27.ラブラブなデート


──睦巳 View


外とは比較にならないくらい涼しい。

ショッピングモールに着いて一番の感想はそれだった。


「なあ、一旦飲み物飲みたいからちょっと休憩しないか」

「そうだな、外ヤバかったしな、たしかエレベーターの近くに座る所あっただろ……」


エレベーター近くで座って休憩をする、ちゃんと水筒を持ってきていて冷たい麦茶が入っている。

それを飲んで一息ついた。


「折角のデートなのに初手休憩かー」

「デートって……睦お前……、まあデートでも良いんだけどだ、それだと余計に意識しないか」

「別にいいじゃん、デートだろ実際」

「……そうだな、よし!今日は恋人の振り全開で行くか!」

「全開って、何するつもりだよ」


やっぱり認識は恋人の振りなのか……。

しょうがない、俺だけでも恋人として行動するか。


「何って……普通にラブラブな恋人同士のデートだな」

「!!……良いなソレ!つまりバカップルだな!全開で行くぜ!」


それはもう普通の恋人同士と何も変わらないって事じゃん、良いじゃん。

……ところで普通の恋人同士って普段どうしてるんだ?

デートして一緒に居て、そのイベントなりを楽しんで、家だとずっと話してんのかな、俺たちだと無言でも嫌な空気じゃない時間とかあるけど、そんな感じなんだろうか、分からない。


──まあ他人の事はいいや、俺たちは俺たちの恋人同士でやるか。親友で恋人なんだからそりゃ違うだろう。


「よし!一息ついたし、適当にぶらっと冷やかして周るか」


そう言って駿の腕に腕を絡ませて、手を握った。


「そうだな、下から適当に回っていくか」


1Fは食事専門店が並んでいるがまだお昼には時間が早いのか並んでいる店は少ない。

お昼近くなると何処も一杯で店の外で長い時間待つ事になる。


食事専門店の前を通りながらアレが食べたいコレが食べたい、アレが美味しかった、など雑談しながら、他愛も無い話をしながらブラブラする。

女の子になってから駿と一緒に歩くのはテスト勉強の時は毎日だったけど、こんな風に周りを見ながらおしゃべりして歩いた事は少ない、それにこの1週間はテスト期間も終わり、部活も再開したので通学は一人で寂しい思いもしていた。

うん、こういう所をぶらぶらするのも悪くないぞ。


2Fから上に上がると服や小物を扱う店が出てきて、一緒に店に入って冷やかしたり雑談したりしながら時間を潰した。


特に目的は無いけどお店があると話のネタに困らなくて良いなあ、ずっと話をしていられるし、何か探しものがあったらそれを話して一緒に探せる、ショッピングモールデート意外と良い。


そんな感じでお店をぶらぶらしながら時間を潰し、お昼が近くなったのでフードコートに行ってお昼ご飯を食べる事に。

空いている席を見つけて確保して、何を食べようか2人で話し合う、フードコートだから同じ種類の物を選ぶ必要も無いし、好きな物を買ってくれば良いんだけど、此処までのノリでそれを話し合うのも楽しくなっている、どうせ場所は確保してあるし、どのお店も混んでるし、慌てる必要は無い、今は駿とのおしゃべりを楽しみたい。


「俺は鉄板のナポリタンにしようかな、結構ボリュームあるしそんなに高くないし」

「俺はハンバーガーのセットにする、ポテトで時間も潰せるし、量もそこまで多くないし」

「あー、そうだな、ちょっと此処でゆっくりするならそれも有りだな、俺もゆっくりしたいしサイドで何か摘めるものがあるヤツにしようか」

「もう一軒のハンバーガー屋あるじゃん、あっちにしてみたら?食べ比べしてみようぜ」

「良いね、サイドのポテトも違うやつだしそうしてみるか。じゃあ俺待ってるから頼んできて良いよ」

「じゃ行ってくる」


ハンバーガーとポテトの食べ比べをする事になった、ワクワクする、なんか恋人っぽくない?

嬉しくなってちょっとスキップしたりして。


注文して席に戻る、駿は入れ替わりに注文をしに行った。


駿の頼んだハンバーガーのセットと俺が頼んだハンバーガーセットで味比べ、つまり2人で一緒に食べる事に。

飲み物も違う物を頼んでいて一応飲み比べできるようにしている。やるかどうかは分かんないけど。


食べ比べって言ってもハンバーガーは基本包紙を手に持って食べるものだから相手が食べる時は食べさせる事になり、差し出してパクついて貰う形に。

めっちゃ間接キスだ~ッって思いながら食べるけど普段からキスはしてるんだった。

でも待てよ、只のキスは唇の表面までだからこの場合はある意味そのキスより上なのでは?


