第16話アーミside

 実家から追い出された。

 それだけではない。

 私……私は伯爵家から存在を抹消されてしまった。


 伯爵令嬢の私はもはや存在しない。

 いるのはギルドの「アーミ」。


 世界が足元から崩れていくような感覚を覚えた。

 近衛騎士団長の父に相応しい娘だと呼ばれたくて必死に剣技を学んでいた。


 あれだけ頑張って、やっと手に入れた地位をこんなに簡単に……。


 恋に溺れた代償。

 何の疑問も抱かなかった。

 まさか他国の間者スパイだったなど……。





 


 

『何のためにお前たちをの元に向かわせたと思っている』


 父上に言われるまで気付かなかった。

 その意味を。

 てっきり、女騎士になるための修行。その一環だとばかり思っていたのだ。

 けれど、良く考えてみれば『彼』は元貴族。しかも優秀な頭脳を持っていた。この国の上層部は『彼』を欲しがっていたのだろう。だからこそ、女ばかりを向かわせた。


 国や父上の思惑とは違う方向へ進んだ私たち。

 この国に私達の居場所などない。


 戸籍を変え、名前も変えた。

 父上がエルを連れて行くように言った意味も理解した。

 彼女の回復魔法はこの先役に立つ。特に剣士の私に必要だと判断されたのだろう。今まで剣を握り続けてきた私には他に何もない。生計を立てるにしても剣士になるしかない。宮廷の女騎士を目指していた。


 


『王家以外で女騎士を雇っているところは公爵家くらいだろうが、分っているな?この国で暮らす事はできない以上はこのまま冒険者として生きていかなければならない』


『父上……私は……』


『お前も貴族の娘だ。貴族が雇うのは出自がハッキリとしている事が大前提だということは理解しているだろう』


 他国の王宮や貴族家の出仕は無理だと言われた。

 確かに無理だ。

 平民の身分では。




『それとこれは極秘だが――――』


 

 その先は耳を疑った。

 まさか薬物を使われていたとは思ってもなかった。しかも、薬で思考回路を操作されていたらしい。なんて卑劣なやり方!許せない。私達は騙されていた!!


 今更だ。

 薬のせいだと訴えたところで誰も相手をしない。

 父上ですらそうだ。


 

『薬物の入手元は探るな。下手に手を出して相手に勘付かれてしまえば、今度は命が危なくなる。それは解っていような?』


 だから黙っていろと暗に命じられる。

 父上はいつも正しい。

 ただ従うしかなかった。



『これからは先は、お前の判断が全てだ。間違えないように生きなさい』

 

『…………はい』




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