閑話 【合成超生物研究報告書】/【ある研究員の手記】/【とある音声記録】/【???の記録】
【合成超生物計画について】
この計画書は、人間に代わるダンジョン探索者として、テイマーの存在無しで人間に従属するモンスター、通称「合成超生物」の研究についてである。
ダンジョンでは、モンスターは無尽蔵に出現することが研究で明らかになっている。そのメカニズムは未だ解明されていないものの、本計画はその特性を最大限に生かしたものである。
【ある研究員の手記】
○月1日
今日からこの胡散臭い目的の研究所に配属されたので、記念に日記をつけることにする。
クソッタレ、何が探索者の犠牲を減らすだ。裏で生物兵器を売りさばこうって魂胆が透けて見えるぜ。
特にあの女所長だ。美人だが、中身は腐れ野郎の臭いがプンプンする。それもただの腐れ野郎じゃねぇぞ。ド級の腐れ野郎、ド腐れ野郎だ。
全く、初日から先が思いやられる。
○月2日
同僚にヤベェのがいた。暇があれば、いやなくてもジャンクフードばかり食ってる奴だ。
それなのに太ってるとか一切ない。なのにあの所長よりはるかに美人だ。所長はそれに嫉妬しているようだが、コイツはそんなのどこ吹く風。ジャンクフードにしか興味がないようだ。
口を開けばジャンクフード食べないかとしか言わないような奴に、何を嫉妬する必要があるのか。これがわからない。
○月3日
今日の研究はモンスターを切り刻むことだった。
何の変哲もないゴブリンだったが、まさか生きたままだなんて。一体コイツをどこから確保してきやがったんだ。
賭けてもいいが、この研究所は危ない場所と繋がってる。それか政府が一枚噛んでる可能性だってある。
探索者協会は何やってんだ。あのポリスメンだっているだろうに。
○月4日
切り刻んだゴブリンを、別のモンスター(スライムと、もう1匹はコボルト?)と無理矢理接合させる。これに何の意味があるのかと思っていたら、あの女所長が変な薬を持ってきて投与しやがった。
するとあら不思議、動き出した。スライムには拒絶反応を無くすような緩衝材の役目を果たすって話だが、まさかここまでとは。
で、なの変な薬。あれは間違いなくダンジョン産だ。恐らく、ポーションかそれに準ずるもの。
ポーションってのはダンジョンで見つけてくるか、ダンジョン産の材料から自分で作るかだ。専門の技術か、【錬金術】とかのスキルがいる。
所長……いや、あの女はそれを持っている。あるいは持っている奴と繋がりがあるのだろう。協会も怪しいか?
いや、探索者崩れなんて珍しくもない。そんな奴を囲ったのかもしれない。男なら誘惑、女なら……金か?分かんね。
○月7日
今日のモンスターはオーガだ。馬鹿が、B級に片足突っ込んだモンスターなんてどっから密輸してきたんだ。
こいつはゾウでも致死量を超えたレベルの麻酔じゃないと動きが鈍りすらしないもんだから、いつ目が覚めるかヒヤヒヤした。こんな連中を殺せる探索者達もヤバいな、正気じゃない。
そしてこんな研究やってる俺達もだ。あのクソ女は人類のためだなんてほざいてるが、一部のクソ共の利益のための間違いだろ。
あークソ、ここにいる奴ら全員死なねぇかな。俺含めてでもいいから。
○月10日
どこぞのお偉いさんが研究所に視察に来やがった。顔も隠さずに馬鹿としか言い様がない。
というか、あのクソアホのクソ間抜け面はテレビで見たことがある。確か国会議員の
そしてやっとこの研究の目的が分かった。永遠の若さとか不老不死ってやつだ。実にくだらない。人間の、生物としての美しさは老いながらもその短い生を全うし、最期を迎えることにあると俺は考えている。いい年の取り方はしたいものだ。それも叶わないだろうが。
つまり、結局のところこの研究はクズでゲスでカスな社会のゴミ以下の貴種気取り連中が、欲望を叶えるためのものだった。
ふざけんなよクソゴミクズ共が。俺はてめぇらのブサイクな面を維持するために研究者になったんじゃねぇ。
何が永遠の若さだ、何が不老不死だ。国民の税金でやることかそれが?
