22.夏祭り
──睦巳 View
倒れた日の帰り道、当初の目的だった話をする。
そう、元々はこれが今日駿を待ってた目的だったはずなのに、倒れちゃったせいで想定外のイベントが起きてしまった。
まあより親密になったような気がするし、今から話出来るし良いんだけどさ。
「あのさ、駿、今週の土曜日に一緒に夏祭り行かないか?」
「そういえばそんな時期か、良いよ、一緒に行こうか」
「良し!じゃあ夕方迎えに行くからな!」
「え、俺が迎えに行くよ、危ないし」
「良いんだよ、それにまだ日も落ちてないし大丈夫だよ、心配性だなあ」
「そんな事言っても何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「分かってるよ、大丈夫だって、じゃあ迎えに行くからな」
「ったくしょうがないな、じゃあ待ってるよ」
これは夏祭りだけじゃ無くてその後の事にも影響するから、俺が駿の家に迎えに行かないとな。
そして俺の家の前で別れ際、頬に手を添えられてキスをした。手を添えられるの良い、好き。
◇◆◇
ピンポーン
駿の家の玄関で呼び鈴を鳴らす、夏祭りの時間には少し早いが良い頃合いだろう。
「はいはーい、あ、睦巳ちゃんいらしゃい、どうしたのその荷物?」
「あ、今日も泊まっても良いですか?お風呂だけ貸していただければ良いので」
「良いわよー、あがってく?」
「はい、お邪魔します」
そうなのだ、今日も泊まる予定なのだ、でも今回はその前に一歩踏み込むつもりだけど。
家に上がり、階段を上がって駿の部屋の扉を開ける。
「おーい!きたぞー!」
「いらっしゃい、少し早いな、ってなんだその荷物は、着替えてから行くつもりか?」
「いや、この荷物はそう言うのじゃない、まあ気にすんな」
「ふーん、何を企んでるんだか…、それにしても浴衣じゃ無いんだな、てっきり浴衣で行くのかと思ってた」
「単純に浴衣持ってなかったんだよな、別に浴衣じゃなきゃいけないわけでもないし、これで良いだろ。
それにこの服の方が谷間は見えるし駿のネックレスを着けられるし、それにほら、うなじならこうして髪を纏めてポニーテールにすればバッチリだ」
「確かにな、浴衣は浴衣で趣きがあると思うけど、俺はこっちの方が好きだな」
「駿ならそう言うと思った」
くるりと回転し、駿に見せ付ける、ポニーテールが遅れて舞う。
スカートがふわりと浮き上がり、視線を引き付ける。
「やっぱり良いよな、ポニーテール、それとスカートの捲れ上がり方が後ちょっと足りなかったな」
「それが良いんだろ」
「まあ確かにな」
「じゃあそろそろ行こうぜ」
「そうだな、少し早いけど行くか」
◇◆◇
夏祭り会場へ到着、すでに屋台と人が大勢いて楽しめそうな感じがする。
「よかったなあ、駿、今年はこんな美少女と一緒に回れて、去年までは男しか居なかったもんなあ。」
「自分で美少女言うか、でも確かにそうだな、カップルで夏祭りってのは学生時代にやっておきたかった事でもあるしな」
「そうだろそうだろ、感謝しろよ」
「でもな、女の子だと色々周りに気を使うだろ?俺は男同士だと気を使わなくて楽しかったから残念と嬉しさ半々だな」
なるほど確かにそういう面もあるか、女の子になって視線の低さ、非力さなんかは感じてる、こういう所だと視界の悪さと人混みでの進めなさを大きく感じてしまう。
単純に女の子と一緒だと嬉しいだろうと思ったけど行動しやすさという面では男のほうが有利だよな。
今でも駿の腕を掴んでないと直ぐにはぐれてしまいそうに感じるし、てか、まじで周りが見えない。
人混みが苦手になりそうだ。
あーあ、去年まではこんな事考えた事も無かったのにな。
今日だって、駿と一緒に夏祭り回れて嬉しい、くらいの考えだったけど、甘かった。
男同士の遊びと恋人同士の遊びだと同じイベントでもお互い全く感じ方が違うもんなんだな。
そういえば、デートだと男が女を楽しませなければいけない、みたいな不文律も有るし、男同士の気楽さはそりゃ無いよなあ。
そんな事を話している内に時間が経ち、人が増えてメイン会場付近は本当に人だらけになって来た。
「なあ、適当に面白そうな屋台にエスコートしてくれよ、あんまり遠くまで見えないんだ」
「ん、そうだな、これだけ人だらけだと見えないだろうし、手を離すなよ」
「分かった」
離れ離れにならないように駿の腕をギュっと掴んでついて行く。
本当は、俺に気を使わなくて良いから好きなとこ回ろう、って言おうと思ってたけど、腕に掴まっている自分を見て、そんな事は言えなくなってしまった。
人混みで女の子が一緒にいて、男に気楽さなんて有るわけが無い。気を使うなと言ってもそれは無理だ。
やはり俺は女の子で、男の親友のようにはいかないんだと、この時に初めて気付いた。
男時代と女の子の良いとこどりできると思ってたんだけどな。
「睦、腕に掴まるんじゃなくてさ、こうしないか、それで、睦は俺の背中側から手を回してさ」
