第113話

「で、どうしたいって? 殺すの? まぁ、なんでもいいけど、そんなに憎いわけ?」


 緊張などすでに吹き飛び、アリカは一枚の毛布をジルフィアと分け合ってソファーに座る。お互いにその下はなにも着ていない。先ほどまでもそういうことをしていたし、このあともその予定。初めてだったが、自身の性欲に驚く。上手く手解きしてくれたので、少しずつコツはわかってきた。


 寄りかかってくるアリカを受け止め、毛布の下でジルフィアは彼女の肩に手をまわす。


「そうだね……憎い、とは違うんだよ。シシー・リーフェンシュタールは誰から見ても完璧だ。人当たりもいいし、なにより美しい。美の彫刻が服を着て歩いているんだ。見ているだけで興奮しない?」


 そう同意を得ようとするジルフィア。目を輝かせて子供のように。ハスキーがかった声が大人びた印象を残すが、顔も母性溢れるような優しい笑顔。殺す、なんて感情が潜んでいるようには見えない。


「……まぁ、言いたいことはわからなくはないかね。見て憧れるだけの人間なんて、アリカも含めていくらでもいるだろうし」


 アリカの脳内にシシーの顔が浮かぶ。するとその妄想の視線は、彼女の胸元から下のほうへ向かう。また性欲が高まってきた。体の奥底にあるウズウズとした衝動。実物の視線はジルフィアの唇へ。何も言わずに重ねる。


 最初の行為は、研究室とは別の部屋のベッドルーム。薬品の瓶や使い終わった注射器なんかも、ゴロゴロと床に捨ててあって不衛生だが、ジルフィアは嫌な顔ひとつせず一枚一枚、自身の衣類を脱ぎさり、彼女を受け止めた。軋むベッドがより興奮させる。その後はリビングのソファーや台所なんかでも、高まったアリカを全て包み込む。


「それで、答えにはなってないけど。殺す理由の」


 話の途中になっていたことをアリカは思い出した。思い出したというよりかは、自分の欲求を優先した結果、相手の会話を断ち切ってしまったからではあるが。


 ジルフィアの視線は点けたテレビへ。なにやら料理番組がやっている。時刻は夕方。お腹も空いてきた。冷蔵庫には冷たい飲み物くらいしかない。


「彼女の秘密、知ってる? 優等生、なんてのは表の顔。裏では危険なことをやっている、ってこと」


 目に流れ込んでくる映像を受け流しつつ、穏やかじゃない情報を放り込む。


 口を開いて呆気にとられたアリカではあるが、ゾっと打ち震えた。


「……へぇ。ハンブルクのレーパーバーンで稼いでいる、とか? それはそれで興奮する」


 ドイツでは有名な風俗街。罪深き一マイルとも呼ばれる場所。また欲望がとぐろを巻いてくる。あぁ、止まらない。


 だがジルフィアは視線を感じつつも、会話の流れを止めない。熱い視線には応えてあげたいけども。


「それもそれで面白いんだけどね。少し違う。彼女は自身の命や肢体を賭けて、違法な賭博に興じているんだ」


 うんうん、と思い出して噛み締める。

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