第1章 ⑥
「ーー体調の方はどんな感じですか?宮本先生」
高瀬が職員室を去ってから宮本が次の5限で使う日本史の資料や書類などを自席でまとめていると、宮本の隣の席の古典の教科担当及び1組担任の教師:吉田が話しかけてきた。
「ああ、まあ本調子までとはいきませんが…、幾分マシになりましたよ」
そう宮本が答えると吉田はよかったですね、と微笑み、言葉を続ける。
「花粉症は大変ですよね、私の娘も今までは大丈夫だったのに今年の2月頃からくしゃみや鼻水が止まらなくなってしまって…」
「そうなのですか…、それは大変ですね」
「そうなんですよ。私は全く平気なんですがね、ははは」
暫く談笑した後、吉田が自席をたち職員室を出て行った。出て行くのをみつめた後宮本は再び前を向き直し書類の整理などを再開する。
「……」
吉田の先程言った<花粉症>という言葉を宮本は頭の中で思い浮かべ、目を細めた。
(……花粉症じゃないんだよな)
いや、正しくは花粉症だったのかもしれない。3月の月末にくしゃみや鼻水が出て、これは花粉症では?とマスクをつける事にした。…実際の所くしゃみや鼻水が出たのはその数日間だけであり、以降全く症状がないが今後も念のためマスクをつけようと考え、決めた。
それが4月1日前日の夜のことで、後にそのマスクを着けるという判断がよかったと実感することになる。
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『宮本先生は2年4組担任になります…』
4月1日の出勤の日。職員室内で開かれる会議の中で今年度のクラス担任が決まり生徒名簿が渡された。渡された宮本は書類にふむ、と目を通す。
(4組は確か…、水島や柏ノ木らが居るクラスだな。あとそれから)
ーー雪坂達也という生徒も居る。
宮本は内心安堵していた。果たして自分以外の担任で大丈夫なのか?という一抹の不安を抱いていたから。
一息つき眺めていた時、ある事に気がついた。
(雪坂の名前が、ない?)
疑問を覚えた宮本が何度も食い入るように生徒名簿を眺め、確かめるもそこには雪坂達也という生徒の名前は書いていなかった。
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