20.目覚め


──駿太朗 View


まだ状況を掴めていない様子の睦巳は辺りをキョロキョロぐるりと見渡し、うちわで扇いでいる俺を見つけたようで、表情が明るくなり、俺の名前を呼んだ。


「……駿、ここ何処だ、……あれ?確か俺はサッカーを見てたんじゃ……?」


瞬間、今までのエロに寄っていた意識が元に戻り、理性が回復した。


そして、あんなに注意したのに熱中症を甘く見て水分を補給しなかった睦巳にも怒りが湧いてきた。

何度も水分を摂るように言ったのに、俺の本気さは伝わらなかったのか、どれだけ俺が心配したと思ってるんだ、その結果がこれなんだ。と。


「あのな!」


思わず声を荒げてしまい、睦巳がビクリと反応し、俺は間違いを犯してしまった事に気付いた。

ここで怒りながら言ってもそれは正しく伝わらない、それにこのまま言った所で怒りに任せて暴言を吐いてしまうかもしれないし、俺は睦巳にそんな事をしたいわけじゃない。

それに俺は睦巳が心配なだけなはずだ、だから、怒りをぶつけるのは間違っている。


ここは冷静に、落ち着いて順番に話をするべきだ、睦巳ならそれで理解してくれるはずだ、もうこんな事にはならないはずだ。


「ごめん、声を荒げて。あのな、順番に説明するから。まずその前に水分を摂ってくれ」

「……うん」


そういってペットボトルを渡し、飲んでもらった。

飲み終わったらまた寝るように話をした。


「睦、今はまだ身体を休めないとダメだ、とりあえず話が終わるまでは横になっててくれ」

「ん、分かった。……って!?え?なんで服が脱がされてるの!?ちょ!ブラも外れてるし!」


俺は無反応を装いうちわでパタパタと仰ぎながら話を続けた。


「落ち着け、それの理由も全部話すから、それに俺は睦に決してやましい事はしてないから」


うん、脱がしたのも汗を拭いたのも医療行為の一環で決してやましくないな!うん!


「……分かった、駿を信じるよ」


流石睦巳だ、そういう素直なとこ好きだぞ。


「まずはなんで保健室で寝ているか?だけど、サッカーを見ている時にそのまま倒れたんだ、覚えてるか?」

「……いや、覚えてない」

「そうか、俺がフラフラしてる睦に気付いて駆け寄ったのでなんとか倒れる前に支える事が出来たんだ」

「そうなんだ……ありがとう」

「うん、で睦は気を失っていたから直ぐに保健室に連れてきて、今ここで横になってる」

「そういえば、保健の先生は?」

「あー、なんか俺に面倒を押し付けてどこか行ったよ、全く無責任だよな」

「まさかそれで駿が?」


「そういう事、それで先生が出掛け間際に、服を脱がして、頭と首、胸元に下半身の熱を逃がしてやるようにって言われたんだ。

それで服を脱がして、次にこの濡れタオルで汗を拭いて濡らした、顔と首、上半身から下半身と順番にな。

だからそれを実行して、今の睦はその状態なわけだ。ちなみに見てないから安心していいぞ」


あと少し寝たままだったら見てたけど。


「そっか、ありがとう、少し安心した。……で、見てないけど汗を拭く時に触ったってオチ?」

「は?いや見てないし、大事な所は触ってねーよ」

「へー、つまりソレ以外は触ったんだ、駿のエッチー」

「いやしょうがないだろ、拭く時にある程度支えが必要だし、拭かないわけにもいかないし」


「んふふ、冗談だよ、そういうので触る分にはしょうがないと思うし、気にしないよ。──でどうだった?おっぱいの感触は」

「今それ聞くか?……当たり前の感想だけど、柔らかかった、それに色白の肌が凄く綺麗で、形も良くて、全体で見ても綺麗だった」

「……聞くんじゃなかった、めっちゃ恥ずかしい。でも良かった、気に入って貰えたみたいで」


なんだよ気に入って貰えたみたいでって、むしろ気に入らないやつなんか居ないだろうに。


「──コホン、で、症状としては軽度の熱中症らしい」

「そのさ、熱中症ってどうなるの、よく気をつけろって聞くけどよく分からなくて」


「主に聞く症状は、筋肉痛、足がつったり、めまいや失神、倦怠感や頭痛、寒気や嘔吐、あとは熱がでて意識障害とかだったかなあ、後は重度の場合は後遺症が残る事もあるらしい」

