消えた王女を捜す旅からはじまる、夢の世界の物語 ~傀儡とイシの蜃気楼~ 【改稿版】

遠野月

プロローグ

 ああ。まさか。

 こんなこと、現実にはありえない。


 光につつまれていく少女を見て、黒髪の女は恐怖していた。これは夢か、幻か。もしそうであるなら、いつから現実より切り離されてしまったのか。


「メリー!!」


 光につつまれた少女が叫ぶ。

 メリーと呼ばれた女は我に返り、少女に駆け寄った。しかし少女をつつむ光があまりに強いので、近付くほどに目が眩んでしまう。


「手を! 手を掴んで!!」


 メリーは少女に声をかけ、懸命に手を伸ばした。ところがすぐそこにいるはずの少女に手が届かない。器用に手を掴めずとも、腕を振れば当たりそうなほど傍まで駆け寄ったというのに。


「メリー! 見えないわ! どこ!?」


「ここにいます! 早く手を!!」


「見えないの! メリー! メリー! メ……」


 少女の叫び声が途切れる。メリーは慌てて、光へ飛び込んだ。視界が真っ白になり、何も見えなくなる。だが、いるはずだ。今の今まで、ここにいたのだから。メリーは両腕を懸命に振り、少女を探った。しかしその行為をあざ笑うように、光が弱まっていく。


「待って!!」 


 光が弱まって消えれば、二度と少女に会えないのではないか。メリーは不安におそわれ、全身を震わせた。光の中で藻掻き、叫ぶ。しかしどこにもいない。

 やがて光が収まり、消える。何事もなかったように夜の静けさが落ちた。


 深い森の底。

 淡い輝きをたたえた小さな沼のほとりに、メリーは一人立っていた。


 少女の姿はどこにもない。気配すらも残っていない。まるで最初から存在していなかったように消えてしまっている。


「……どうして!?」


 メリーは虚空に伸ばしたままの両腕を震わせ、うずくまった。


 無情の風が、吹き下りてくる。木々を波打たせ、水面を揺らす。

 静かなざわめきの中、小さなうめき声がひとつ、かすかにこぼれた。


 これは夢か、幻か。

 もしそうであるなら、いつから現実より切り離されてしまったのか。


 誰か。ああ、誰か。

 この悪夢から、掬いあげてはくれないか。

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