この研究を国民に還元するなら、百歩譲って良いとしよう。だが、あのゲロブサイク醜い肉塊クソ野郎や激臭香水ケバ厚化粧クソババア共はそんな気はさらさらなさそうだ。
自分達が上位者気取り。安全圏にいると思い込んでやがる。だがその絶頂まで来ちまったんだ。後は落ちるだけだ。俺が突き落としてやるよ。
……もし頂点まで上り詰めて、落ちなかった奴がいるのなら。そいつはきっと神様みたいな奴か、多くの人間に慕われてるいい奴なんだろう。幸せ者だ。
そんな奴がいたら、この研究を暴いてくれって思うね。
○月12日
今日も今日とてモンスター共を切り刻んでいた時だ。
疲れからか、手が滑ってモンスターをぶっ殺しちまった。しかもレアモンスターだ。
流石にヤバいと思ったんだが、それ以上のことが起きた。俺の手にスキルジュエルが現れたんだ。
スキルジュエルはダンジョンの外へ持ち出すことはできない。それは絶対のルールだ。
つまり、この研究所はすでにダンジョンと化している。
晴れて俺達もモンスターの仲間入りってことだ。そして恐らく、気づいているのは俺だけ。あのクソ女ですら気づいてないかもしれない。
ダンジョン化が判明するのは、モンスターが湧いて初めて分かることだ。
ダンジョン化してもモンスターがおらず、何年も気づかれなかったなんて話もあるほどだ。
気配に敏感な探索者でも、気づかずに中で人が暮らしているタイプのダンジョンを感知できなかったなんてこともある。
つまりは、ここで叶わぬ夢を研究して、崖っぷちどころか転落してるのに気づいてない間抜け連中が勘付くことは無いということだ。
ちなみに、スキルジュエルはありがたく使わせてもらった。なんと、【アイテムボックス】だった。俺が探索者なら大当たりだよクソッタレ。
まあ、この日記を隠すにゃ丁度いい。せいぜい有効活用させてもらうぜ。
○月15日
またお偉いさんが来た。今日来たのは、胡散臭くて薄気味悪い笑みを浮かべた女だ。
いや、女というのは語弊があるな。どう見ても中高生に見える。どんなに高く見積もっても大学生くらいか。それくらい若い。
だが、あの純白で清廉潔白を体現したみたいなスーツとも学制服ともつかない服装には見覚えがある。
あれは探索者協会、つまりはWDAの上層部のどっかの部署の制服だったはずだ。
クソッタレ、協会までバックについてやがるのか。
あのクソ女は、若い女に向かって研究の進捗やら不老不死とかがどんな素晴らしいか説いてやがる。
若い女はそれに丁寧に相槌を打って聞き入っている。が、どうも他の連中とは違うようだ。
あの目、恐ろしいほどに何も思っちゃない。不老不死とか永遠の若さに、何の感情も持ってねぇ目だ。あるいは信じてないかだ。あのクソ女は気づいてないみたいだが。
人の心が分からないってのはある意味使えるな。
不気味だ、何考えてんのか分からねぇ。
人を見る目には自信があるが、あんな奴は見たことない。余程、心を隠すのが上手いのか。
若く見えても、政界という万魔殿で鍛えられた海千山千の魑魅魍魎ってことか。
後で誰だったか調べよう。お偉いさんならどこかしらに顔写真とか情報あるだろ。ウィキとか。
『若い女お偉いさんの目的考察メモ』
・大胆だが潜入捜査
・マジで計画に乗ってる
・ここを支援→後から潰す→実績とか得るマッチポンプ(政治的に上にのし上がる?)
・不老不死とかに興味は無いが、副産物である合成超生物に用がある(軍事利用?)
