クリスマスの招待状

@Suu_44

第1話

わたしは人間が嫌いだ。

だから学校にも行かない。

パソコンだけがわたしのおともだち。

最近YouTubeを見ていて、とある動画を見つけた。

ゆったりとした音楽と詩が流れてくるものだった。

何故かすごく気になり、リンク先にあったブログに飛んでみたら、小説の書き方やいくつもの詩が書かれていた。

生と死に関するものが多かった。

わたしが常日頃考えている生きている意味や自ら死を選ぶということ。

難しい表現もあったけど、今のわたしのこころにじんわりとくるものがあった。


“ ゆう/小説家/詩 ”


シンプルなプロフィール。

文体からすると男性のようだ。

管理人名の「ゆう」で検索してみたが、それらしき小説は出てこない。

どうしても彼の小説が読みたかった。

この人の脳ミソをもっと見てみたいと、そう思ってしまった。

ふと、ブログ内にメールマークがあるのを見つけた。

カチッとクリックしてみる。

彼と繋がれるかもしれない高揚感を抑えつつ、ゆっくりとキーボードを打つ。


『ゆうさん、はじめまして。

趣味で詩や小説を書いている女子高生のすずと申します。

YouTubeの詩の動画からブログを見つけてきました。

小説の書き方の記事、わかりやすくまとめてあってとても参考になりました!

実はわたしは人と関わるのが苦手で、学校に行けてないんです。

わたしには価値があるのかなとか、生きてる意味ってなんだろうとか、そんなことばかり考えちゃってます。

ゆうさんの詩は励まされるものが多くステキなものばかりで、すごくこころに響きました。

毎日更新されるのを楽しみにしています。

もしよろしければ、ゆうさんが出されている小説を読ませていだきたくて…作家名を教えてもらってもいいですか??