ハンバーガーは駿の方が美味しいと感じた、駿は俺のほうが美味しかったと言っていたし、好みの問題かな。

お互いのポテトを食べ合いながら駄弁る、話をしたり、周りの様子を見ながら時間を潰す。


その時、駿が自分のジュースを差し出してきた。


「睦、これ美味いからちょっと飲んでみ?」

「え、う、うん」


飲み物の間接キス、男の時は散々やった、というか男の時は間接キスとか全く思わなかったけど、今は違う、男と女、少し緊張するしドキドキしている、駿が差し出したジュースの容器から出ているストロー、これを口に咥える。

ストローには僅かに駿の唾液のようなものを感じて、それと認識した脳が唾液を甘くて美味と感じてしまっていた。駿の唾液をそんな風に感じるなんて。

もっと欲しいと思ってしまう。

ジュースそのものは普通に美味しかった。


「うん、美味しいねこれ、思ってた味と違った」


これは何の感想なんでしょうかね。


自分も少しジュースを飲んだ後に駿に同じように差し出した。


「俺のも飲んでみない?悪くないよ」


駿も多分俺と同じように少しの緊張とドキドキを感じているのだろうか、というかそうであって欲しい。

駿がそーっとストローを口に咥え、吸う。

なんか変な味がするとか言われたら嫌だなあ、もう絶対キスとか出来なくなる自信が有る。

少しして。


「うん、美味しいなコレ、確かに悪くない」


どっちの感想だろうか、まあ普通にジュースの感想だろう。


その後もお互いジュースを飲ませあったり、ポテトを食べさせ合ったりして、バカップルっぷりを見せびらかしていた。


「わー、偶然だねー、2人で来てるの?」


聞き慣れた声、振り返ると俺のクラスメイトの女子が3人。

うーん、正直こういう所で会いたくなかったなー。

でもここのショッピングモールは近辺でも一番大きな所だし、バッティングは仕方ないか。

一応話を合わせて、ついでに早く離れて貰うように牽制しておこう。


「わー、ホントだね、うん、デートで来てるんだ、そっちは3人で来てるの?」


これで多少の牽制になっただろう、デートの邪魔しないで欲しい。


「睦、知り合いか?」

「うん、クラスメイトだよ、最近話す機会が増えて仲良くなった感じ」


ホント、女の子になってからだしね。


「所でさー、凄いカップルっぷりを見せ付けてたねー」

「いや本当、見てるこっちが恥ずかしいくらいだよー」

「あんな事出来るような彼氏欲しいなー、睦巳ちゃんが羨ましい」


「でしょー、ラブラブなんだよね、私達」

「お、おう」


そう言って駿に抱き付く。

だから邪魔なんで早くどっか行ってくれないかな。


「睦巳ちゃん宗清くん、夏休み中にさ、友達紹介してよー、出来れば7月中が良いなー」

「そうだ!宗清くんの友達とも一緒にさ、海行ってバーベキューとかしない?人数多いとそういうのも出来るし、偶には良いんじゃないかな?」


駿の友達紹介はしても良い、とは思うけど、あんまり乗り気じゃない。

だけど、海でバーベキュー、これは魅力的だ、一度駿と2人で話した事があるんだけど高校生2人じゃ準備も何もかも無理があった、親と行くのも違うし、あれは多人数でやるものだと理解して諦めた。

海で水着で駿+αと行くのは、まあ楽しそうだし悪くない、そういう交流も必要だろうし、うん、俺はOK。


駿が俺を見る、バーベキューに友達紹介なら良いんじゃない?と、うん、と頷く。


「分かった、友達に声掛けて見るよ、まだ学校も何日かあるし、学校で顔合わせして計画は決めよう。それで良い?」

「分かった―、ねえ宗清くん、メッセ交換しよ?」

「ダメ~、それはダメでーす。駿とは私を通してしか話しちゃダメでーす」

「ごめんな、そういう事だから」

「やっぱダメかー」


ドサクサに紛れて交換させない。……まあどっちにしてもバーベキューの件でグループ作る事になりそうなんだけど、俺の独占欲が顔を出した。


「それじゃーね、また明日学校でねー」

「また明日ねー」


バイバイと手を振り、クラスメイトと別れた。

ようやく去ってくれたか、やっと2人きりの時間に戻れた。


「睦、別にあんなに邪険にしなくてもいいんじゃないか、折角の友達なんだし」

「良いんだよ、あれは邪魔するのが悪い」

「結構重いよな、睦は」

「なんだ、今頃気付いたのか、俺は特大に重たいぞ、覚悟するんだな」


良いんだよ、俺には駿が居れば、それだけで良いんだ。

駿にさえ嫌われなければそれで良い、他には何も要らない。

だって他の存在は俺にとって知らない存在なんだから。

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