第2話 【ASMR】完璧なおもてなし

   SE奥津温泉、吉井川のせせらぎ。

   SEカジカガエルの鳴き声。

   SE襖が開く音。

   #やや遠くから、かがみの声がする。


かがみ

「失礼いたします。湯者【ゆうしゃ】様、今おそばに参りますね」


   #かがみの声が近付く。前方から。


かがみ

「改めまして湯者様、本日はようこそおくちゅおんしぇ……間違えた、おくちゅおんせんに……。」

「う~、嚙んじゃった……。今日は旅館の女将さんになって、湯者さんに完璧なおもてなしをしようと思ってたのに~……。」

「えと、ごめんね、湯者さん。もっかいやるね。こほん!」


「……湯者様、本日はようこそ奥津温泉においでくだしゃしましま……。」

「あうぅ……。また嚙んじゃった……。あんなに練習したのに、なんでかな……?」

「湯者さんの前だと緊張しちゃう……。あ、そうだ! 湯者さん、湯者さんの後ろに行ってもいい?」


   #かがみ、後ろに回り込むように。


かがみ

「よいしょ、よいしょ……」


   #後方から、かがみの声がする。


かがみ

「うん。ここなら緊張しないで言えるかも……!」

「じゃあ湯者さん、もっかいやるから聞いててね。こほん!」

「……湯者様、本日はようこそ奥津温泉においでくださいました。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。」


「できた! ふう……」


   #前方から、かがみの声がする。


かがみ

「えへへ。後ろからならちゃんと言えた。よかったぁ。」

「改めて、来てくれてありがとう、湯者さん。」

「今日はね、わたしが湯者さんを一日おもてなししようと思ってて……。」


「えと、湯者さん、覚えてる? わたしの……カジカガエルの鳴き真似を、初めて聞いてくれた日のこと……。」

「ほよほよほよほよ……。ほよほよほよほよ……。って、あんまりうまくないのに、笑わないで聞いてくれたよね。」

「それからも、わたしが鳴き真似の練習してるのを、いつもそばで聞いててくれて……。」


「優しいなあって、ずっと思ってたんだ。」

「それで、そのことを砂和ねえと美彩ねえに話したらね、なんていい人だ、ぜひ一度おもてなししてあげなさいって言われて、湯者さんを奥津温泉に招待することにしたの。」

「……あ、でもでも、お姉ちゃんたちに言われたから招待したわけじゃないよ?」


「わたし、前から思ってたの。優しい湯者さんに、奥津温泉でゆっくり休んで、疲れを取ってもらいたいなあって。」

「だから今日はそのために、お姉ちゃんたちに湯者さんのおもてなし方を相談したりして、いろいろ用意したんだよ。」

「でもね、砂和ねえは大胆っていうか、恥ずかしいことばっかり言ってくるし……。」


「美彩ねえのアイデアはお子さまっていうか、男の子みたいなのばっかりで、リラックスって感じじゃないし……。」

「うぅ……。わたし、ちゃんとできるかなあ……?」

「あ! ごめんね、湯者さん。不安になるようなこと言って。」


「今日の湯者さんはお客さまなんだから、お客さまには何にも考えないで、のんびり過ごしてもらわないと。」

「えっと、あの、でも、ちょっと待ってね。」

「すーはー、すーはー……。」


「えい、えい、おー! よぉし、頑張るぞ……!」

「湯者さん、お待たせ。 それじゃ、お布団の上でゆ~ったり、リラックスしてね……。」

「……ふふ、そうそう。」


   #左から、かがみの声がする。


かがみ

「お布団がふかふかで気持ちいいでしょ? 湯者さんのために昨日お洗濯して、ちゃんと干しておいたんだよ。」

「あ、その顔……。湯者さん、もしかして今、ドキドキしてる?」

「……えへへ、同じだね。わたしもドキドキしてる……。」


「わたし、朝からずっと、湯者さんが喜んでくれるかな、喜んでくれたらいいなって、そればっかり考えてて……。」

「だから……今日は一生懸命、頑張るね。湯者さん♪」



《第3話へ続く》


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『ASMRボイスドラマ 温泉むすめ あなたをおもてなししたい奥津かがみ』(CV・久保田未夢)

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