第164話 手のひらを太陽に
僕の右手には握っているモノがあるんだ。
ある日、それをね、話してみたくなったんだ。
それは、こんな風でね、こんな形だとかね。
ほんの些細な話だったんだ。
ところが、みんなはそんなモノを持ってないらしかったから。
わいわいと人が注目してきちゃったんだ。
初めは嬉しかったんだ。
そのうちに
その右手の中の事をもっと聞かせてと
言われるようになったから、僕は話したんだ。
するとさ、
そんな話はいんちきだ、ありぁしないよ、
嘘つきなんて言う人も現れたんだ。
みんなは右手を開いて見せろ、見せてってさ。
僕は困った。
右手を開いてもさ、僕にしか見えないと思うんだ。
右手を開いたら、みんながっかりするんだ。
みんなには見えないだろうからね。
そんな時にひとりの子が現れた。
ねぇ、私の左手にね、握っているモノがあるのよ。
でもね、これは私にしか見えないモノなのよ。
ってさ言うんだ。
僕はね、驚いたんだ。
あのね、君の右手を開いて見せてくれない?
僕は見えっこないけど、この子ならいいかなって。
そうっと開いて見せた。
その子はね、
優しいひかりだねってはにかみながら言ったんだ。
私の左手の中も見せようか?
私のはがっかりするかも知れないけど。
そう言って、左手を躊躇いながら
開いて見せてくれたんだ。
そこにはね、さみしい色の弱いひかりが見えたんだ。
僕はその子と手を繋いだ。
その子はポロリと涙を落とした。
一緒に行こう。
終わりのその日まで。
僕はそう決めたんだ。
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