第25話 スキゾ・キッズのレポート

 19歳の青年KSは、大学に入学後、5月の連休明けには、自宅に引きこもってしまった。


 しかし、それがきっかけで、ライトノベル作家の森山猫の夫婦と19歳のKSは、インターネットを通じて、親友になった。


 本宮勝己は、KSという悩める青年と、いろいろなことを話し合って過ごした。


 本宮勝己が、孤児であることを公表して、児童養護施設の実情を取材したのは、KSと話しているうちに、過去と向き合うことを避けている自分の気持ちに気づいたからだった。


 孤児として、本当の両親を知らないことに、引け目のようなものを感じていたことを著者の中に本宮勝己は書き記している。


 本宮勝己は児童養護施設を18歳で出たあとに、一年間、民間の自立援助ホームで元教員の竹宮薫と接する機会があった。

 自立援助ホームで暮らしながら、彼は工場に非正規雇用ながら勤務を始め、一人暮らしのための資金を貯めた。


 里親として、竹宮薫は彼に接した。「この時、透明ではない大人に初めて接したような気がした」と勝己は記している。


 透明ではない大人。

 KSにとって、本宮夫妻はそんな感じの大人に思える。


 KSはラノベ作家の森山猫もりやまねこに、自分が今、とてもつらい状況に陥っていることやそれとくらべてラノベに登場する人物たちに共感できないという内容のメールを送った。


 今から思えば、それは青年のSOSでもあり、八つ当たりのようでもあった気がする。


(こんなことを書いたんだから、返信なんてあるはずないよな)


 ところが【森山猫の妻】という女性から「もう少し詳しくどの作品の、どのキャラのことをそう思ったのか、教えてくれる?」と森山猫のホームページから、返信があった。


 森山猫のホームページは作画したマンガ家や他の作家との対談や新作情報などが掲載されている。


 官能小説家の藤井茉莉や人気オンラインゲームの企画原案作画をしているマンガ家メイプルシロップなど、有名な作家や人気マンガ家との対談は、書籍化はされてはいないが、かなり読みごたえがあるものとなっている。


 森山猫は、ラノベやマンガのマンガの原作を本宮勝己が執筆するときのペンネームである。



 引きこもりになる子供というと、森山猫さんは、どんなイメージを持っているだろう?

 部活はさぼって自主的に帰宅部。

 性格は根暗で、コミュ障。

 勉強は苦手で落ちこぼれ気味。

 スポーツも苦手で団体競技はまざっていても、活発さはない。

 そしてある日、いきなり理由は不明で学校へ来なくなる。

 そんなイメージかもしれない。


 でも、それはちがうんだ。

 そんなわかりやすいステレオ・タイプな子供じゃない。

 それと真逆のイメージ。

 部活はちゃんとさぼらない。

 成績も悪くない。

 まわりを笑わせるぐらい、休み時間によく話す。


 なんでそんな子供なのに、ある日突然、自宅の部屋に引きこもるようになるのか疑問に思うかもしれない。

 これは何を根拠にそんなことをいうのか。

 これは、僕の中学生の頃の特徴だったから。

 そしてのちに、僕は引きこもることを選んだ。


 引きこもりになる人は、そんな世間でよく言われるような、わかりやすい人物像を持っていないんだ。

 これから僕は当時の自分をモデルにして、ふたりに引きこもっているあいだに、他の引きこもりの人たちとメール交換して話してみて少しだけわかった、引きこもりになりやすい子供の特徴を話してみたいと思う。