「へえ、結構怖いんだね」

「だからさ、睦には水分を摂るように言ったんだ、しかも熱中症は自覚してから水分をとっても手遅れになるらしいから早めに摂る必要がある。俺達サッカー部も今日みたいな日は多めの休憩と水分補給はこまめにやらされるくらいにはな」

「……そっか、駿はちゃんと警告してくれてたんだな、それなのに……ごめん」

「そうだな、気にしろ、心配したんだぞ。これからは水分をこまめに摂るようにして、注意してくれればそれで良い。

それと水分だけじゃなくて塩分もとれよ、今この時期だと塩が入った飴とかタブレットもある」

「あー、確かにあるね、これから外出時は持ち歩くようにするよ」

「ああ、もう俺に心配掛けさせないでくれよ」


多分この感じなら睦巳はこれからしっかり熱中症対策はしてくれそうだと思う。

こういうのは一度なると怖さが分かるしな。


「あのさ、そろそろ起きて良い?背中も濡れてて気持ち悪いんだけど」

「そうだな、着替えとかある?」

「いや、無いな」

「んー、じゃあしょうがない、乾くまでの着るもの準備してくるから、ちょっと待ってろ」


保健室を出て、部室へ戻り、カバンを回収してまた保健室に戻った。

とりあえず俺のシャツを着て貰う事にしよう、ブラウスは乾くのも早いだろうし帰る時には間に合うだろ。


「とりあえずこれ着てくれ、……ちょ!!」


カーテンを開けて入ったら睦巳はもうブラを外していてパンツを脱ぐ所だった、幸か不幸か俺とは反対方向を向いていて見えなかった。

さっき寝ている時には見えなかった白くて華奢で抱き締めたくなるような背中と、同じく白くさっき触った時にどこまでも沈む柔らかいお尻が見えていた。

すぐに逃げるようにカーテン内から出た。


「ごッごめん!まさかもう脱いでるとは思わなくて」

「いやー、流石にぐしょぐしょだからさ、早く脱ぎたくて」


カーテンの隙間から俺はシャツを差し出して着るように伝えた。


「これ、今日俺が着てたやつで悪いんだけど、裸よりはマシだろうから、乾くまではコレ着ててくれ」

「お、ありがとう、彼シャツじゃん。後さ、そっちに服を干すような場所ないかな」


ぐるりと周囲を見回すと服を干せそうな場所を見つけた。有り難い事にハンガーもある。


「んー、あー、あった、干せそうだな、ハンガーもある」

「じゃあさ、コレ干しといて、あとコレとコレとコレも」

「ああ、ってコレ!お前!」


受け取ったソレは、ブラウスとスカートとブラとパンツだった、ブラウスとスカートは予想出来たけど、ブラとパンツまでは予想外だった、ってかパンツはここに干しちゃ不味いだろ。


「あ、後コレも、駿って靴下フェチじゃないよね?」

「って今度は靴下かよ、ちげーよ」


とりあえずブラウス、スカートは干した。

問題は残り、ブラとパンツだ、何か無いかと探したら洗濯バサミを見つけたのでブラとパンツと靴下はそれで干した。

しかしなんだ、女の子のパンツってなんであんなに小さいのか、あ、姉のパンツは女の子のパンツと認識してないので。


「あんまりパンツじろじろ見るなよー」

「いや見てねーよ!」


はい嘘です。めっちゃ見てました。あ、でも匂いは嗅いでないからセーフ。

しかしなんだこの状況、女子制服と下着を干してニヤニヤしている男とか人に見られたらヤバいわ。


「なあ、もう入っていいか」

「いいぞー」


流石にここに一人は不味いと判断して、せめて睦巳と一緒にいようと思った。

カーテンを開けて中に入ると睦巳がベッドに腰掛けていて、うちわで扇いでいた。

中々に衝撃的な光景で、当然俺のシャツは睦巳には大きい、袖が大きく隙間から脇が見えそうで、胸元も大きく見えていて、大きなおっぱいと乳首はシャツの下で主張していて、居場所がハッキリと分かり、睦巳の右側から入ったのでシャツの隙間から僅かなチラリズムがあって。

