年下幼馴染は同級生 if 〜銀冠の下、コトリは還る〜
@tumarun
第1話 一孝 作務衣 その1
「一孝さん。迎えに来ました」
インターホンのモニターには美鳥が写っている。
今日は何か違う。鮮やかなピンクの唇、いつにも増して大きく見えるヘイゼルの瞳。頬も薄いピンク色。亜麻色の髪には白い髪飾りが見える。襟元を見ると、藍色?
「美鳥。もしかして浴衣着てる?」
モニターの中の美鳥が笑顔に変わる。
「はい、縁日に行きますから着てみました」
俺が住んでいる学生マンションの近くにある神社で縁日があり、屋台も多く出るから行こうと誘ったんだ。
「早く見たいよ」
「はい!行きますね。一孝さん」
俺は振り返り、リビングにいるコトリに声をかける。
「コトリ、美鳥が来たよ」
「ハイハーイ!お姉ちゃん来たの?」
リビングから女の子がトコトコとやってきた。
「おう」
思わず叫んでしまう。
インターホンが、まだ繋がっていたのか、俺の声を美鳥が聞けたようで、
「一孝さん!どうかしたんですか? 急いで行きますね」
俺に何か、あったと勘違いしたのか、慌てているのか
モニター越しにわかる。早速モニターから消えた。入り口のドアを開けるパスワードも、この部屋の合鍵も渡してあるから、すぐくるだろう。
俺が振り返った先には、白地に赤い金魚が描かれている浴衣を着ているコトリが立っていた。
その場でくるりと回って黄色い飾り帯が見れた。
「どうですぅ、似合うかなぁ」
コトリが笑顔になって浴衣を見せてくる。いつもプルオーバーにサスペンダースカートを着ているのだが、スカートの色が変わるのは、いつも不思議に思っていたんだけど。ここまで変わるのは初めてだ。袖から出ている手が透けて見えるからコトリだとわかる。
そのうちに玄関のドアか開き、美鳥が入ってきた。
「一孝さん!大丈夫ですか?何かありましたか?」
慌てて、口早にしゃべっている。俺が動かなかったから、怪訝に思ったのだろう。横にきて俺の見ている方へ顔を向けた。
「コトリちゃんが浴衣!」
美鳥も驚いている。
「お姉ちゃんも浴衣だ。お似合いだよ。えへへ、私も浴衣になりました。どうですかぁ」
コトリは美鳥の前で、くるりと体を回す。
「一孝さん、私は夢見てるのかな」
「夢じゃないよ。夢なら俺も見ていることになるからな」
美鳥は、そろりとコトリに近づく。
「ちょっとごめんね」
コトリの袖口から摘み、腕そして、襟元まで触れていく。
「一孝さん、この浴衣は私が大好きでね、夏に着るのを楽しみしていたものなんです」
「そうか、なんか見たことあると思っていたところなんだ」
美鳥は目を細めて、コトリの着ている浴衣を見てる。懐かしいんだろうな。
「そうだ。美鳥、コトリの隣に立ってくれるかな」
「ハイハーイ! コトリをまねてみました」
立ってもらったのは、他でもない。
美鳥の浴衣を見るためなんです。
「くるりとまわれるかな」
美鳥は両手の袖口を持って左右に広げて、その場で体を回す。
藍色の生地に白百合と青色の百合が染め抜かれている。大きめのリボン結びにした赤い帯がなかなか決まっている。
「ちょっと背伸びしたかなって感じだけど、今の美鳥には、似合ってるよ」
なぜか、コトリも美鳥と同じように回ってる。
「もちろん、コトリも良いよ」
俺は良い方ものを見せられて、感動してしまった。
「2人とも綺麗だよ」
2人とも手で顔を覆ってモジモジしてる。恥ずかしがっているのかな。嬉しがっているのかな。2人とも動きが同じでシンクロしているのは、ご愛嬌。
しばらくして、モジモジも終わったところで
「そういえば、美鳥はここまで、浴衣で歩いてきたのか? 結構な距離あるよ」
