10.親友をあやす


──駿太朗 View


睦巳のやつ何処に居るんだ。

メッセージは既読にもならないし、まさか何かあったんじゃないだろうな。


睦巳のクラスを覗いたけど殆ど人は残っておらず、睦巳は居なかった。


念の為もう1度メッセージを送ってみたけど、今日送ったのは全部未読のままだった。

残り確認してない場所で睦巳が居そうなのは俺のクラスを残すのみ。


◇◆◇


今日は昼ご飯後に女子から放課後の呼び出しを受けた、本人じゃなく友達が代理で伝言してきたから多分告白だろう。

代理で伝言してきたのも同じクラスの女子だったし、もしかしたら同じクラスのやつか。

まあ誰が告白してきても今の俺は受ける事は出来ない、好きな娘がいるわけでもないが、そもそも今は睦巳がいるからな。


もし俺に彼女が出来たら、睦巳は俺の彼女から嫌がられる、離れてくれと言われるだろう。

そりゃそうだ、俺だって彼女のそばに俺より仲が良い男がウロチョロしていたら気が気じゃない。離れてくれ、となるだろう。


だから睦巳が今の不安定な状態だと俺に彼女を作る事は出来ない。距離感が近すぎるからだ。

普通の友達程度の距離感で付き合えるようになればなんとか彼女を作る事もできるかもだけど、いつになるやら。


放課後に呼び出しを受けた場所に行ったら案の定で女の子が居た、クラスメイトだった。

そして、告白された。

当然断った、今はそういう事に興味が無いと。

そうしたらその娘、睦巳の事を聞いてきた、その人と付き合ってるのか、好きなのか、と。


どうやら昨日の睦巳を見て、距離の近さに焦って告白を決めたらしい。ダメなら諦めるつもりで。

自分の気持ちに整理を付けたいという気持ちは分かるから、それ自体にはなんとも思わないけど。


でも睦巳の事となると話は別だ、付き合っていないし、異性として好きなわけじゃない。

ただ親友として、大事なやつなんだ。

それを素直に言っても理解して貰えないだろう、他人からすれば俺と睦巳は男と女なんだから。


だから、付き合っていないけど大事な人だと、そう伝えた。全部本当の事で、そういう風に受け取れるし、そう受け取ってもらえば良い。


その娘は渋々納得したようで、諦めてくれた。


そして、意外と時間がかかってしまった。


◇◆◇


今日呼び出しをされてから、睦巳にはメッセージで少し遅くなるから迎えに来なくて良い、校門で待っててくれ、と伝えた。

なぜなら呼び出された場所からだと俺の教室は一番遠く、校門のほうが近いからだ。だから荷物も全部持って行っている。


だけどずっと未読のままだ、一応校門周辺を探し、睦巳の教室を見て、そこにも居ないからもしかしてと自分の教室に戻ったら、其処に居た。


睦巳は何故か俺の席に座っていて、突っ伏していた。


「なんだ、此処にいたのか、探したぞ、てかなんで俺の席に」


呼びかけたけど反応が無い、聞こえていないのか。

そして何故此処にいるのか、もしかしてスマホを忘れたのだろうか?


「おい、睦、お前もしかしてスマホ忘れてないだろうな」


机の前に行き、声を掛けた。

すると睦巳はやっと顔を上げた、虚ろな表情をしていた。

心配になり声を掛けようとした瞬間、睦巳が抱き着いてきた。


周りがそれを見て囃し立てる、だけどそんな事を気にしている余裕はない。


どうやら俺が戻ってこずに心配していたらしい、だけどスマホは?やっぱりメッセージを見てないのか。


睦巳は泣き出して、話し始めた。


「スマホは家に忘れた、貰った髪留めも家に忘れた、でも駿は俺の事忘れないでくれよ、置いてくなよお」

「彼女なんか作るなよなあ、俺がいるのに、駿が彼女作ったら俺はどうなるんだよ、まだ駿と離れたくないんだよ、俺が落ち着くまでは彼女作るなよなあ、我慢していてくれよお」


どうやらスマホは家に忘れたらしい、それはまあしょうがない。

だけどその後、彼女を作るなとは、どうやら結果的に俺と同じ考えに至っているようだ、ただ睦巳が言うと凄く一方的で、自分勝手で、わがままに聞こえるな。実際にそういう事を言ってるんだけども。


