幕間:記録

アイドル

 最近、ファンの一人を見かけなくなった。

 私は或るグループでアイドルとして活動している。最近になってようやく念願のドラマへの出演も叶い、アイドルとして、また新人女優として、これからが頑張り時だと思っている。パフォーマンスも演技も私はまだまだ未熟だから、こんなところで慢心するわけにはいかない。

 でも、私がここまで来られたのは、ひとえにファンの皆が支えてくれたからだ。だから一区切りというわけではないけれど、マネージャーと相談して、それから二人で事務所に頼み込んで、小さなファンイベントを開催してもらうことになった。お渡し会みたいなものだ。

 私だって曲がりなりにもプロだから、いつもライブや握手会に来てくれるファンの顔ぶれは、ちゃんと覚えているつもりだ。もしも来てくれたなら、一人一人にお礼を言うことくらいはさせてほしかった。

 よく来てくれていたけど、二か月ほど前のライブから急に姿を見なくなった人がいる。ごくごく普通の学生さんみたいで、どこか気だるげな目をしてて、ちょっとだけ不健康そうなお兄さんだ。ファン卒業しちゃったのなら、寂しいけどそれは仕方ない。もっと有名になってやるから、その時はまた私のファンとして戻ってきてもらえたらいいなと思う。

 でも、あの人なんだかちょっと不健康そうな感じだったから。体調崩してるとかじゃないといいなって思う。

 こういうことはよくある。前にファン卒業しちゃったのかなと思っていた社会人らしきお姉さんは、半年ほど経った頃、また握手会に来てくれた。久しぶり、髪切ったんだねと私が伝えると、仕事がやばくてやばかったんだよぉ、でももう大丈夫、と涙目で笑ってくれて、私も少し泣きそうになってしまった。そんなに忙しい中でも私のファンでいてくれたことが本当に嬉しかったし、だからこそ元気そうで心の底から安心した。

 あのお兄さんも、どうか元気にしていてほしい。感謝イベントだけでも来てくれたなら、その時はちゃんと夜は寝ないとだめだよって言ってあげよう。

 ああ、それにいつも二列目にいるおじさんも、サイン会の時いなかったから、次は来てくれるといいな。三人で来てた高校生の女の子は、そろそろ受験勉強大詰めだろうから来られないかな。

 うーん。いかんなぁ。気を引き締めていかなきゃいけないのに、やっぱり私はちょっと浮かれているのかもしれない。落ち着けかじみず。これからもっともっと頑張らなきゃいけないんだから。

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