お返事お待ちしています。』


まるで片思いの相手にラブレターを書いてるようで恥ずかしくなってきたけど、何度も何度も読み返し、やっと送信ボタンを押す。

ふぅ、と一息つきベッドに寝転んだ。


「誰かのために文章を書いたのいつぶりだろう…?」


そんな独り言を呟いて、柔らかいベッドに横になる。

睡眠薬も飲まなかったのに、不思議とその日は眠りにつけた。



半端に開けたカーテンの隙間から朝日が差し込む。

目を覚ましすぐにパソコンを開いた。

メールBOXに通知がひとつ。

わくわくと怖さの混じった変な感情。

メールを開けると、期待通り彼からの返信だった。


『すずさん メールありがとう。

作家名は恥ずかしいから伏せているんだ。

ごめんね。またブログ見に来てくれたら嬉しいな。 ゆう』


名前…教えてもらえなかった。

でも、彼と繋がれた。

短い文章だったけど、彼からわたしへの言葉に、陽だまりにいるようなぽかぽかとした気持ちになった。

わたしのブログのURLを彼に教えたら、見にきてくれたらしい。

わたしの詩に彼も詩で返信してくれたのがとても嬉しかった。



『あなたの紡ぐ文字たちは


キラキラひかり


いつもわたしを照らしてくれる


わたしはあなたの


思考のトリコ。』



『冬に耐え


健気に根伸ばす


君はアネモネ


華麗に花咲く


春待ちわびて。』



彼は詩でそっと寄り添ってくれた。

それは、わたしの生きる希望になった。



1ヶ月ほど続いただろうか、突然ぱたりと彼から返信が来なくなった。

変なこと送っちゃったかな?と不安に襲われ、送ったメールを何度も見返す。

毎日更新されていたブログも稼働していない…

何かあったのかと思いつつも、毎日ブログとメールはチェックしていた。

心配でまた睡眠薬がないと眠れなくなった。

彼はわたしの精神安定剤になっていた。



1週間経ち、彼からのメールが来た。


『12月25日 13時 みさき書店』


日時と場所と地図が送られてきた。

ただ、それだけ。


『これはどういう意味ですか??』


メールに返信は来なかった。


もしかしてこの日にここに行けば、彼に会えるかも…

そわそわしながら淡い期待を胸に1週間が過ぎた。


ついにその日がやってきた。

わたしは書かれていた本屋へと向かった。

できるかぎりのおしゃれをして。

本屋につくとサイン会が行われていた。

有名な小説家がきているらしい。

ふとポスターに目をやる。


『死にたがりのS/須崎優飛』


心臓が、ばくばくと音を立てた。


ゆうさんだ。


直感で、彼だとわかった。

わたしは彼のサイン会に招待されたのだ。

嬉しさと緊張で掌が汗ばんきた。

ホントに彼と会えるんだ。

列の最後尾に並ぶ。

じりじりと彼との距離が縮まっていく。

ついにわたしの番が来た。


「こんにちは。」


涼やかな落ち着いた声色が耳に心地好い。

黒いくせっ毛に華奢な体躯。

ジャケットスーツが様になっている。


「こんにちは。あの、すずです…」


少し声が震えてしまった。

彼はアーモンド形の目をぱちりと見開き、一瞬の間のあと口元を弛めた。


「来てくれて、ありがとう。」


さらさらと本にサインを書いていく。

何か言わなきゃと思いつつ、憧れの本人を目の前に言葉がでない。


「あ、握手してもらってもいいですか??」


やっと絞りだせたこれが精一杯だった。

にこりと彼は微笑み手を差し出す。

わたしはジーンズで手の汗を拭き、彼の手をそっと握った。

色白で少し骨ばった、ひんやりと冷たい手だった。


「ありがとうございますっ。」


本を受け取り、足早にその場を去った。


うわぁ、ゆうさんに会っちゃった。

握手しちゃった。

本もゲットしちゃった…!

もらったサインを見返そうと本を開くと、小さなメモがはさまっていた。


『15時 マルタカフェ』


わたしはすぐにピンときた。

ここに行けばまた彼に会える。

記された時間まではまだあるので、近くのショッピングモールで時間を潰す。


そろそろ時間になるころ、カフェへ向かうがまだ彼は来ていないようだ。

窓際の席へと座るも、そわそわと落ちつかない。

男の人と1対1で話すのなんていつぶりだろう。

待ち合わせ時間を数分すぎて、彼が現れた。

わたしは思わず立ち上がる。

彼はこちらに気がつき、ふわりと笑顔を見せた。


「すずちゃん。」


「ゆうさん、あの、ありがとうございましたっ。」


彼はゆったりと椅子を引き座ったのを見て、わたしも座り直す。


「きみにこの本読んでほしくて。

クリスマスプレゼントだよ。」


「うれしいです…最高のプレゼントです!」


「この本はね、きみをモデルに書いたんだ。」


「わたしを…??」


「そうだよ。僕のきみへの気持ち、読んでみてほしい。」


わたしはこくりと頷いた。


彼はメモとペンを取り出し、何かを書き出した。

滑らかにペンを動かすその様子に目を奪われる。

書き終えるとメモを切り離し、わたしに渡した。


『クリスマス


きみと過ごせる


しあわせなひと時


このままずっと


一緒にいたい。』


その場で詩を書いてくれたのだ。


「ゆうさんの直筆の詩だ…!」


リアルタイムで創られた彼の詩を受け取り、わたしは思わずはしゃいだ声をあげる。


「わたしも書いていいですか??」


彼は微笑み、メモとペンを渡してくれた。


『クリスマス


あなたに会える招待状


本まで読めるサプライズ


あなたはわたしのサンタさん。』


彼にメモを渡すも、すこし照れくさい。


「ありがとう。いい詩だね。」


クリスマスにこんな素敵なプレゼントがもらえるなんて。

彼は丁寧な仕草でメモを手帳にはさんだ。

このあとも予定があるらしく、あまり長くは話せなかったけど、とてもしあわせな時間だった。

わたしはバッグに入れた本を大事に抱え家路についた。



『12月 25日


わたしにもサンタさんがきた。


サプライズとともに


ずっとほしかったものをそっとおいて。


代わりにわたしの心をさらっていった。』


カタカタと噛み締めるようにキーボードを打ち、ブログに綴った。


ありがとう、サンタさん。

今までで最高のクリスマスです。


わたしは本を手に取り、ゆっくりとページをめくった。





ーーーーーおわり。

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