だから俺は安心させたくてそのつもりが無い事を伝えた。

そして俺を信じてくれるようにと話をした。


走り回って疲れていて、俺は座りたかった。

ただこの状態の睦巳を放ってはおけないのでイスに座っている状態でお姫様だっこの様に抱きかかえ、頭を抱き寄せた。

すると直ぐに俺の首に抱き着いてきた。やはり甘えたいのだろう。


そして子供をあやすように背中を優しくポンポンと叩き、落ち着かせるようにした。


落ち着いてきたら話を再開させ、睦巳と同じようにしようとしている事を伝え、ただそれだけじゃなく、軽く冗談を交えて話をした。


睦巳を抱いていると胸元の圧迫感が強い、これは服越しでも分かるおっぱいの圧だ。

服とブラのせいで柔らかさを余り感じないがおっぱいだと思うだけで嬉しく、気持ちよくなってくるのは男の悲しい性だと思う。


サイズを聞いてみるとGカップだと云う、Gカップ!ロマン的なサイズだ。

今は俺が独占していて、少しの優越感を感じる。直接触ってみたいけどそれは流石に親友ではなくなるし、いかんでしょう。


その後は睦巳に首筋を舐められて美味しいと言われた、汗をかいていたのでしょっぱいだけだろうに、うーん、でも美味しそうと感じる気持ちは分かる。

またな、また。と言ってその場はやり過ごした。


そろそろ6時かというタイミングで睦巳も満足したようだ。

そして帰り道、俺の腕に睦巳は絡んできた。


◇◆◇


今日はこのまま解散のほうが良いと思う、このままテスト勉強やっても集中出来ないし何も身につかないだろう。


「なあ、睦、今日のテスト勉強は止めとこうか」

「いや、やる」

「──そうか、睦がやる気ならやろうか」


何故か睦巳はやる気だ、このやる気なら昨日みたいにならずに真面目に勉強できそうだ。


睦巳の家に着くと直ぐに遅めの晩ご飯だった。

いつもより大分遅いし、そうなるかと思いつつ睦巳と2人での晩ご飯をご馳走になった。


その後テスト勉強を始めたけど睦巳は集中していた。

休憩時間になったらきっちり止めて、切り替えもしっかり出来ていた。


休憩時間になったら睦巳は尋ねてきた。


「なあ駿、やっぱり彼女欲しいか?」

「なんだ突然、別に欲しくないから気にするな、それより今は睦のほうが大事だからな」


やはり教室で話していた事を気にしているようだった。ここはしっかり言っておかないと、無理されても困る。


「あのな睦、俺の彼女とかどうでもいいから、今はお前がちゃんと落ち着いて俺を安心させてくれた方が嬉しい。

だけどだからといって睦が無理してそう振る舞うのはダメだからな、ちゃんと心から落ち着く事が大事なんだ、俺の事を考えるなら自分を大事にしてくれ、俺はお前に幸せになって欲しいんだよ」


睦巳はこれだけの美少女だ、頭も良いし、落ち着いてしっかりすればちゃんとした相手も見つかるだろう。

きっとその頃にはちゃんと女の子になっていて、幸せになれる、そう思うんだ。


「──うん、分かった」



勉強は終わり、最後まで睦巳は集中していたように見える。


この日は勉強終わりに膝枕を求められたのでしてあげた、昨日と同様に手を握り、頬を優しく撫でてあげる。

ただ昨日と違ったのは俺の手を両手で握り、自分の胸の前まで持って行って、大事に抱えているように見えた事だった。

その時の睦巳の表情はとても穏やかで、とても安心しているように見えた。


玄関での別れ際になんで今日やる気だったのか聞いてみたらこう返ってきた。


「だって昨日はろくにやってなかったからな、今日からはしっかりやろうと決めてた」

「うーん、そういう理由なら良いけど」

「それに俺がしっかりしないと安心出来ない親友がいるのも分かったしな」

「まあそうだな」

「でも安心してくれ、って言って良いのか分からないけど、膝枕の時に改めて分かった。

俺の居場所は変わらず駿だ、だからまだまだ頼りにさせてもらうし甘えさせてもらうからな」


良かった、いつもの睦巳のようだ。ホッとした。

本当はこんな事で安心してちゃいけないんだけど。


「任せてくれ、しっかり俺が受け止めてやるよ、もっと甘えてこい」

「言ったな?頼むぜ親友!」


この勢いで男らしい握手とかあったら違うんだろうけど、睦巳は俺に抱き着いてきた。

言葉とのギャップが激しすぎる。

もはや毎度のように睦巳の背中を優しくポンポンと叩いてあやした。


「俺さ、駿に背中ポンポンされるの好きだ」


そのままあやして落ち着かせその日は別れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る