 優等生タイプの子供。

 僕はちょうど、このタイプの子供だった。

 勉強は、何も親に言われなくても、自分でしっかりやっている子だった。

 部活は運動部で二年生からレギュラー。

 教室では笑いが取れないかと、小学生の頃から狙っていて、話している子にまざって話しかける子だった。

 親御さんたちからしたら、こういう子供が引きこもりになるとは思えないかもしれない。

 むしろ真逆に見えるんじゃないかな。

 でも、この優等生ぶっていることが、引きこもりになる原因の一つになってしまう。


 なぜなら、そういう子供はいつも、まわりとくらべて優等生ぶっていないといけないと、むきになりがちだから。

 つまり自然にそうなったわけじゃなく、がんばってそうしていた気がするんだ。


 そんな心理的に追い立てられているような気持ちで何年もいたら

どうなっていくのか。

 そう、いずれ限界になってパンクするってこと。

 それで引きこもりが爆誕するってわけなんだよ。


 これは親からすると、とてもびっくりする出来事になるわけだ。

 昨日まで優等生だった自慢のわが子が、なんといきなりその真逆の引きこもりに変貌してしまったと思うから。


 それはやっぱり、親が育てかたが悪かったからだと思った人もいるんじゃないかな。

 どうせしつこい教育ママとか、家でえばっている給料のいい父親とかがいて、子供に優等生でいることを無理強いしたからからだろうって。

 親ってちゃんと、子供の心の許量量を見極めて要求するべきなんじゃないのかと。

まあ、たしかにそうなんだけど、ポイントは、僕の家庭の場合は親から「勉強しないとダメ」とか「部活をかんばらないと」とか言われた記憶がまったくない。

 親が僕に対して、何かを強要したことは一切なかった。


 親の要求レベルでいえば0《ぜろ》だった。

 だから、優等生ぶっていなければならないっていう気持ちは、僕の心のなかで勝手に作られていったものってことなんだ。

 親とはまったく関係なく、ね。

子供が親の知らないうちに、自分の気持ちに勝手に追い立てられていって、限界がきたらパンクしてしまう。



 この優等生ぶっているという特徴に自分で気がついたら、どうやって食い止めるのかを考えてみたことがあるから、ちょっと話してみることにする。

 そう、対応策なんだけど、これは子供の心の中の問題なんで、かなりめんどくさい。だって、親や他人には見えないから。

 でも、これはその子の生まれついた自分とはちがう性格をしているからとわかってくると、親は簡単に見抜ける。

 わが子はもしかしたら、このタイプかもと意識してみていると、その変化した瞬間に気づくことができる。

 子供が中学生になるまでの、長い観察期間があったはず。

 ちゃんとありましたよね?

 その期間をなりゆきまかせで、ぼおっと何も考えないで自分のことだけしか考えてないってことをスルーしていなければ大丈夫。

 僕の親のようにこの期間を「子供は勝手に育って、優等生になっちゃったから、手がかからなくてすっごく楽ちんだわ」と思っていると、いきなり家庭に引きこもりが誕生する。

 ハッピーバースデー!


 「親から何も言われなくても、なんでもやってくれるいい子」とか、それはかなり危険だよね。


他にも特徴はあるよ。

「まわりな人に対する態度が学年ごとにぶれて変わる」とかね。

 僕は小学生のころから、まわりに笑いを取ろうとする子供だったわけだけど、それは中1までのことで、中2になると「無口」な自分になった。

 笑いを取るどころか、まわりの人と会話するのも避けるようになった。

 これは、いちおう新学期のクラス変えでまわりの人が親しくなくなったからでも、すべりすぎてまわりから無視されるようになったからでもないと言っておく。


この敬遠したくなる気持ちに、当時の僕は自分でも、とてもとまどっていたよ。

これは森山猫さんと森山猫さんの妻さんのふたりと話すまで、未解決の迷宮入り事件だったわけなんだけど。



 引きこもってみて、他の引きこもりになった人たちやふたりとメールをやり取りして、こういうことだったのかとわかったんだ。

 それは何だと思う?

