第10話彼らの目的


 僕も人の事をとやかく言えた義理じゃないけど、甘言に溺れやすい恋愛初心者はには向いていないと思う。


 いや、ハニートラップはいい過ぎか。

 彼女達はそれぞれの保護者、または上司から命じられて僕とパーティーを組んでいた筈だ。そこで僕と恋愛関係になる事を望まれていた事は予想できる。恋愛関係にならなくとも子供さえ成せればそれでいいとか言い含められていたのかもしれない。まあ、飽く迄も“勘”だ。でも、あながち間違ってないだろう。

 子供ができれば僕の開発した薬や道具、その他諸々の特許を継承できる権利があるんだから。下種な勘繰りだけどね。


 ギルドは国の縛りがない。

 ある意味で、国にとって使い勝手がいい反面、扱いにくい面も多々ある。


 如何に、自国の民であろうともギルドに登録している人材を好き勝手に扱う事はできない。そんな事をすれば国の信頼問題になる。勅命だって断れるのは一番良い部分だと個人的に思ってる。


 僕の開発した物を狙って、貴族達からの見合いの申し込みがギルドを通して殺到していた。


 国王直々に「貴殿の活躍に敬意を表し、特別に爵位と領地を与えたい」とまで言ってきた。要は、国で囲い込みたいって事だ。

 当然、断った。

 まさか相手方は僕が断るとは夢にも思わなかったのだろう。使者は絶句していた。国のお抱えになって馬車馬の如く働かされるなんて


 


『こ、後悔されますぞ!』


『再び貴族に戻るチャンスをみすみす不意になさるとは!』


『正気の沙汰とは思えませんな!!』


『こちらが下手に出れば……』


 


 こう言ってはアレだけど、使者の上から目線の態度は鼻についた。ムカついた。へりくだれとは言わない。ただね、交渉する相手が平民だからってバカにするのはどうかと思うよ?

 お礼に「あそこの国に薬も道具は勿論のこと、僕の作品は今後一切売らない」とギルドを通して通達した結果、その使者は左遷され、僕宛に丁寧な詫び状と品々が贈られてきた。


 上の人はまだマシなのかも。

 何であんな使者を寄こしたのかはサッパリ理解できない。

 もうちょっとマシな連中を寄こせば面倒な事にならなかったと思う。まぁ、どっちにしても僕の勧誘だから。どこかの時点で亀裂が入っていたのは間違いない。


 一応、謝罪してきたので商品を売る許可はだした。

 ごねると今度こそ武力行使されそうだしね。こういう事は匙加減が大事なんだよ。




 


 物には釣られないと判断して女を宛がってきたと気が付いた時は三人の見えないところで嗤ったよ。

 もっとも、期待して送り出した将来有望な美少女たちがハニートラップに引っ掛かるとはな。人の心は儘ならない。ダメだと思っても好きになるし、誰かを愛するのは本人の自由だ。その相手がたとえ百戦錬磨のスパイでも、凶悪な犯罪者だったとしても。


 恋に溺れているのは今だけだ。

 いずれ王都に戻らなければならない。

 彼女達が戻る事を拒んでも、ジャコモが上手く誘導する筈だ。王都に戻れば嫌でも現実が待っている。


 一時の恋に溺れて、高い授業料を払わされることになるだろう。それでもそれを望んで選んだのは彼女達に他ならない。

 心底惚れ込んだ相手と破滅するなら本望というもの。

 


 彼女達の幸せな行く末を僕なりに願いながら、夕食のシチューを頬張った。



 


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