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  • 終章 試合終了後への応援コメント

    初めまして。
    この度は『熟読&批評します』企画にご参加いただき、ありがとうございました。
    主催者の島流しにされた男爵イモです。作品の方を拝読致しました。

    文章は安定感があり、内容はひたすらに王道を貫いた、文字通り万人受けを狙った作品だと思いました。ちなみに、この言葉に他意はありません。一部では作品を馬鹿にしたり、非難する意味合いでこの言葉が使われたりするので、あらかじめ誤解を招かないように触れておきます。そのうえで本作は、丁寧な進行が特徴的でした。人物の掘り下げや物語の起点となる出来事の描写、心理描写など。それらが適切なタイミングで開示され、過不足なく書き込まれていました。このことによって作品にスピード感が生まれていたかと思います。特にバスケの練習風景や試合パートにおいては、そのスピード感が遺憾なく発揮されていました。バスケの醍醐味の一つであるゴール付近での攻防の表現は、その場の熱量を感じさせてくれるものでした。

    タイムリープをする導入部分も自然なものになっており、お決まりの流れでありながらも手を抜かずに描写されていた印象です。それは他の場面でも同様で、本作においてはさほど重要でない情景描写に関しても最低限の書き込みは散見されました。作品全体から、作者様の創作に対する想いが窺えます。その他、物語の大まかな展開が易しいというのも読者への配慮でしょうか。このことによるデメリットにはのちほど触れますが、王道の話運びを意識されていたように思います。それによって王道好きの読者を捕まえ、同時に読書に親しみのない人のための間口を広げる。そうした意図が、作品から読み取れました。文章表現も平易でわかりやすさを優先したものが主だったので、作者様は十代のライト層を狙って本作を執筆されたのではと思いました。

    それに伴い、前述した人物の掘り下げが、読者の感情移入を誘ううえで上手く機能していたのではないでしょうか。特に八孝や日田親子の背景。これらがバスケそのものに深みをもたらし、「過去に戻って運命を変える」ことに意義を与えていたように感じました。清隆個人の話ではなく、皆の運命をも変えたのは重要なところです。彼らの人間性や想いが明らかになったことで、読者は清隆以外にも感情移入しやすくなったのではと思います。日田父に関しても、息子のバスケへの道を拒む尤もらしい理由が用意されていたのは好印象です。当然ではありますが、ただの頑固親父では説得力に乏しいので。様々な人物を通してバスケの形が描写されていたのは、作品の主旨とは別に楽しむことのできる要素ですね。

    では、続いては気になった点を以下の順で述べていきます。
    ➀ツインテールの女の子への清隆の態度
    ➁本作の強み
    ➂物語の締め方

    まずは➀から。
    作中では重要な場面においてツインテールの女の子(以下、小学生)が登場しますが、この小学生に対する清隆の態度が引っ掛かりました。まず、ここでは小学生の正体は過去の青海(→清隆の心残りなこと)と勝手に解釈したうえで話を進めさせていただきます。方言や、青海と八孝の回想での髪型からの考察です。そのことを踏まえたうえで清隆の態度を振り返ると、小学生に敵愾心を向けることに疑問が浮かびます。特に最終試合での、清隆の心情や台詞は腑に落ちません。清隆は小学生の正体や思惑を知らなくとも、試合の焦りや怒りをぶつけるべきではないと思うのです。小学生の存在があったから過去に戻れたわけですし、「必要なら時を巻き戻せる」ことは清隆にとって一つの覚悟になったはずです。その恩人を邪険にするのは納得のいかない部分でした。

    こういった違和感を小さくするためには、清隆の小学生に対する見方を改める必要があります。たとえば小学生は協力的で、病院の場面においても「もし心残りがあるなら、時を戻せる」と心配そうに明かすなど。あくまで清隆の側であることを描写するのです。そのうえで最終試合において助け舟を出そうとするが、それを清隆が心の中で拒否する。もし試合に負けるとしても、自分の選択に責任を持ちたい。その旨を心中で小学生に訴える。そうした流れの方が、双方にとって都合のいいものになると考えます。清隆は小学生に頼り切らず、一方の小学生は清隆の成長を知ることができるわけですから。これは一例にすぎませんが、このように二人の間にワンクッションがあると、関係性が自然なものになると思われます。

