第36話 C級ダンジョンでの慣らし
「やっと検査終わったなぁ、身体
「ジャアッ」
『超生物研究所』での死闘から1週間。
ウチは再びダンジョンへと足を踏み入れていた。
検査は2日で済んだのだが、精神的な影響を考慮して1週間は安静にしなければならなかった。
軽い運動くらいはしたのだが、本格的な戦闘なんてもっての外。
また、この1週間は学校にも行けなかった。
大怪我を負ったり死にかけたりした探索者は、トラウマを刺激されたりすることで、フラッシュバックによって突如として暴れる可能性があるからだ。
いくらウチの学校に元A級探索者や、探索者となった生徒達がいると言っても、生徒全員の命のリスクには代えられない。
「ま、それも今日で終わりや。これからはもっと稼げる。この『太陽の自然公園』でな!」
「ジャア!」
目の前にあるのは、街中にポツンと広がる違和感ありまくりな洞窟。
手のついてない空地に現れたそれは、もちろんダンジョン。
C級ダンジョン『太陽の自然公園』。
その名の通り、洞窟を抜けた先にある屋内型のダンジョンのくせに太陽が見える草原である。
『初心者の洞窟』と同じファンタジー系ダンジョンで、それっぽい見た目のモンスターが出現するのだ。
なぜD級だったウチがC級ダンジョンにいるのか?
それは、かき集めた資料とトレーダーの証言によって、C級相当の実力はあると判断されたからだ。
軽い試験の後、晴れて昇格したのだ。
「ドン、気ぃつけや? ここは今までの奴らとは格が違うで」
D級とC級には大きな
めちゃくちゃざっくり言うと、一部のC級モンスターには普通の銃が効きづらくなってくる。
流石に心臓や脳を潰せば死ぬが、今までの連中とはパワーもタフさも違うのだ。
つまり、最低でも弱いけど群れる系のモンスターを手早く殺せる術がないと死ぬ。
探索者の死亡率も、D級からC級に上がった頃がもっとも高い時期の1つとされている。
「じゃあ、行くで」
「ジャア!」
「頑張ってください!」
ダンジョンの警備員に見送られつつ、中に入る。
そこには、辺り一面に広がる豊かな平原や森。そして――
「オーッス! 未来のチャンピオン!」
「ブロワーマン!」
日本どころか世界でもそうは見られないだろう大自然に、カッターシャツとスラックスに革靴という全く似つかわしくない格好の男。
ブロワーを手にぶらさげた彼は、ブロワーマン。ウチの仲間だ。
「ブロワーマンもC級に上がったんか?」
「ま、そんなとこだ。このダンジョンじゃあ、ヤバい鳥モンスターが出るからオレもついてくぜ」
「ブロワーマンなら百人力や! 頼りにしとるで!」
「任せとけ!」
ブロワーマンがついてくることになった。
彼自身の戦闘力はあまりないが、サポート性能が高いので、彼がいるだけで戦闘の安定度が段違いになる。
「ガルルルル……」
「っと、早速きたぜ。『ウルフ』だ」
「普通のオオカミにしか見えへんな」
「まあ普通のオオカミよりちょっと強いオオカミだからな」
そんなことを考えていると、木陰からモンスターが現れた。
ウルフ。その名の通り、ちょっとデカいオオカミだ。
「ガルル……」
「グルゥ……」
「集まってきやがったぜ」
「やっぱオオカミやから、群れるんか」
奥から仲間がぞろぞろとやってくる。合計で7匹か。
そう、ウルフは単体ではあまり強くないが、群れることで真価を発揮するのだ。
いや、単体では強くないというわけではない。通常の銃弾を受けても早々には死なないし、ゴブリンなどE級モンスター相手にはちょっとした無双をできる程度には強い。
C級探索者はこいつをいかに突破するかがかかっている、登竜門的モンスターだ。
「ウチは右のをやる」
「オレは左だな」
「ジャア!」
誰がどいつを相手にするかだけ確認すると、ウチは駆け出した。
「ガウッ!」
「遅い!」
「ギャンッ!?」
ウチが目の前に迫ると、ウルフは噛みついて来る。しかし、その反応はウチからすると遅すぎた。
前に出た首を横から回し蹴り。バキャ、という骨の折れる音が鳴り響き、ウルフは真横へ転がって行った。
「ほっほぉ~、前にも増して強くなってんねぇ! オレも負けてらんねぇわ!」
「ギャッ……」
ブロワーマンは、ブロワーをフルスイングしてウルフの頭蓋を砕いた。
スキル【合体】によって、ブロワーを5つも合体させた『ブロワー+5』は頑丈さも5倍。元々頑丈なメーカーのものを使用しているのか、意外と屈強なウルフの骨格を砕くのには十分だったようだ。
そして、ドンの方は……まあ、体格も装甲も勝っているのでまず負けようがない。
ウルフは大型犬くらいの大きさだが、ドンはもっと大きくなっている。爪の一掻き、尻尾の一振り。たったそれだけで、ウルフが死んだ。
