6年2組 福永鈴花の絵はどうして破られた?
森沢
第1話 福永鈴花の、破られた絵
戸惑った鈴花の小さな悲鳴は、騒々しさにかき消された。
夏休みは終わったばかり。6年2組のクラスメイトは、話したいことがたくさんあった。おしゃべりの声は、涼子先生が忘れ物を取りに教室を出たことで、ますます大きくなる。
それぞれの机の上には、提出を待つ夏休みの宿題。一行日記、問題集、作文、図画工作。
窓から見える校庭に人の姿は無いが、青い空とまだまだ暑い太陽がある。
クラスメイトが異変に気が付いたのは、その時だった。
立ち上がった彼の、その手にはなぜか水筒があった。ふたはすでに開いて、傾けられた水筒から、鈴花の机に中身がこぼれる。
驚く彼女の前に水筒を置くと、濡れた大きな画用紙を二つに破く。
突然の出来事に、鈴花は「前川くん」と呟くのがやっとだった。
最初に異変に気付いて動いたのは、二人の後ろに座る杉原だった。
「え、前川、お前何やってんの」
声をかけられても、前川はさらに画用紙を破く。机に切れ端が落ちた。
ようやく何人かの生徒が気づき始め、振り返えった前の席からも声がかかる。
「何してるの」
「やめろって」
立ち上がった杉原が止めに入る。
そのとき、教室の前のドアが音を立てて開いた。
「騒がしいな。廊下まで声聞こえるぞ、ほら、席について」
「先生! 大変!」
複数の「前川が」「前川くんが」の声。
丸眼鏡の奥、いぶかしげな表情でプリントを手にしていた涼子先生は、黒板の前まで来ていた。
みんなが示す先、席を立っている前川に顔を向けた時、鈴花が勢いよく立ち上がった。
大きく、耳障りな椅子の音が教室に響く。
「違う! 前川くんじゃない!」
普段大人しい鈴花の叫び声。前川を含めクラス全体が一瞬、静かになった。
「え、前川がやっただろ」
戸惑いの呟きが聞こえ、いや前川だってとざわざわ声が広がる。
「静かに!」
涼子先生が再び注意する。
「前川くんじゃないの」
周囲の困惑の中、鈴花はもう一度「前川くんは悪くない」と小さく主張すると、感情が高ぶりすぎたのか泣きだした。
前川は、何も言わずそんな鈴花を見ていた。
彼女のアイスブルーのスカートから、こぼれた水が床にしたたっていた。
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