下半身も穿いてないと分かっているからお尻周りは余計に気になり、晒された太ももは柔らかそうで色気の塊で俺のほうが膝枕されたいわで、裸足もなんだか綺麗で……裸足ってなんかエッチだなと始めて思った。


くそう、全身が美とエロスの塊かよ……。


「あのさ、ブラってどうやってホック外した?」

「え?そりゃあ、身体を浮かしてこうやって……」

「へー、駿に抱き締められたんだ」

「いや抱き締めてないから、出来るだけ身体に触らないように抱え込んだだけだから」


もし抱き締めてたら、今こんな風に落ち着いて話が出来る状況じゃないと思うぞ。

間違いなく暴走してた、あの時に理性が勝って良かった。


「ふーん、でさ、匂いとかどうだった?変な匂いとかしなかったか?汗臭かったりとかさ……」


匂いが気になるようだ、まあ分からんでもない、これだけ汗かいてるし俺だって逆の立場だったら気になってしょうがないだろう。

でもそれを相手に聞くやつはあんまり居ないと思うぞ。


「いやなんか普通に良い匂いだった、汗の匂いもしたけど別に嫌な匂いじゃなかったな」

「お前なんでそういうの真顔で言えんの」


そう、良い匂いだった、汗と何か良い匂い、睦巳の匂いとでもいうか、安心出来て興奮もする、とにかく良い匂いだ。

ただ思い出すと顔が変態っぽくなりそうなので、努めて表情に出さないように話した。


「まあ事実だしな、臭くは無かったから安心していいぞ」

「いや汗臭いだろ、自分で匂いと分かるし」

「まあ自分の汗と他人の汗だと感じ方違うっていうしな、それじゃないか。睦は俺の汗の匂いどう思った?臭かったか?」


睦巳は少し顔を赤くしつつ、思いついたように胸元のシャツを引っ張り匂いを嗅ぎ、袖を上げて匂いを嗅いだ。


「んー、確かに駿の汗の匂いは嫌いじゃないな」

「そういうもんだな」


そのまま俺も椅子に腰掛け、うちわで扇ぎつつ2人で雑談をしていた所になってやっと保健の先生が戻ってきた。


「おーい、どんな調子だい、ちゃんと冷やして安静にしてたかい?もしかしてよろしくやってたりしないだろうねぇ」


カーテンを開けて、俺達の様子を眺めて。


「どう?ちゃんと水分は採った?君はちゃんと服を脱がして汗を拭いて濡らしてあげた?

……見た感じだとちゃんと出来てそうだね、良かった良かった」


「お、もしかしてそれって彼シャツってやつ?良いな―、私もそういうのしてみたかったなー。

所でそこに干してあるのって、えーと、……矢内さんだっけ?あなたの服?」

「はい、そうです。」

「今日は暑いからね、あと30分もすれば乾くと思うから、そうしたら帰って良いからね。

次からはちゃんと水分とって木陰で休まなきゃダメだよー、彼氏が居なかったらもっと大変な事になってたからね」

「はい、分かりました、彼のお陰で助かりました、最高の恋人です」


そう言って俺にウィンクして来る。ドキッとする。

しかし睦、お前それどういう感情で言ってるんだ、恋人の振り……だよな?


「はいはい、お熱いねー、羨ましい事で」


その後、服も乾いて着替えて、睦と一緒に帰路についた。


睦巳の家の前で別れ際、何日か振りのキスを交わした。

キスの前に、手の平を睦巳の頬に添えると手の平に頬ずりしてきて、それが可愛くてたまらない。


俺は欲張りだ、親友という関係の癖にキスをしている、踏むべき段階をいくつもすっ飛ばしている、……それなのにもっと、更にああしたいこうしたい、と求め始めていた。


多分、今日服を脱がして身体を見てしまったからだと思う。あの身体を、と思ってしまっている。

完全に暴走している、これでは睦巳は安心出来ないし、困惑するだろう、なんとか抑えたいけど。

俺達はあくまで親友同士、恋人同士ではないのだから。


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