第3話 茜色の空

「転校生を紹介します」

担任の先生が珍しく教卓の前に立って言った.だから,廊下側の席が一つ増えていたのか.1人で納得していると入ってきてくださいと,先生が優しく言った.前の扉から肩につかないくらいの髪の長さの丸メガネをした女の子が入ってきた.身長が180に少し足りないくらいの先生との身長の差がそこまでないことから,彼女が女子にしては身長が高めだということがわかった.

自己紹介をしてもらえますかと,先生がいうのを遮るように,「大阪の学校から来ました.茜 朱碧です.前の学校では剣道部と美術部に入ってたので,この学校でもはいりたいと思ってます.途中からの入学ですがよろしくお願いします」と関西のイントネーションで彼女が一息に言った.先生が少しだけポカンとしていたが,すぐに「席はあそこですよ,教科書が揃うまでは隣の席の人に見せてもらって下さい」と言い,そして先生は教室から出て行った.彼女の周りにはすでに人だかりができている.たくさんの質問に彼女が答えているようだった

「好きな食べ物はやっぱりたこ焼きやね,あと甘いものも好きやわ〜」 「この時期に転校して来たんは,父さんが急に転勤になっちゃったんよ.で母さんが単身赴任は絶対いややったらしくて,家族全員で東京に引っ越してきたってわけなんよ」好きな食べ物から,なぜこの時期に転校してきたのかという踏み込んだ内容の質問まで彼女は丁寧に答えていた.そして僕はそれを離れた席から見ていたわけだが,彼女に言わなければならないことを思い出した.この学校の剣道部はもう部員が僕だけの,実質廃部みたいなものだということを.

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