 答えはすごく単純なことだったんだよ。


 自分の体の成長で、ホルモンバランスの急激な変化が起きた。 


 中学生の時期って「二次成長」を迎える時期なんだけど、急速に体が変化していく。

 僕は体が男性化していくことに特に自信がついてきたり、腕力が強くなって自分が親より強くなったみたいな気持ちはなかったな。

 それは当たり前だし、まわりもそうなってたからね。


 でも実はこれ、見た目が変わるってだけの話じゃなかったんだ。

 体全体の成長の変化は、体の内部、脳の扁桃体、つまり、感情を制御する部分にホルモンの分泌が起きるってこと。

 これが中2の頃の僕に、まわりの人への態度の変化をもたらした原因だったんだ。

僕はそのせいで、まわりの人と話すのがめんどくさいと思う時期があった。


 「二次成長」のときは真逆のパターン、つまり攻撃性の上昇が起きるっていうのが、主流のパターンなんだと思う。

 男子中学生って、中2あたりから急に凶暴性や暴力性が増していく感じで、発言の言葉づかいや行動とか、目につくこともあったんじゃないかな。

 これもホルモンバランスの変化で脳が影響を受けたのが原因。


 ホルモンバランスの変化で、まわりの人への態度が敬遠がちになる性格なら、いずれ引きこもりになる可能性がある。その後の経過観察が必要って感じだね。 


僕の場合、中2の頃に人づきあいを敬遠していたけれど、中3になると、またまわりから笑いを取るように変わっていった。

でも、それは以前とはちがって、「なんとか女子を笑わせたい」というモチベーションだった。

これは中1までの誰でも笑わせようとしていたのとはちがって、男子よりも女子を笑わせるのが優先って感じに変わった。


 学校じゃなくて家庭内で何か特徴はないかというと親が子供にとって「透明化している関係」ってこと。

 これは引きこもり家庭では定番のパターン。

 透明化――つまり親が子育てに関与していない状態のこと。


 わかりやすくいうと、引きこもり家庭というのは親と子供との関係のバランスが悪い傾向がある。

 

「母親の過剰な干渉と父親の存在の不在」は、本当にダーツなら、最高得点のど真ん中って感じのパターンだよ。



 僕の家庭の場合は父親の不在ってパターンが当てはまっていた。

 不在っていっても、ひとり親家庭とか、単身赴任で父親が家庭に不在っていう表むきにわかりやすいことじゃない。


 それは「家にいるのに子育てに関して、いないのと同じくらい子育てに関与しない」ってこと。


 そうですね、たとえば「俺は仕事で忙しいから、子供のことは母親がやるのが当たり前だろう?」

とかいう、今どきではなんとも古くさい考え方の発言を口にする父親像だね。

 今どきの家庭だったら、離婚してないのが不思議な感じだと思うけど。

 これは超危険信号。引きこもり家庭あるあるなんだよね。


 僕の家庭だったら、なんでも自発的にやってくれる子供だったから、別に親は何もしなくてよかったわけだ。

 なので、僕の家庭では必然的に父親の不在が発生した。


 子供が優等生ぶるのと、親の透明化は、セットで起きているんだよ。引きこもり家庭では、こんな感じでいくつかの特徴が連動して同時に進行していくんだ。


 もし一つでも特徴があれば、別の要因を重ね合わせながら、子供は引きこもりにまっしぐらになっていくってことなんだよ。



6 

 対応策は「母親は過剰な干渉を止めて、父親が子育てに積極的に関わる」ってことなんだけど、ポイントは子供がそう感じるかどうかで、親自身がどれだけ努力したかは関係ないってところなんだ。


 他にも特徴はあるよ。「子供の金銭感覚が軽い」ってことも特徴だよ。

 軽いってお金の使い方が激しいってことじゃなくて、あんまり欲がないってこと。

 引きこもりになって何年も無為に部屋で過ごすようになっても、お金が使えないことに耐えきれないとか我慢できない人は、引きこもりに向いてないから。


 親におこずかいを要求してこない子供って、親からすると望ましい子供のように思いますか?

