2、ザフィーアの懸念

 ふと隣にいるヴァイスを見てみる。

 ヴァイスは真面目な顔でメモを取っていた。私の視線に気づいたのかこっちを見て、ふわりと花が咲いたような笑顔を浮かべる。


 いつものヴァイスの“自然”な笑顔だ。 


 ヴァイスは人一倍物事を隠す。嫌なことでも笑みを作ってやり過ごす。安心させるために嘘をつき、笑う。いや、微笑むといった方がいいのだろうか。なんというか、長年見てきたザフィーアならわかる。


 “貼り付けた笑み” “嘘を付くときの笑み”


 そんなものがあるのだ。

 ザフィーアはそんな“嘘”でまみれたヴァイスの笑みは大嫌いだ。

 その代わり、“自然”なヴァイスの笑顔は大好きだ。

 ザフィーアはヴァイスの大嫌いな笑う顔を『笑み』、大好きな笑う顔を『笑顔』と呼び分けている。いつか笑顔を見せなくなるかも、というとても恐ろしい懸念が頭をよぎったが、考えないでおこう。

 

 今の顔は『笑顔』だから嬉しくなる。

 ザフィーアもヴァイスに笑顔を返した。

 

 「どうしたの?そんな思案してる顔して」

 

 めずらしい、とヴァイスは心底楽しそうに、そしてからかうようにしてそう言った。

 

 「ううん、そんな大したことないよ」


 「本当?」


 そうやってヴァイスはにやりと笑う。この笑顔も好きだ。


 「本当だってば‼️」

 

 ちょっと度が過ぎるのではないか。そう考えながらちょっと唇を尖らせていると、


 「姫様方、授業中でございますよ‼️」


 と叱られ、私たちは揃って前を向き、姿勢を正した。


 「教材を取ってきます。お静かに待っていてください」


 そう言って部屋から出ていった。


 出ていった瞬間、ヴァイスとザフィーアは顔を見合わせて


 「ぷっ」


 「ふふふ」


 『あははははははは』


 と笑った。


 帰ってきた男に叱られたのは言わずともがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る