99→21

渡貫とゐち

99→21

「――どうしてあんなことをしたんだ?」


「ほっほっほ、儂にはもう時間がないんじゃ。九十九歳……、いつ死んでもおかしくはない年齢じゃ。だったら、罰なんてあってないようなものじゃ。金か? 時間か? どんな罰も、儂にとってはもう、痛手にはならんよ」

「……後がないから、あんなバカなことをしたのか……」


「バカなことか……、お前さんからすればそうかもしれんが……しかし確実に、世界は、科学は! 進歩するような実験だったはずじゃ! 数万人の犠牲など後々のことを考えれば少ないどころか、なかったものと思えるような被害じゃ。今だけを見れば、儂は大量殺人者じゃろうが……、だが! 儂がしたことが正解だったと、認められる時が必ずくる!!」


 ……まあ、儂が生きて、その結末を見ることはできないのが心残りじゃがな……――と、科学者は言った。


 高齢だからこそ、罰を恐れずに罪を犯すことができる男は、当然ながら反省の色がなく、自分のおこないが正しいことであったと信じ切っている……。

 もちろん、犠牲者が出た時点で正解ではないし、犠牲者が出ることを分かった上で決行したなら、悪意が乗る。悪意が乗れば、罪の意識があるのだ――裁くべき犯罪者だ。


「好きにしたらいいぞ、刑務所にぶち込んだところで、儂はすぐに死ぬ運命じゃ――」

「いえ、そうはなりませんよ」


 ――取調室。

 机を挟んで向き合う科学者 (犯罪者)と警察官――、罰を恐れない罪人は罪を犯すが、やはり罪人には罰を与えなくてはならない。

 寿命がないなら与えてやればいい……、年老いているなら若返らせてやればいい。

 罰を満足に受けられる器を、与えてやればいい――。


「あなたが作った『若返りの薬』を、ここで使うべきではないですか?」

「……それは失敗作のはずだが……、まさか、誰かが手を加えて完成させたのか……?」

「なんにせよ、ですよ」


 周囲にいた、屈強な男に羽交い絞めにされる科学者は……近づく薬を拒絶できずに、無理やり嚥下えんげさせられる。


 百歳間近だったボロボロの体はあっという間に若返り……、

 ――二十代の、若々しい体に変化した。

 彼の現在の脳と記憶を持った、若い体である。


「お、おぉ……っっ!! この体があれば――! まだまだ色々な発明ができ、」


「その前に、罪を償ってもらいますからね? ひとまずは終身刑――おっと、これでは発明も、研究もできませんね――それこそが、最もあなたを苦しめる、罰なのではないですか? ――博士」



 …了

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