第42話 S級探索者『ガンマン・ザ・ロドリゲル・ジョー』


 『東京ドーム裏コロシアム』から観客が誰1人としていなくなった頃。

 ウチは何となくフィールドを散策していた。ドンはコモド島に、ガーランドは島田さんのところへ一足先に帰っている。


 「あんだけ盛況やったコロシアムも、人おらんなったら静かやなぁ」


 誰もいない。照明も消えた今、月の光だけがフィールドを照らす。

 そんな静寂を噛みしめていたウチだっが……


 「……誰や」


 ザリッと砂を踏みしめる足音、そしてわずかな金属音。

 誰だとは言ったが、カチャカチャと鳴っているの音には聞き覚えがある。それもついさっき。


 「また会ったな」

 「あんたはさっきの……」


 ガンマン風の男……いや、ガンマンだ。


 「ウチに何か用か?」

 「ああ……先程の試合を見ていた。お前は何故、ガーランドの決闘に割って入った?」


 責めているようだが、ガンマンからは怒りは感じなかった。純粋な疑問のようだ。

 しかし、ウチは赤城と話す時は、探索者なら聞こえる程度には大声だったのだが、聞こえていなかったのだろうか。


 「依頼やったからってのが1つ。もう1つはな……いや、言ったら悪いけど、コモドドラゴンとオークがどうやって和解するんや? 話通じへんやろ。観客も納得せんやろうし。ま、インパクトで流したったんや」

 「……なるほど、それもそうか。単なる目立ちたがり屋だと思っていたが、違うらしい」


 彼はウチの格好を見ながら言った。

 カウボーイの格好も中々やとは思うが……


 「あー、もう1つあったわ」

 「何だ?」

 「何となくガーランドが気に入ったのもあるわ。アイツ、こんなところで死ぬ器じゃないやろ。もったいないやん?」


 ガーランドは何かめっちゃ賢かった。実は筆談で会話もできるし。

 というか頑張ったら喋れる。声帯の関係で長く話すのは難しいらしいが。

 それになんというか、まだ短すぎる付き合いだが、結構ガサツなドンと違って気遣いができるのもポイントだ。どこで覚えたんだろう。


 「フ……そう、だな。少なくとも、ここで死ぬのはもったいない」


 ガンマンが小さく、本当に小さく笑った。


 「お前に興味が湧いた。最後に1つ、答えてくれ。あの『D‐サイコ』から機関銃を向けられた時、お前は何を感じた?」

 「ヤバいとは思ったけどな、ウチには効かんよ」


 銃だけに、と喉まで出かかったがやめた。


 「恐怖は感じなかったのか? 『D‐サイコ』特有の無秩序な狂気を目の当たりにしたんだぞ?」

 「死なへん攻撃の何が怖いっちゅうねん。それに、死ぬんは怖ないからな。未練はあるけど」


 ドンッと胸を叩く。

 ウチの【シン・硬化】に銃が効かないことは、迷宮町支部で確認済みだ。なお、銃を持ってきた受付嬢には減俸が言い渡された。

 それに、ドンとガーランドはウチの合図でさりげなく岩陰に避難してたし。恐れる必要がなかった。


 「……虚言ではないな。本当に死ぬのが怖くないらしい……それに、スキルにかまけているという風でもない」


 ガンマンは軽く息を吐いた。

 すると、ゆっくりと姿勢を変えた。両足をやや開き、利き手を腰の銃にかけている。今にも早撃ちをしてきそうな構えだ。

 思わずウチも構える。


 「お前は、俺が探し求めていた人間かもしれない」

 「……」

 「勇敢で、恐れ知らずで……ティーンエイジャーの女だ。俺は、こんなにも震えているというのに」


 ガンマンの手はわずかに震えていた。心なしか声も。

 対してウチはどうだ? 構えてはいるが、冷や汗の1つも流していないではないか。

 彼が、そして、分かってるくせに。


 「俺は……ロドリゲル。ロドリゲル・ジョー……S級探索者だ」

 「!」


 ガンマンの震えが止まった。

 鋭い、猛禽類のような目がこちらを射抜く。


 「1人の『男』として、貴方に『決闘』を申し込む」

 「……S級やろうが、受けて立たったる。ウチは諸星蛸羅! 覚えとけや!」


 男と女、決闘、失うものは命のみ――



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