第67話:火山の街

お昼ご飯になってリズたちが帰ってきた。

「我が主よ、依頼を3つ達成してきたのじゃ!」

そう言って金貨の入った巾着袋をテーブルに乗せる。

じゃあ、これはパーティーの所持金に追加しておくね。

「頼むのじゃ」

そう言えば親方が仕入れに行きたいって。

「火山にあるドワーフの街とやらかや?」

炉を作るのに必要なレンガなんだよ。ここじゃ手に入んないみたい。

「なんじゃ、結局は火山まで行かんといけないかや?」

リズがため息をつく。


そうなんだよ。ミスリルの加工に火山の街まで行かなくても済むように、

家を買って工房を作ってるんだよ。それなのに・・・

まあ、炉はベリーさんの研究にも使うから、結局は必要なんだけどね。

サラトガ・クーラーは火山の街で直しちゃってもいいなじゃないかな?


「で、誰を連れて行けばよいのじゃ?」

私が行かないと荷物が運べないよね?

親方が居ないとレンガがどんなものかわかんないし、

どうせ火山の街に行くならククリさんとシオンさんも連れて行って・・・

「ちょっと待つのじゃ、我が主よ」

リズが待ったをかける。

「レンガを仕入れに行くんじゃろ?」

でも、せっかくだから聖剣が直せないかな?

「ククリよ、炉があったとして聖剣を直すのに何日かかるかや?」

ククリさんが指折り数えて考え込む。

「私では20日ほど、腕の良い職人でも10日はかかるかと」

そんなにかかるんじゃ、今回はダメだね。

「わかったじゃろ?我が主よ」

うん、今回はレンガだけにしておこう。

他のみんなは留守番ね。


ところで、火山の街には龍の姿で飛んで行って大丈夫なの?

「あの辺には火龍がおるから大丈夫じゃろ?」

街の警備兵とか騎士団とか出てきても戦っちゃだめだよ?

「妾だってドワーフとは仲良くしたいのじゃ。なんせ奴らは鍛冶もすごいが酒も造るからのう」

そう言えばドワーフの作ったお酒は人気なんだよね。私は飲めないけど・・・

「噂に聞くと芋から作る酒もあるようなのじゃ!」

リズはお芋好きだもんね。じゃあ、お芋のお酒も買ってこようね。

向こうで飲んじゃだめだよ?帰り飛べなくなっちゃうよ。

「うーむ、向こうで飲むのは我慢するから、少し多めに買って欲しいのじゃ」

おいしそうな料理もあったら買っておくね。

「火酒と串焼きは忘れないでね」

エルフはドワーフと仲悪いんじゃないの?ドワーフのお酒飲むの?

「だから、偏見なんだって。別に仲悪くないと思うよ?私は気にしないし。向こうはわからないけど」

ニニアさんって変わったエルフだよね?ドワーフと仲悪くないしお肉食べるし。

「だから、普通はそうなの。間違ったイメージだよ。草だけじゃ栄養足りないよ」

他のエルフを見たことないから何とも言えないけど・・・


「今度私の実家に来てみなよ!」

そう言えばそんな話もあったね。

工房が出来てひと段落したらニニアさんちに行ってみよう。

エルフの里は森の奥深くにあるの?

「やっぱりそう思うよね?でも本当にそんな場所に住んでたら不便だよ・・・」

これも間違ったイメージなのかな?

「確かに、そういうところもあるよ?長老とかが住んでるのはそういうところだよ?」

ああ、そういう本当のエルフの里もあるんだね。

森の中の木の家とか幻想的だよね。


お昼ご飯を食べたら、私とリズで親方のところに向かう。

「おお、待ってたぞ」

行商人じゃないから持ち物検査はない。

ギルドカードを見せてそのまま外に出る。

親方は簡単な検査があったけど、すぐに通過できた。

親方と3人で門を出ると、リズが龍の姿になる。

やっぱり大きいなぁ。


「すまんが鞍を着けてくれぬかのう?」

リズが自分の収納魔法のバスケットから鞍を取り出す。

特別に作ってもらったリズ用の鞍だ。馬のじゃ使えないしね。

親方と2人で鞍を着ける。私1人じゃ無理かも知れない。

「ではゆくぞ。我が主よ、しっかり掴まってるのじゃ!」

そう言うと音もなく飛び上がり、あっという間にコモンズの街が見えなくなった。

馬車とは比べものにならない早さ。馬が全力で走っても追いつけない。

圧倒的な速さだ。

山を越え、谷を越え、いくつかの街や村を通り過ぎ、

ものすごい速度で空を移動する。

もっと風がすごいかと思ってたけど、

たぶん魔法の防御幕のおかげで快適だ。

馬車みたいにガタガタ揺れないし。

問題は人数があまり多く乗れないって事かな?


まだ日が沈む前なのに火山が見えてきた。

馬車だと20日くらいかかるって言ってたのに。

「道はぐねぐね曲がっているが、妾はまっすぐ飛べるのじゃ」

森も山も谷も関係なく最短距離なんだ。

それにこの速さ。あっという間に着いた。

問題は、門の前に完全武装の騎士団らしき人たちが集合している事かな?

リズ、戦っちゃダメだからね。


驚いた魔導師が呪文を放ってきたけど、

リズに当たる前に消滅した。

戦う意思がない事を証明するためにやり返したりはしない。

そのまま門の前まで飛び続ける。


門の前の広場に降り立ち、人の姿になる。

リズが集団の先頭のたぶん偉い人にギルドカードを見せる。

「妾に戦う意思はないのじゃ」

ギルドカードを見て腰を抜かしていたけど、どうにか街の中に入る事が出来た。

あれ?門で検査しなくて良いの?入っちゃったよ?


「ようこそ、鍛冶の街ヘッケルへ」

ふーん、ヘッケルって街なんだね。火山の街って聞いてたけど、

当然街に名前は付いてるよねぇ。


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