「え?こ、こう?」
「そう、どうせならさ、出来るだけ横に並びたいだろ?」
「うん、……うん!」
駿の提案により、駿は俺の左肩を掴み、俺はもっと駿に密着して右手を後ろから駿の右脇腰の位置を掴む。
こうする事でさらに駿と密着し、横幅もせいぜい1.5人程度に収まり、並んで歩けるようになった。
少し歩き辛そうだけど、元々早くは歩けないので問題は無いようだ。
あと、駿に肩を抱かれているのは凄く安心するし、駿の身体すぐ横で密着感をとても感じる。
腕に掴まっている時とは全然違う、身体と身体の密着感。
というか、身体がこれだけ密着しているのって寝ている時を除いて、実は初めてだと思う。
そう思うと急にドキドキしてきた、鼓動が早く、大きくなって、もしかして駿にこのドキドキが伝わってしまうんじゃないかと不安になる。
駿を見上げると、前を見ていて凛々しい横顔が見える。くそう、格好良いなあ。
駿は視線に気付いたのか俺を見て、優しく微笑んでくれる。何かあったのか?と聞いてくれているみたいに。
俺はなんでもないよ、と首を横に振り応えた。
それにしても駿は本当に色々と俺の事を考えてくれてる、そして上手い、コレだって。
横に並べて歩けて、密着出来る、良い方法だと思う。
それに比べて俺は、誘ったのは自分のはずなのに、エスコートまでお願いしちゃうし、一体何をやっているんだ……。
「お、駿太朗じゃん、なんだよ彼女と一緒かよ、良いなあ」
「おう、こんなとこで合うなんてな、見ての通りだ、お前らも来てたんだな」
「そんなに密着してて羨ましい限りだよ全く」
「へー、宗清の彼女ってめっちゃ可愛いのな、良いなあ」
「なんか幼馴染なんだってさ、毎日放課後迎えに来てたし、見た事あるだろ」
「あー、そういや毎日元気に迎えに来てたね、俺も迎えに来る彼女欲しいわ」
「ダメだぞ、睦はお前らにはやらんからな」
「いや無理だろこんなラブラブなんだから」
「けー、見てられんな、じゃあまたな、駿太朗」
「おう、また来週な」
「じゃなー」
「じゃあね、彼女さん」
なんだか騒がしい4人組だった、どうやら駿のクラスメイトで友達らしい。
駿の友達とのやりとりで聴き逃がせなかったのが"睦はお前らにはやらん"だった。
恋人の振りだから言ったんだろうけどなー、そうじゃなきゃもっと嬉しかったんだけどなー。
移動している最中、急に肩に力が入り、そのまま駿の胸元へと急に抱き寄せられて、右腕でも抱き締められた。
何が起きたのか理解出来なかったけど俺もよく分からないなりに駿に抱き着いた。
「えっ?えっ?何?どうした?」
急の事に戸惑い、何が起きたのかと駿を見上げると、後方を見ていた。
「いや、前から結構な勢いで人の間を抜けて行く人がいたから、ぶつからないようにした」
「ああそういう事ね、急に抱き締められたからビックリしたじゃん」
「あー、ごめん、説明する暇も無い感じだったしな」
「うん、所でさ、もう行ったんだろ、もう離しても良いんじゃない?」
「ああ、今離すから……」
そう言いながら中々俺を開放してくれない。抱き締められっぱなしだ。
「おーい、駿ー?」
「──あ!ご、ごめん」
今度は開放してくれた、全く駿はどうしたんだ、他にも何かあったとかか?
俺はまた駿の腰に手を回し、駿の左手を自分の左肩に乗せて密着した。
駿を見上げても顔を合わせてくれなかった。どうしたんだ本当に。
駿の屋台エスコートは基本焼きそばやたこ焼きなんかの食べ物を作る所を見物して、気に入ったら1個買う、というのを繰り返して出来るだけ気に入った物を沢山買う、という方法だった。
屋台で食べ物を作るのを見ているのは楽しいし、匂いで食欲がそそられたりもするし、2人であれやこれやと話のタネになって楽しかった。
焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、唐揚げ、串焼き、とうもろこし、ベビーカステラを買った。
まあ概ね定番の品、それぞれ1個づつ、会場のベンチに座り、2人でそれらを広げて食べ始める。
たこ焼きなんかは当然、駿にあーんと食べさせて、お返しにあーんと食べさせて貰ったりして、楽しい雰囲気で食事が出来たと思う。
食べ終わった後、駿が俺を見つめていて、あ、キスしたいんだなと理解したので目を閉じ、キスをした。
前回同様に頬に手の平を添えてくる、これ好き、頬ずりしたくなり、思わず手の平に自分の手を重ねて頬ずりする。
少しして動きを止めると駿の唇が近づいてくる気配がしてチュッとキスされる。
今回は角度と位置を変えて何回もしてきた。
後は少し唇を舐めてきた。その感触に少しビックリしたけどそういうキスもあるのかなと思ってジッとしていた。最後に食べたベビーカステラの甘い味と香りがした。
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