「ギャウ……」
「終わりか。流石の腕前だなぁ」
C級最初の難関は、あっさりと終わった。運が悪ければ食い殺されるか、撤退を余儀なくされるかだったのだが。
いや、そもそもC級に上がれたならば、それなりの装備をしているはずだ。それにメンバーもいるだろう。ウチが防具も武器も持っていないせいで感覚が麻痺してる気がする。
辺りを確認し、モンスターがいないことを確認するとその場にしゃがむ。
ブロワーマンがどこからかナイフを取り出すのを見て、ドンも剥ぎ取り用のナイフを吐き出した。
「ウルフは毛皮も魔石も高く売れる。肉は食えたもんじゃないが……」
「ジャアアァ」
「ウチも手伝うで」
「アザーッス。あ、そこはこうやってなぁ――」
「ほぉ、なるほどこういう――」
ブロワーマンに教わりつつ、毛皮などを剥ぎ取る。途中で出た内臓や肉は全部ドンが食べた。
そして、剥いだ魔石は毛皮に包み、ドンの口に押し込む。虐待みたいな光景だが、ドンはマジックバッグを呑み込んでいるので仕方ない。
――そうだ、このマジックバッグは『ストバッグ』というらしい。
なんでも、ダンジョンでまれに産出される『アーティファクト』という道具なのだとか。
トレーダーが色々教えてくれた。
「よし……よっし、詰めた!」
「ジャア」
「ドンは平気そうやな……何でこんなめんどくさい形してるんやろなぁ」
「アーティファクトなんて大なり小なりそんなもんさ。知ってるか? 探索者協会本部にあるアーティファクト『神託の宝玉』は下ネタしか言わないらしいぜ」
「何やそれ?」
最後の毛皮を押し込んだブロワーマンが立ち上がった。
彼はどこからそんな知識を得ているのだろうか。ネットか? 交友関係か? まあ、いずれにせよ詮索するつもりなんかないが。
ウチらは歩き出す。血の臭いにおびき出され、モンスターが寄ってこないとも限らない。
特にヤバいのが『ペイズリータイガー』というトラ。その名の通り
その牙は金属鎧も貫通し、しなやかな筋肉が立体機動を可能とする。C級でもトップクラスの奴だ。
もしかしたら、今もこちらの隙を
ウチやドンなら生き延びる可能性はある。しかし、ブロワーマンはまず間違いなく一撃で死ぬ。何故なら、防具を着ていないからだ。
なんでダンジョンでシャツ一枚やねん! ウチも大概やけど!
「独自の情報網ってやつで……お! アレを見ろ!」
「ん? ……おお!」
しばらくダンジョンを歩いていると、ブロワーマンが立ち止まり、指を指す。
その方向には、見たことも無いほど巨大なゾウが群れを成して
「手は出すなよ、ありゃあ『メガエレファント』。C級最強クラスのモンスターだ」
『メガエレファント』。
ゾウに似て普段は温厚なモンスターだが、一度暴れ出すとペイズリータイガーも裸足で逃げ出す暴威を振るう。
原種とはいえ、あのカオス・キマイラの材料になったアーマードライノでさえ、一撃で殺された記録もあるほど。
D級までとは全く違う、桁違いに強さや危険性が跳ねあがるのがC級だ。
死亡率も、平均収入だってそうだ。命を賭ける価値はある。
「あの
「密猟者かな? まあ、最近は高騰してきてるらしいが」
メガエレファントの牙を見る。
普通のゾウのそれよりもはるかに大きく、分厚く、そして滑らかで白い。
鋭さも……乗用車くらいなら一突きで貫通しそうだ。だが、ウチの【シン・硬化】は貫通できるか?
「機会があれば、やってみんのもアリやな」
「竜子さん!? 何言ってんすか!?」
「いや……ウチ1人やったらの話や」
「良かっ……いや良くはないか。毎年、自分の力を過信した馬鹿が挑んでペチャンコにされてるんだぜ?」
確かに、踏みつぶされたならウチの硬化でもどうなるか分からない。【シン・硬化】は、身体の一部しか硬化できないのだから。
……キマイラ戦の後、大型モンスター用に編み出した技があるので、通用するかもしれない。
「まあ、焦ることはないぜ。モンスターはいっぱいいるんだ……ほら言ってるそばから」
「グルルルル……」
「ブルルルル! プギーッ!」
「ゲヘッ、ゲヘッ……」
血の臭いを嗅ぎつけたのか、はたまた縄張りだったのだろうか、モンスターがやってきた。
ウルフ達、背中からキノコを生やしたイノシシ、そいつらからちょっと離れたハイエナっぽいの……また異種混合したモンスター達だ。
お互いに争ったりしないのだろうか。
「ま、ええわ。そっちがその気なら叩き潰したる!」
「やあってやるぜ!」
「ジャア!」
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