第27話 動く英智の結晶『カオス・キマイラ』

 「不意打ち気取りかい!? 生憎とその手は読んでる!」

 「避けるか、中々の判断だ」


 あの女は、機械の陰に隠れることで手榴弾の爆発を逃れると、何かのボタンを押した。

 どうやらそれは、部屋の中央にあるカプセルのものだったようで、凄い音を立てながらカプセルが開かれた。


 「合成超生物最終傑作C‐C型、通称『カオス・キマイラ』!!! 奴らを殺したまえ!!! 逃すんじゃあないぞ!!!」


 カプセルから現れた合成超生物。それは、今までの連中とは一線を画していた。


 『グロォォォォ……』


 合成超生物……いわゆるキメラ。その形状は複数のモンスターを繋げる上で、醜悪な外見をしているものが多かった。

 だが、目の前の合成超生物は違う!


 「こ、これが合成超生物やと!?」

 「なんて……神々しいんだ!」


 それは、1つの生物として完成していた。

 大きなサイにも似た四つ足の重厚なモンスターをベースにされている。だが、継ぎ目がほとんど見当たらない。

 恐らくは継ぎ足された翼も、複数の角も、蛇のような尻尾にも、い目がほとんどない。


 所々に埋め込まれた機械でさえも、まるで最初からその姿形だったかのような、完成されたデザインがそこにあった。

 ブロワーマンの神々しいという感想にもうなずける美しさだ。


 『グオオオオォォォォンッ!!!』

 「来るぞ!」


 ブロワーマンが叫ぶと同時に合成超生物、カオス・キマイラが突進してきた。

 何本も生えている大きな角に当たれば、ひとたまりもないだろう。そして、あの巨体と重量、パワーも単純に脅威だ。


 「恐らく、奴はアーマードライノの変異種をベースとしている。突進は絶対に受けるな。奴の突進は戦車すら粉砕する」

 「トレーダー、さっきモンスターを売ったとか何とか話してたが……あれも売ったのか!?」


 アーマードライノ。噂に聞いた話では、C級モンスターらしい。

 その変異種であることから、最低でもB級くらいの強さはあるだろう。


 「どうしても金が入り用でな。自分でも反省している」

 「言っとる場合ですか!? 弱点は!?」


 この研究室が超広いおかげで壁にぶつかったりせず、方向転換が可能となっているようだ。

 なので、壁にぶつかった隙を突くなんてこともできない。


 「鎧の隙間が弱点だが……その隙間すら鉄以上に硬い。目を狙うか、口か、それとも後ろの――」

 「目か口でええな2人共!?」

 「ボクは賛成!」

 「オレも!」


 流石にケツの穴は嫌だ!