 節制する気持ちが子供のうちにしっかりあるから、この子は心配ないと思うかもしれないけど。


 引きこもりになる人は、欲望をあまり持たない、または、我慢できてしまう人ということになる。


 市場競争に参加するのは、お金が欲しいっていう欲望がないと、参加したくなくなるんじゃないかな。

 なので、親におこずかいを要求してこない子供ということは、すでに金銭に対する欲望や物欲が弱いってことに当てはまる。これはその子供が、生まれついて持っている先天的な性格なんだと思う。


 僕のケースでも、親におこずかいを要求することがうまくできなかった。

かりにできても、集めているマンガの本の続きが本屋にあったら、たまに買ってぐらいだったな。

 あとは特になし。

 親からすれば千円以内で数百円を子供に渡せばいいだけなので、僕の家庭では子供の娯楽に対しては大きな出費ではなかった。

 僕は塾にも行っていたので、毎日数万円かかる娯楽以外にはかなりお金のかかる子供だったんだけど、親が塾のお金を払うのは当たり前だと思っていた。

 要求しなかったけど、かなりお金を使わせていたのに僕は、無頓着だった。



 まだ特徴はあるかって?

 学校の話ならもう少しあるけどね。えっと「学校の先生が嫌い」って特徴もあるよ。


 僕は教師っていう大人が大嫌いだったんだ。中学生になってからはかなりね。

 今でも「私は子供のことが大好きで教師の道を選びました」みたいな発言に、よくわからないけど嫌悪感がぬぐいきれない。

 なんか子供がかわいくてしかたがないって雰囲気が僕は苦手で。


 それ、一歩間違うと事件につながるじゃないかと思ったりしてたんだ。実際、幼児性愛者の犯罪で「子供に関わる職についている」というケースがかなり報道されていますから。

 こうした犯罪者も獲物を狙って子供に近づける職業を選んでくる傾向がある。


 当時の僕は、そんななんともいえない気持ち悪さを感じていた。

 自分でも驚くほど強い感情だったわけなんだけど。

 子供がいる親御さんは、子供に担任の先生をどう思うか、好き、嫌い、と聞くんじゃなくて「どう思う?」「どんな感じがする?」と聞いてみたらいいかも。

 家庭訪問の前か後とか、三者面談の前か後とか、教師を話題にしてもおかしくない流れで、子供に聞く機会はあると思う。


 教師嫌いが引きこもりと関係あると僕が考えるのは、引きこもりの人はそもそも「大人が嫌い」なのではないかと思ったから。自分のまわりにいるすべての「大人が嫌い」だったのは僕だけじゃないみたいなんだ。


 学校の教師って、家庭以外だと日常的に接する大人なわけだ。だから、真っ先に嫌われる。

 この嫌いという感情を言い方を変えてみれば「不信感」ってことになると思う。

教師への「不信感」は単刀直入に言えば、親という大人への「不信感」とつながっている気がする。


 ただ例外もあるよ。僕にも一人だけ大好きな先生がいた。

 でも、それは女性の先生で「二次成長」の男性ホルモンに脳が影響を受けたから、教師じゃなく、一人の女性として好きになったということなんだけどね。



 ああ、そうだ。「恋愛にすごく積極的」というのも特徴だから。

 引きこもりの人は奥手で、恋愛したがらないと思われがちなんだけど、真逆のケースがある。

 男性と女性で、そこは同じかどうか、森山猫の妻さんはわからないと言っていたけど。


 僕は中2の時は、女性と目を合わせるのも無理な感じが強かったけど、中3にはやたらと自分の話したいことをぶつけるように話しまくっていた。


 会話なんだから、意見をぶつけれは通じるなんてないんだけど、何かしてないと不安だったんだと思う。

 話しまくって、本音を隠すっていうのに疲れた頃には、もう恋愛なんて無理な気になっていくっていうか……。


 子供が恋してるかなんて、親からは、わからないっていうかもしれないけど。

 引きこもりでも性欲はあるけどそれをどう実際の生活や人間関係に当てはめていったらいいか。


 それをラノベを読んで、想像しながら探すしかないのは、おかしいと思いますか?


 







 





 





 


 




 



























 

 





 



 



 







 














 










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