・政敵に騙されてる、あるいは騙されたフリ
・研究内容に興味を抱いたが、クソ女のクソさに辟易して興味を失った
・全部、ノリ
○月20日
今日の
問題はもう1つ、いや、もう1人の方だ。人間だった。
ああクソッタレがふざけんなよマジでもう死ねよクソ共もう天国でも地獄でもいいからこの世界から消えろよ
まだガキだ、年端もいかねぇ。それをあのクソ女、「クローンベースの合成人間だから人権は無い」とか「失敗作だが処分するのももったいない」とか抜かしやがる。
誰のクローンかは明白だ。クソ女だ。自分のクローンにすら何の感情も持ってねぇらしい。まあ、モンスターとの合成人間にしちまうくらいだ。人間性を求めた俺の間違いだな。
もう俺の中じゃあいつは人間じゃねぇ。人の形をした糞袋で、たまたま意味のあるような言葉を発してるだけだ。それが天文学的な確率でこんなクソ研究所の主任まで運だけで上り詰めやがっただけ。そうに決まってる。
幸運と不運は等価だ、幸運が過ぎれば必ずツケがやってくる。あのクソ袋は幸運が過ぎた。近い内に必ず報いがやってくる。
ダンジョンは決して平等なんかじゃねぇが、誰に対しても公平だ。それを利用して、自分で戦いもしねぇ奴らの私腹を肥やさせてる奴らなんぞに与える慈悲は存在しない。俺含めてだ。
Dungeon is Watching You
ダンジョンは常に俺達のことを見ている
俺の恩師が言ってたことだが、ガチなことを祈るぜ
○月21日
ダンジョンは常に俺達のことを見ているって話だが、マジかもしれねぇ。
あのクローンのガキを逃がすことに成功した。
あのガキ、歳の割に異様な身体能力がありやがる。しかも、教えたことはすぐさま実行できる。
腐りきっても天才か何かなクソ女の遺伝子のおかげか、モンスターの力か……いや、このガキ自身の才覚だろう。そう思うぜ。
切り刻んだモンスターの素材廃棄処分用のダストシュートなら外に繋がるルートがある。
それをガキに教えて、実験に失敗したとか適当な理由つけてダストシュートへ入れてやった。
ただ、最近の俺の動きのせいか怪しまれている。
確かにデータぶっこ抜いたり、大事な資料パクったりデータぶっこ抜いたりしたが。
全部俺のアイテムボックス行きだ。俺が生きてる限り、証拠は俺が握ってるんだ。
そして俺が殺されるってことは無い。
こいつら、ケチだし万年金欠だ。モンスターが相当高価らしい。だから俺という素材をあえて殺すことはせず、きっとモンスター共とくっつけるはずだ。
あのクローンのガキを作るのにも相当時間と金をかけたみたいだしな。ま、俺のせいで全部水の泡だが。笑っちまうぜ。
幸運と不運は等価。
俺の命運が尽きるのも時間の問題だろう。だが、あのガキはこのクソッタレた世界に生み出されたという特級の不運と、あのクソ女のクローンっていうド級の不運がある。つまり、これからの人生は天運が味方してるってこった。
肝心の俺の安全だが……まあいいさ、覚悟はできてる。
俺もここのクソゴミ連中とは同じ穴の狢だが、この覚悟だけは違うと信じてるから。
化け物になったって正気……は保てずとも奴らに従う気はない。
そもそも、作った合成超生物を制御する方法なんて無いしな。
ああ、神様仏様ダンジョン様
あんたが本当に公平ならどうかこの罰当たりなクソッタレ共に裁きのあらんことを
願わくば哀れなクローンのガキのこれからに幸のあらんことを
【とある音声記録】
『まったく嘆かわしいことだ。この研究所から裏切者が出るなんてね。でも愚かで無意味な行為だ。この私を裏切って無事で済むなんて思っていたのならお笑いさ。ご丁寧に飛び降りて脱出をはかるなんて。空中に逃げ場はないというのに。まあ、何の意味もない人生、ご苦労様としか言い様がない。で、このゴミの処分はどうしたものか……』
『イヒヒヒヒ……わ、私に良い提案がありますでございますぅ……ヒ、ヒヒヒヒ……』
『ほう? 君ならどうするのかね、助手君』
『イヒッ……あ、あのジャンクフード・マニアに改造させるのが良いかと……』
『ふぅん? それは面白そうだ。なら早速運びたまえ。準備もさせておこうか』
『イヒヒヒヒ! お、仰せのままに!』
――――――――――
【???の記録】