 いや、どうしようもなくなったら狙うかもしれないが、それで倒せる相手とも限らない。


 『ゴオオオオゥ!!!』

 「オレが引きつける! 2人は攻撃を頼んだ! トレーダーとドンは女を追ってくれ!!! おーいサイ野郎! サバンナを乾燥地帯に変えた元凶はここだぞ!」


 ブロワーマンが【罵倒】でカオス・キマイラを引きつける。

 ブロワーから放たれる風は、カオス・キマイラにとって顔面に吹き付ける風のようなもの。鬱陶しいことこの上ないだろう。


 「諸星さん! ボクは弱点っぽいところを狙うよ!」

 「おう!」


 虎の穴は一跳びでカオス・キマイラまで跳躍し、なんとか角を掴んだ。

 そして目を狙っているようだが、まぶたが硬いようで思うようにいかない。


 「やるか!」


 ウチも【触手】を伸ばし、キマイラの身体によじ登ることに成功した。

 まるで鋼鉄のような硬さの外皮。殴る蹴るの暴力ではどうにもならないような、天然の装甲を感じる。


 「ふんっ!」


 硬化した腕で殴ってみる。

 物凄い音が鳴り響くと、わずかに削り取られたのはキマイラの皮膚だった。

 うん、ウチの【シン・硬化】はこんなヤバそうなモンスターにも通用するようだ。


 ではどこを狙うべきか。ウチが目を付けたのは、身体の数カ所に埋め込まれた機械である。

 正直なところ、何のための機械かは分からないが、身体の一部っぽいし狙う価値はあるかもしれない。


 「ブッ壊す!」


 手始めに後ろ足の付け根に埋め込まれている機械を狙うことにした。


 「オラァッ!!!」


 ピコピコと音を鳴らす精密な電子機器に、拳を叩き込む。

 バチバチとスパークが放たれ、硬化し金属と化したウチの拳が痺れ……ることはなかった。

 どうやら、金属でありながらも電気に強いらしい。


 『グオオオオッ!?』

 「効いとるみたいやな!」


 何の機械か分からないが、効いているらしい。この調子で全部潰していきたいところだ。

 だが、キマイラも黙って見ているわけがない。


 『グォォォォン!!!』

 「うわわわわっ!?」


 流石に痛い所を突かれたので、キマイラはウチや虎の穴を振り落とそうとしてくる。

 だが、その程度では放すわけがない。ウチの【触手】の吸盤はエグい吸引力を持っているのだ。


 「大人しくしろっ!!!」

 『グオオオオ!?』


 そして、また埋め込まれた機械を壊していく。

 振り落とされそうになりながらも、全部で4つ、脚の付け根に存在したそれを全て壊した。

 だが、ダメージを受けた以外に変わった様子はなかった。

 

