第1章 ⑦
『続いて上野先生は…』
『あの、申し訳ありませんが』
会議の司会進行をしている教師を遮り宮本がそう口を開き言うと途端に会議に参加している教師達の視線が宮本へと向かい、若干戸惑いつつ言葉を続けた。
『1人名前の書かれていない生徒が居るのですが…』
『あれ、もしかして記載漏れですか?』
司会進行の教師が手元の書類を確認し、その他の教師達も、「え、抜けてる生徒いるの?」といった感じに書類を見直していた。司会進行の教師が宮本に話し掛ける。
『記載漏れの生徒の名前は?』
『雪坂達也という生徒ですが』
『……雪坂?』
名前を聞いた司会進行の教師が首を傾げ怪訝そうな表情をした。
『……聞いたことのない生徒名ですが、知っておられる先生方は居ますか?私は前年度は3年のクラス担当を受け持っていたので他学年の生徒の名前が把握ができていないだけだと思うのですが』
司会進行の教師が会議参加の教師達に話を振るが、「雪坂?」「聞いたことないですね」「変わった名前だから印象に残りそうだけど」などといった会話が教師達間で飛び交い、職員室内が暫く騒つく。
(ーーもしかして)
教師達の反応に宮本の頭の中にあるひとつの結論が出てきて宮本は息をのんだ。
それまで黙っていた校長先生が静かに口を開く。
『…雪坂達也くんと言いましたかね。宮本先生』
『はい』
『…私は一応だが全校生徒の生徒名と顔は自分の頭の中には把握するようにしているが、雪坂達也と言う名前の生徒は私自身も聞いた事がない。すまないね』
『……』
『だが、私がまだ把握できていなかった生徒もいるかもしれないので、今日中に確認しておく』
『…分かりました』
話が終わり、再び司会進行担当の教師が会議を進行していく。宮本は再び生徒名簿に目を向けた。
雪坂の名前が書かれていない生徒名簿
雪坂の名前を聞いたことがないと口にした教師達
そして校長先生でさえ把握できていない雪坂の名前。
校長先生まで知らないのはあり得ないことだ。現に雪坂がこの高校に転校してくることを受け入れ、そして転校前に校長先生を交えて会話もしているのだから。
『……』
ーーどうやら世界から雪坂の存在自体が消えてしまっているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます