んだ。


「おい、大丈夫か?」


 顔を上げて涙目で花火の残り煙を見つめて、


「キラキラは綺麗だけど、音がすごいのぉ。頭からお腹までドーンときたぁ」

「もしかして'聞く'って初めてか?」

「?」


 いつものコトリは、どうやら近くにいる俺や美鳥の聞いた事を感じてるようなんだ。

 美鳥の意識と入れ替わって、耳で生の音は初めての体験なんだろう。しかも大きな音と圧力とも思える空気の震えなんか未体験なはずだ。


「驚かしてごめんね。これが花火って言うんだよ。暑さや悪いものを、すんごい光と音で吹き飛ばしちゃうんだよ」


 キョトンとコトリは聞いていたけど、


「コトリ、悪くないから大丈夫だね」


 俺もにっこりと返事を返した。


「コトリは良い子だから大丈夫だよ」

「えへへ、コトリ良い子、へへ」


 コトリは俺の腕を抱いて笑ってくれた。

ぼそっと


『いいなあ、コトリ』


 美鳥の呟きが聞こえた。


「それじゃあ、行こうか。まずは神社でお祈りだね」


 俺はコトリに手を差し出し、誘った。でも、


「チョコバナナがいい。食べたいの」


 食い気が先か。しょうがないね。


 コトリが先程見つけた屋台に行って、一つ買って来た。


「はいチョコバナナ」

「わーい、ありがとう。お兄い」


 早速、向いたバナナを串刺しにして、チョコを塗ったものにカラフルなチップが塗されたものをコトリは口にしていく。


「美味しー」


満足そうなコトリの手を取り、屋台の通りを歩いていく。

 

すると、再び、


   バシュツ、シュルシュルシュルシュルー


 俺は手を引きコトリを抱き寄せて、


「花火が上がった。どうだ大丈夫そう?」

「うん、今度は驚かないと思う」


 でもコトリ手は俺の体をギュッと抱きしめた。


   どドーン、パチパチパチパチパチパチ


 菊芯入小割付き 大輪の中に色付き芯が開き、周りに小さい花が咲く。


「あーきれー」


 コトリは笑顔で見上げている。


「でも、あの音はダメかな。ドキッとしちゃう」

「まあ、慣れかな。次上がる時も気をつけるよ」


「お願いね。大好きなおにいぃ」


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