 「ありゃあ、はずれか!?」

 「だが痛打にはなってるみたい! 次はこっちを!」

 「おう!」

 『グオオオオン!!!』


 キマイラはその場で暴れまくり、ウチと虎の穴を振り落とそうとする。それでもあまり揺れないのは、ブロワーマンが上手く誘導してくれているおかげだろう。

 しかし何とか耐えしのぎ、頭部まで到着した。


 「ダメだ、刃が通らない!」

 「そんな硬いんか!」

 「諸星さんもやってみて!」


 まぶたが上へ下へと動き回るので、こじ開けることもできないようだ。

 しかし、上から攻撃を加えても硬くて貫通できない。アーマードライノの変異種は、相当な硬さを持っているようだ。


 「ウチもしばきあげたらぁ――え?」


 その時、ウチが手をかけていた場所……ちょうど人間でいう眉間みけんに当たる部分。そこが当所として開き、第3の目が現れた。


 『グオオオオ――』

 「ヤバッ――」

 「逃げて!」


 第3の目は、明らかに何かをいた。それは、例えばアニメとかゲームで見る、いわゆる『目からビーム』というやつだと直感した。

 虎の穴が逃げろと言った時にはもう遅い。あと一瞬後、ビームが放たれるというその刹那……


 「おああああッッッ!?」

 『グアオオオオォォォォッッッ!?』


 ウチはその目に硬化した右腕を突っ込んだ。

 腕が焼けるように熱い……い、いや『冷たい』! 冗談かと思うほどの激痛と、悪寒がウチの右腕を駆け抜けた。


 「諸星さん!? 大丈夫!?」

 「う、腕が……!? そんな……!?」


 痛みの限界に、ウチは腕を引き抜く。

 ――そこに、ウチの腕は無かった。肘あたりまで、丸々無くなっていたのだ。


 「うおああああぁぁぁぁッッッ!!!」

 『ガ……グゥゥゥゥン……』


 ウチが痛みに絶叫したと同時に、キマイラは崩れ落ちた。

 強敵を腕一本……この代償が安いかどうかは、ウチには分からない。


 「ば……馬鹿な!? カオス・キマイラが!?」


 痛みでうずくまるウチ、それを応急処置するブロワーマンと虎の穴。

 そして、死んだカオス・キマイラの前に現れたのは、追い詰められてボロボロになった、早乙女似の女研究者だった。


 「強化されたコモドドラゴンに噛まれた君が生き残れる目は、万に一つも存在しない。もうじき、君は死ぬ」

 「ジャラアアアアァァァァ!!!」


 ドンは怒りに満ちていた。

 女研究者を追っている途中で逆鱗に触れられたのか、あるいはウチの腕がなくなったからか。


 「……ククク……愚かだね」

 「何がだ」

 「カオス・キマイラの第3の目……『レイ・ゲイザー』の瞳に触れた小娘の自業自得だと言っているのだよ。そして……その努力の一切が無駄なものとなる!!!」

 「!」


 女研究者が、カオス・キマイラに触れた。

 すると、凄まじいスパークと共に、その身体同士が融合していく。


 「隠し玉を……」

 『アッハハハハ!!! これこそ究極! 完全体! 神なる生命体の誕生だ! 盛大に祝ってくれたまえ!』


 カオス・キマイラの眉間の目があった場所から、裸の女が生えている。

 先程の美しい威容を持ったキマイラの姿はどこにもなく、ただ欲望のために存在する獣の姿だけがそこにあった。


 『私は『アルティメット・キマイラ』……もう一度名乗らせていただこう。『アルティメット・キマイラ』と!!!』

 「ふざけた奴だぁ! あの女!」


 怪物、『アルティメット・キマイラ』との最終決戦が始まった。




――――――――――




 『Tips』


 【変異種】

 ・まれにモンスターの中に現れる、生まれながらの突然変異体。

 通常のモンスターよりも知能が高かったり、力が強い、大きい、特殊なスキルを持っているなどの違いがある。

 その危険度は個体によって全く違う。同じモンスターの変異種同士でも、まるで強さが違ったりする。元となったモンスターよりもはるかに弱いなんてこともある。

 危険度や温厚な性格から、未だに討伐されていない個体も存在する。


 【特異個体】

 ・【変異種】のように突然変異したのではなく、戦いを経て生き延びることで力をつけた。

 そのほとんどは傷だらけだったり、隻眼・隻腕などの欠損、そこまでではなくとも角などの欠損などの特徴が多い。

 戦闘経験やそこからくる狡猾さなどを考えると危険度は並の【変異種】よりも上。


 【ユニークモンスター】

 ・ややこしいことに【変異種】、【特異個体】とは別に【ユニークモンスター】という種類が存在する。

 こちらのユニークモンスターは、どの個体も完全に同じ見た目、強さをしている。討伐すると新たにリポップするが、どこのダンジョンに出るかはランダムである。


 過去に現れたモンスターの変異種(一部を抜粋)

 【フルアーマーライノ】:『アーマードライノ』の変異種。原種よりも硬く、力強くなっている。

 【オーガの狂戦士】:『オーガ』の変異種。なんとダンジョンの外へ出て暴れ狂い、いくつもの建物を破壊した。

 【ファイナル・デスソード】:『デスソード』の変異種。遠距離から即死の斬撃を飛ばしてくる。

 【ミネルヴァ】:『オウル』の変異種。目が合った者を即死させる。運よく洞窟系ダンジョン内ですみやかに討伐された。

 【ポイズンウルフ】:『ウルフ』の変異種。毒とワイヤーのような毛で戦う。未討伐。


 特異個体の一例

 【『渡り』オーク】:いくつものダンジョンを渡り歩き、傭兵のような仕事をする歴戦のオーク。

 【『勝利の栄光』混沌の右手】:幾たびの勝利を経験し、ついに勝利の栄光を得た混沌の右手。その右手は誇らしげに掲げられている。

 【『鉄翼』グリフォン】:激しい戦いの末、翼が鋼鉄のように硬くなったグリフォン。

 【『数多に輝きたる巨人』ゴーレム】:戦いで身体が圧縮されたり熱などで成分が変わったりすることで、ルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト、ダイヤ……様々な宝石の身体を得たゴーレム。毎年脱皮(らしき行動を)するので、討伐は絶対厳禁。法に守られたモンスター。

 【『癒しの絶叫』マンドラゴラ】:他のモンスターに食われそうになったが、傷ついた体を癒す絶叫に覚醒した。


 ユニークモンスターの一例

 【ミノタウロスキング】:王の(強さ、権威を持った~などの)ミノタウロスではなく、正真正銘ミノタウロスの王。その力は、軽い一撃で戦車が真っ二つになるか、爆散する。

 【メタル・メッキ・スライム】:いわゆるレアモンスター。というか、大多数からはレアなだけのモンスターと認識されている。こいつは『全部のダンジョンに1匹はいる可能性』がある。やはりレアなだけでは?

 【ビッグ・ダディ】:巨大な機械のモンスター。こちらから手を出さなければ襲ってこないらしいが……?

 【寄生虫『B』】:イモムシくらいの大きさの寄生虫。宿主に絶大な戦闘力をもたらすが、宿主はいずれ死に至る。

 【ミッドナイト・アニマル】:マイアミにてとある殺人鬼がモンスターになったとも噂される。動物のマスクを被っている。彼、あるいは彼女の信奉者は『マスカーズ』と呼ばれている。


 ・この【変異種】、【特異個体】、【ユニークモンスター】の3つは。(例:【歴戦の(特異個体)即死の魔眼を持った(変異種)ミノタウロスキング(ユニークモンスター)】)



 ※多分この先出てこない奴らなので供養がわりに。


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