第18話レヴィside
思えば碌な人生じゃなかった。
産まれた場所は場末の娼館。
母親は客に病気を移されて私を産んだと同時に死んだ。
この時点で人生詰んでた。
生まれたての赤ん坊なんて猿同然なのに、私は誰が見ても将来有望な美人顔だったらしい。赤ん坊に美人顔ってあるのか?と思ったけど娼館の女達は「綺麗な赤ちゃんだった」と口を揃えて言うから事実なんだろう。
娼館のババアは「金になる」と踏んで私を育てた。
要は、娼婦になるための下準備をしてたってこと。
魔力持ちじゃなかったら十三歳を迎えて直ぐに客を取らされていた事は間違いない。
宮廷魔術師が私の存在を知り、その魔力量に興味を持った事が切っ掛けで魔術師の道に足を突っ込んだ。いや、違うか。宮廷魔術師のオッサンが私を買った。それだけ。まあ、買った目的は体ではなく魔力だってだけ。
十八歳を迎えて直ぐの頃、上司の魔術師団長と共に国王陛下との謁見を行った。
勅命を受けた。
内容は―――――――『修行』。
それも冒険者ギルドに登録して修行をする事だった。
まぁ、コレは表向きの理由。
本当の目的は当然別にある。
一言でいうと「一人の男を誑し込め」という事だ。
どうやらギルド登録している中に元貴族のボンボンがいて、そのボンボンは天才と名高い男らしい。魔力無しなのに天才?とは思ったものの国王命令では断る事はできない。
私の他にも数名の女が用意されると聞いた。
どうやらその中の誰かと懇ろになってボンボンを国に縛り付けろということだった。
正直、乗り気じゃなかった。
調査報告の顔写真は、まぁ、普通の子。将来有望そうな子には見えない。ただ、問題は彼が未成年だという事だ。陛下たちは「数ヶ月後には準成人になるから問題ない」と言うけれど……正直、これが勅命でなければ犯罪じゃないのか?と思ってしまう程だ。
ボンボンは安っぽい恰好をして一見平民そのものだった。
ただし身に付けた作法?っていうのはバカにできない。
食事の仕方、歩き方、座り方、言葉遣い等々……全てが洗練されているように感じる。
そう感じたのは私だけでは無かったらしく、ギルドの者達も「訳アリの坊ちゃん」と思って彼とパーティーを組む者はいなかった。それが正解だろう。こっちは彼の素性を知っているからいいものの、知らなかったら絶対に近づきたくない人種だからね。多分、貴族出身だと何となく気付いている連中は多い。ギルドに所属する者の中には勿論貴族出身者もいる。それでもここまで育ちが良いとなると話は別だ。
純朴そうな少年なんて直ぐに落ちると踏んでた。だけど彼は落ちなかった。
私が幾らアプローチしても全く反応がない。
流石にイラっとした。
他のメンバーは少年を誑し込んでくることを遠回しに言われながらも全く理解していない様子だったし、私だけが空回りしている気がする。
ただ時間だけが流れた。
そんな時だ。
ジャコモに出会ったのは。
最初はチャラい奴だと思った。
言動が軽い。
分かっていたのにいつの間にかのめり込んでいた。
私は馬鹿みたいに浮かれていて男の本性を見抜けていなかったのだ。
結局、ハニートラップに引っ掛かったのは私達の方だった。嵌める側が嵌められているなんて喜劇以外の何ものでもない。
ジャコモは死んだ。
他のメンバーは名前を奪われ放逐された。
私は一人、魔力量を国に奪われ王宮で暮らす事になった。
後悔先に立たず。
今更悔やんでも遅い。
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