    次は➁。
    先ほどの「物語の展開が易しい」ことのデメリットの説明です。これに関してはすでに理解されているのかもしれませんが、本作はオリジナリティが希薄なものになっています。そのために、作品の強みが判然としませんでした。「幅広い層に楽しんでもらえる作品」というのは一つの強みでしょうが、この作品に限った話ではありません。物語を通して、なにを伝えたかったのか。本作において、作者様が注力されたのはどんなことか。独自性や意外性を意識されていたのか。コメント前半部分において私が読み取れたことはまとめましたので、それ以外になにかあれば是非とも返信コメントでお教えいただければと思います。ちなみにここでのオリジナリティは、唯一無二のものを指しているわけではありません。もはや、そんなものはありませんし、似たようなものは世界に溢れかえっています。あくまでも作者本人が最も腐心して作り上げたものを、ここではオリジナリティと呼ぶことにします。

    私がこのことに言及するのは、本作に二面性があるからです。良く言えば読者に易しい物語、悪く言えば既視感のある物語。客観的に見た場合、本作は「それなりに読書をしてきた人間」を引き込む力は弱いです。物語のすべてが想像の範囲内で進むためです。予想を裏切られることがなければ、意外性も生まれない。良くも悪くも安定感が強すぎるのです。そのことが作品の二面性につながっています。私は、作者様の創作スタンスを否定するつもりはありません。ただし、無難な選択をしすぎると作品は平凡で退屈なものになる。そのことをお伝えしたかっただけです。王道を書くとしても、ちょっとした足し算やハプニングを挟むことで作品は化けます。あえて大きな障害や、挫折を用意してもいいでしょう。ときには予想外の人物同士の衝突を書くのもアリです。自分だけの味付けをして、より作品を華のあるものにしていただければと思います。

    そして➂、物語の締め方について。
    こちらは、やや強引な印象を受けました。話としては「過去に戻って運命を変えたハッピーエンド」と綺麗な形なのですが、その他の過去に戻った清隆の今後や他のメンバーとの関係、小学生の謎はすべて読者の想像に丸投げになっています。これではさすがに、読者に任せる内容として多すぎると思いました。話の風呂敷を広げたものの、適当に結んで終わらせた感が否めません。もしかしたら続編を考えておられるのかもしれませんが、せめて清隆の想いは描写されても良いのではないでしょうか。あるいは、小学生の秘密に迫っても面白いかもしれません。なにかしら招いた事象への補足がなければ、物語の都合の良さばかりが目立ってしまいます。幸運なことに過去に戻って、運命を変えることができた。そこに、もう一押しほしいところですね。新たな〝今〟を生きる清隆は、なにを思うのか。過去を変えたことをどう考えているのか。そうしたことを述べて話が締め括られた方が、形としてはしっくりくると思います。

    最後に気づいた範囲で誤字の報告などを。
    第2話より:年が明けてすぐに行われる、京都府高等学校新人大家。→大会
    第66話より:まだセンターサークルの九条高校側にいる河北を無視するようなスリーインだった。→スローイン

    あとは複数の話で、文中の段落初めの一字下げがされていない箇所がありました。意図してのことでないのなら、修正することをオススメします。ご存知かもしれませんが段落初めの一字下げは、小説の編集画面の「記法と整形」にある「段落先頭を字下げ」を押すことで、一括で字下げすることが可能です。編集の時間短縮になるので、該当箇所を修正される際は活用してみてください。以下、要修正箇所の含まれる話。

    第3、4、15、17、28、29、31、32、33、35、36、37、38、41、43、46、48、50、55、58、65、66、68、71、73話

    以上になります。
    もし批評に関してご不明な点や不備があれば、私の近況ノート『11/3開催 自主企画専用ページ』にて対応致します。ご要望に応じて批評内容の解説も致しますので、気軽にお申し付けください。ここで述べたことが、作者様の創作活動の役に立ったのならなによりです。

    作者からの返信

    このたびは作品に対する講評をいただきありがとうございました。
    たまたま見かけた企画でしたが、ここまで細かくお読みいただいた上で、丁寧に講評していただいたことに驚きます。
    また、作品における意図が正しく読者側に届いてほっとする反面、届ききれていない箇所もはっきりと明示されているおかげで、次作を執筆するにあたって参考になります。
    誤字も報告ありがとうございました。
    指摘された箇所は修正しました。
    「段落先頭を字下げ」の機能は見落としていましたが、ワードなどからコピペするときに便利ですね。
    次回以降活用します。

    今回の講評で、この作品を書いてよかったと思うと同時に、次作へのモチベーションも高まりました。
    企画に参加してよかったと思います。

    編集済