妹とデートの練習しても成果は無い

7月30日


蝉がジリジリ、ジリジリとうざいぐらいに鳴いている。

俺は、蝉が嫌いだ。今までの人生で蝉を嫌いと思うことは無かった。

しかし、先日俺の相棒とも言えるYB-1の上に蝉が倒れていた。

別にそれだけならなんとも思わないのだが、俺が蝉をどかそうと手を近づけた瞬間


ブンブンブン


と、激しい音と動きで俺をビビらせやがった。

その動きに驚いた俺はYB-1を倒してしまったのだ。

その時から蝉は絶滅させると心に誓った。



話は戻るが、今日は花火大会だ。

ちなみに今日は長岡花火ではなく、三条花火だ。

いつもは長岡花火を見たあと祖母の家に集まり親戚達とひゃんで花火を見に行くのだが、

今年はそれに加えて三条花火をひなのと見に行くことになった。


というのも、勉強会が終わりゆうなと別れた後の帰り道にひなのが2人で花火いこ、と言ってきたのだ。

なぜ俺は彼女と2人きりで花火は行けないのに妹と花火に行かないと行けないのだろうか。

しかし、俺達は双子ということもあり、兄妹仲はいい方だろう。

だから、別に嫌という訳では無い。


今までも、一緒に遊びに行ったり俺と同じ場所に進学したいと入試は死ぬほど頑張っていた。

その中で俺達はいつも2人で長岡花火に行っていたのだが今年はゆうながいる。

だからこそ、2人でどこか行きたいと言い出したのだろう。


俺はスマホで花火大会のスケジュールと天気予報を見て、荷物も準備してひなののことを待っていた。


数分もするとひなのがおまたせと少し開いた扉から顔を出す。

ひなのは編み込みやリボンなどをつけて楽しむ気満タンだ。

とはいえ、俺も楽しみだったしこないだネットショップで見つけた甚平を身につけていた。

やっぱ、花火には和服よ。


俺は扉に手をかけ廊下に出る。

すると、そこに居たのは浴衣姿のひなのだった。


「可愛いな」


反射的に言ってしまった。ブラコン発動してしまった。

正直、ひなのの顔立ちは整ってる方だと思う。

しかし、この歳にもなって妹に可愛いなんて言ったらただ単にヤバいやつだ。

更には俺にはゆうなと言う心に決めた人がいるのに!


心の中で葛藤を続ける俺にひなのはいたずらっ子の小悪魔のような笑顔を見せ

「今の撮ってたから、ゆうなちゃんに送るね」


「あっおい!それは卑怯やろ!」

ひなのが偶にやる超効くイタズラだ。

もし、俺が可愛いと呟いたのがほんとに録音とかされていたらあいつの事だから本気でゆうなに送って、俺はゆうなに殺されることだろう。


それは何としても防がねば、

俺は決意と共にひなののスマホを奪い取ろうとする。


俺もひなのも身長は同じぐらいでひなのがどれだけスマホを上に掲げようが俺に取れないわけが無い。

俺は軽くジャンプして上からスマホを掴み逃げ場を無くす。

ひなのは離せよクソ兄貴と笑いながら暴れる。

その時ひなのが躓いて背中から床に倒れそうになった。


俺は反射的にひなのの手を掴み倒れないようにする。

しかし、ひなのは笑いながら手を引っ張ってくる。

不安定な体制で力を加えられたら体制を崩すものだ。


そう、俺は今倒れてしまった。

ひなのに覆い被さるようにだ。


「ひなの、これも計画のうちか?」


なんのこと〜とシャッターを切り立ち上がるひなのは玄関の扉を開けて行こ?と花火大会へ向かっていった。

俺は小走りで走り、ひなのの横を歩いた。


夕日が傾き、空がオレンジに染まっている。



「ひとがいなーーい!」


花火を見る為に友達から聞いていた穴場スポットの

公園に来ていた。

ここなら静かに花火が見れるだろう。


「今年も一緒に花火見れて良かった」


ひなのは俺の事をじっと見ていた。

俺は見つめられることに恥ずかしさを覚え、顔を逸らしていた。


「あれー?もしかして照れてる?」


この妹はなんという性格の悪さだ。

父親の血しか引いていないかのようだ。


俺の母親は聖母のような優しさに包まれた人だから。

そうとしか思えない。


「…とりあえず!あそこのベンチに座ろうぜ」


俺はひなのの腕を引っ張りベンチに座った。

そしてさっき花火大会の会場の近くで買った焼きそばとかを取り出した。


「「いただきます!」」


焼きそばを食べるとほぼ同時に時間になって花火が上がった。


「綺麗だね」

ひなのはさっきまでのイタズラ好きの子供のようなイメージが全くなくなっており、1人の少女のようになっていた。


「そうだな、お前のお好み焼きとたこ焼き少しくれよ」


俺は水を飲みながらひなのにお願いした。

ひなのはお好み焼きを箸で小さく切り分けるとそれを掴み俺に差し出す。


そう、あーん。だ。


別に妹とやるぐらい気にならないが、外でやるとなると少し恥ずかしいな。


そうは言っても食べさせてくれようとしているんだしな。

はむっ。と、お好み焼きを口に含めたが、

焼きそばと薄焼きの生地に千切りキャベツと目玉焼き。

全てがマッチしている。

うまい。


「うまい」

毎度、毎度感想浅いなと思いながらも、たこ焼きも食べる。

これも美味い。


「ねぇ、お兄ちゃんはいま、ゆうなちゃんと付き合ってるわけじゃん。」


「そうだな」

唐突にひなのが話し始める


「今日、花火行こうって言ったのゆうなちゃんに取られたって思ったからなの。別にゆうなちゃんが嫌いなわけじゃないし友達として大好きなんだけどさ」


ひなのの目には涙が滴っている。


「今まで、ずっと一緒だったお兄ちゃんが遠くに行っちゃうように感じちゃってさ、そう考えると怖くてさ」


無理に笑顔を作っているが、とても悲しい顔をしていた。


「たしかに、寂しい思いさせちまってたよな。でも、俺にとってひなのは大切な家族だし、俺たちは双子なんだからどんな事があっても一緒だよ。」


俺はひなのの肩を掴み俺の方に引き寄せる。


ひなのはさっきまで我慢していた気持ちが全て出てきたのだろう。わんわん泣いている。


「ほら、花火見ようよ。綺麗だよ」


空に広がる。花火は淡い光を発して俺たちを照らしていた。

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