セカンドハンズ・メモリー

koge

第1話 『錆びた時計』ー1

「お疲れ様でしたー」

「さー、かつ丼でも食って気合い入れるかー」

「今日どこ集合だっけ??」


 ここは都心部のビジネスビルの一つ、定時で上がったサラリーマンたちが帰路につき、これからまだまだ残業をするものは最後のひと踏ん張りにと夕食の物色に出ていき、また別のものはアフターワークのお楽しみに繁華街に消えていく。そんな人ごみの中ビルを出て歩きながら時間を確認する男がいた。


「六時半か、そろそろ月島の旦那のところに新しい品が入るころだしちょっと回り道して帰ろう。」


 男は誰に聞かせるでもなく呟くと、オンタイムからオフタイムに切り替えるためにネクタイをほどいて乱暴にカバンに突っ込む。仕事の重圧から解放されて、自然と足取りが軽くなる、帰宅ラッシュの人込みも軽やかなステップですり抜けて最寄り駅の改札から外に出ると、男は人の流れとは外れて高架沿いへ歩を進める。やがて見えてくる目的地に男の顔は次第に明るくなっていった。男の視線は目的地の看板【月島リユース】に注がれ、流れるように入店して店内に声かける。


「たのもー!なんか掘り出し物は入ったかい?」

「おー、古道こどうじゃん。来るかなと思ってたけどほんとに来るのな。でも大したもんはねーぞ?」

「へへっ、前来た時に今日あたりって言ってたしな、そうは言いつつチョイスが絶妙だからなー、楽しみにしてるんだ。」

「わーったわーった、今棚に上げるから店内を見て待ってろ」


 店主の月島が子供のようにじゃれながら聞いてくる古道を店においやって品物を取りに店の裏に引っ込んでいった。一人になった店内をゆっくりと入り口の近くから品物を見て回る。一人暮らし用の家電から始まり、あまり普段使いをしない電化製品や、古めかしい真空管ラジオなど、ふとラジオの側面に何かがあるのを見て拾いあげると


「お?このラジオ、キャラものシールが貼ってあるな……孫と一緒にラジオを聴いてたご年配かねえ」


 張られていたキャラクターは確かラジオキー局のマスコットキャラだったか。前の持ち主の痕跡を見てはあれこれ想像するのが、この男、古道譲司こどうじょうじの人とは少し変わった趣味だ。前回来た時から新入荷の中古品がいくつかあり、待ってる間の時間はあっという間に過ぎていく、集中していた古道が我を取り戻したのは月島が店のカウンターから呼ぶ声だった。



「うーん……月島の旦那には悪かったけど、そうそう面白い中古品はこねえよなあ」


 月島リユースからの帰り道を、鞄を頭の後ろ手に持ちながら古道はぼやきながら歩く。残念ながら月島の新商品は古道の興味を惹くものではなく、品定めもほどほどに店を後にしたのだった。考え事をしていてしっかりと前を見て歩いていなかったせいか、周囲の景色に少し違和感を覚えた古道は立ち止まって辺りを見回す。


「あれ?……どっかで曲がるところ間違えたっけか、でもこんな景色近所にあったっけなあ……ん?」


 曲がり角をのぞき込むと、夜道の電灯と電灯の中間地点にほのかに光る電飾があるのを見つけた。看板に屋号のようなものはなく【リサイクルショップ】と、かろうじて読むことができる店構えだ。シャッターもおりていないところを見るとどうやら営業中のようだが、通りの寂しさもありにぎわっているとは言いにくい。


「まさかこんなところで、新店舗発見伝とはね……妙に気になるし、入ってみるか」


 次に来た時にたどり着けるかわからないしな、と続けた古道は不思議と目の離せない【リサイクルショップ】に神妙な面持ちで入っていくのだった。

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