『あ、■■さんお疲れ様々です。これ、良かったら食べてください。新発売の特製、ピザ&バーガーのメガ盛りマックスウルトラDXです。え?いらないんですか?いやいやそんな事言わずに。プロテインだってありますよ。ピザとバーガーと一緒に食って筋肉つけましょうよ。こんな研究ばかりしてると体が鈍ってしまう。ほら、遠慮せずに。え?本当にいらない?じゃあ仕方ないですね、無理強いは出来ませんよ。ええ、はい。気が変わったらいつでも言って下さいね。ピザとバーガーは常備してますから。やっぱり近くにチェーン店があるのは便利ですね。あ、それとこのピザとバーガー、皆食べてるんですよ、それでも本当にいらないんですね?無くなっても知りませんよ。ああ、残念です。貴方にもこのピザとバーガーの良さを伝えたかった、分かって欲しかった。それだけなんですよ。貴方にも幸せになって欲しいから言ってるんですよ、■■さん。貴方がその気になるまで、気長に待ってます。今度は皆でピザとバーガーを食べましょう。貴方の奥さんと娘さんも呼んで。きっと楽しいに違いありません。でもね、それだけじゃ足りないんですよ。我々ジャンクフード好きが貴方達家族を超高カロリー浸けにした程度で満足すると思いますか。違うでしょう、その通り、我々は世界をピザとバーガー浸けにするまで止まりませんし、死にもしませんよ。誰が相手でも、それこそあのポリスメンでもです。この活動は誰にも止められないし、貴方達はただ、為す術も無く、何も分からずジャンクフードを貪る事しか出来なくなる。そしたらこの世界から争いなんて無くなるし、核兵器は温室でピザとバーガーを焼くためのオーブンと化し、生物兵器達はひたすら料理を作る労働力となる。ほら、素晴らしいとは思いませんか。皆が幸せに手を取り合って雑に美味しいジャンクフードを食べる。祝福を贈りたくなる程に素晴らしい世界になるでしょうね。世界がピザとバーガーに染まった暁には貴方にも特別なメニューを贈りましょう。その時はこんな湿気た研究所ではなく、よりどりみどりのジャンクフードが満漢全席レベルで出てくる食卓で皆と一緒にジャンクフードを食べましょう。世界中がピザとバーガーなんです。我々が、貴方がピザでありバーガーなんですよ。この上なく幸福に満ちた事だ。ジャンクフードになれるなんて。さぁ、貴方もジャンクフードになりましょう。何も怖い事はありません。ピザとバーガーに身を委ねて生きましょう。具材になるんです。そうすれば、辛い事、苦しい事など夢だったかのように充実した毎日を送れます。んん、違いますね、違います、そうじゃない、そうじゃないんだ。ピザとバーガーになるんじゃない、もう既に1つのジャンクフードなんだ。こんな簡単な事にも気付かないなんて。だったら食卓に並んでないとおかしいな。いや、店じゃなくてまさかの家庭料理って可能性もあるか。でもこんなに大きいピザとバーガーを作れる家庭なんてそうそう無いぞ。さて、困った。大きいオーブンやら何やらを作る予算なんて、経費で落ちるかな?当たり前か、落ちるに決まってる。むしろ落とす。ここにいる研究員は全員、ジャンクフードなんだから。それくらいの予算なら何とか捻出できる。というか自分の寝床に金をかけないでどうする。家も同然なんだぞ。いや家だぞ?ここで働いてるからには、金ならある筈だ。無いならゴミ捨て場にでも行ってろ。きっと栄養分はたっぷりある。文字通り腐るほどな。ネズミもカラスもゴキブリも大歓迎のカーニバルだ。我々はピザにしてバーガー。いつかは食われる運命にある。それを受け入れるか、抗うか、それは本ピザと本バーガーの自由だ。だが、それでも腐るわけにはいかない。腐るくらいなら、死んだ方がマシだ。だから俺達にはモンスターに対抗する滋養強壮効果が備わっている。つまり我々はモンスターにジャンクフードするし、モンスターはジャンクフードになれない。だが、モンスターは俺達を食おうとする。これは我々がモンスターにも通用する真のジャンクフードであるという事に他ならない。モンスター達はジャンクフードを食いたがってるんだ。俺達にはその願いを叶える義務がある。しかし、自分が食われてしまっては、一人は救えても大勢は救えない。だからピザとバーガーをバラ蒔くんだ。一人でも幸せにするためにね。だから■■さん、貴方もジャンクフードだ。』
(凄まじく強烈なパンチを最後に映像は途絶えている)
――――――――――
【違法合成食品フードジャンク】
・飲食店の闇。正式に認可されていない技術を取り入れた、最新式のジャンクフード。『超生物研究所』のテクノロジーが使われている。
多くの違法な薬品が使用されたそのボディは、食品にあるまじき色彩に輝いている。また、薬品の効果で体液は強酸性かつ激しい可燃性を持っており、近接戦は危険である。
また、違法な薬品による生体増殖効果により、疑似的に触手を作り出し、それで攻撃することも可能。
――コアには『超生物研究所』の研究者が使用されている。
超生物研究の真相を知った彼は計画に反対するが、それを良く思わない所長によって、モンスターの材料にされたのだ。
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