「パパに車で送ってもらいました。ママも一緒だよ。神社のちかくまで行くって言ってたよ。知り合いのところに車を止めるって」
そこで美鳥が手を合わせた。
「いけない。忘れるところでした。
美鳥が包みをひとつ寄越してくれた。
「パパからです。是非とも着てくれって言ってました」
包みを開けて見ると綿刺子織の作務衣と羽織りが入っていた。美鳥の浴衣と合わせてくれて、色は藍色。雪駄まで用意してくれてある。浴衣と違い下はズボンだから、俺も履きやすい。裾捌きなんて慣れてないからね。
「美鳥、奏也さんにお礼を言ってくれないか。着させてもらいますって」
「はいっ、連絡しますね」
美鳥は、手にしていた巾着からスマホを取り出す。
「俺は早速、着替えるよ。それでも30分かからず着くからって、ついでに話しておいて」
「了解です。そうだコトリ、ちょっときて」
美鳥はコトリを手招きする。。
「ハーイ、なんでしょ」
「今からパパへ電話するんだよ」
スマホをぼちぼちしながらコトリに話している。
「だから、こうすると」
美鳥のスマホから発信音が聞こえてきた。スピーカーホンにしたようだ。すぐに着信メロディに切り替わる。
『おぅ、美鳥。どうだ、一孝君には渡してくれたか?』
スピーカーから奏也さんの声が流れてきた。
「パパだぁ…」
声を出したコトリの唇を美鳥は指で抑える。
「喜んでましたよ。作務衣に着替えて、そちらに行くって。30分ぐらいだって言ってるよ」
『よかったよ。気に入ってもらえたようだ』
奏也さんの声が流れるなか、美鳥はコトリに内緒話をしている。何をするつもりだろう。
「それじゃ行くよ。 せーの」
美鳥とコトリは2人でスマホに
「「パパ大好きぃ」」
話しかけた。
『おぉっ、いきなり! なんか声が重なって聞こえたけど』
「やったね」「うん」
パンッ
2人は手を合わせた。
笑顔の2人から離れて、作務衣に着替え羽織を着た。
2人のところに戻って、
「じゃあ、行こうか」
コトリと話をしていた美鳥は俺を見て、
「一孝さん、似合ってます。素敵」
「お兄ちゃん、素敵だよ」
美鳥とコトリが2人とも作務衣姿を褒めてくれた。
嬉しいやら。こそばかゆいやら。照れるね。
「ありがと。じゃあ行こうか」
「なんか、淡白です」
美鳥が抗議してきたけど、嬉しすぎて抑えとかないと大変なことになりそうなんだけどなぁ。
「嬉しすぎて、美鳥に抱きついて押し倒しても良いのか?」
美鳥は耳から首まで、真っ赤になって、
「しても、いいですけど、やってほしいけど、コトリがいるんだよ。恥ずいよ」
コトリも手で顔を隠して恥ずかしがってるけど、開いた指の間から嬉しそうに見つめてきてる。
「だろ!、まずは縁日を楽しんで、それからだよ」
「わかりました。それでいきましょ」
美鳥は俺の背後に周りドシドシ背中を押して玄関に向かわせて行った。
玄関に置いておいた新品の雪駄を履かされ、背中を押されるまま外に出てしまう。
美鳥も赤尾の草履を履いて、外に出ようとしたが、
「コトリちゃん。いって…」
振り返りコトリに声を掛けようとしたところ、俺を押していたうちの片方の手が俺の背を外してしまう。哀れ、美鳥は半回転して、俺に激突した反動で玄関で俺たちを見送ろうと向かってきたコトリに向けて跳ね返ってしまった。
「きゃぁあああ!………ごぅん」
ごちん
確かに俺は聞いた。
硬いものがぶつかる音を。
更にお互い、跳ね返り、美鳥は外へコトリは玄関の中へ行ってしまった。
そして玄関は閉まる。
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