愛する先輩が他の女と心中して、私だけが知らない幼なじみとして転生してきたら

【百合ゲーム作ってるひと】滝井ノアメ

第1話 NTR百合心中

 高校一年で初めて同性に恋をした。

相手は同じ陸上部の1つ上の、私だけによく抱きついてくる先輩で。


 告白されたときは少しパニックになったけど。

先輩に憧れていた私は、真惟まい先輩に二つ返事でOKをした。


 走ることにしか興味の無い無口な私と違って、先輩はおしゃれに気を遣い、懐っこい性格は男女問わず人気が高かった。

 

 先輩に連れられたショップで初めておしゃれな服を買って。

短髪の自分には似合わないと思っていた上品なロングスカートも、先輩の好みということでレジに持っていった。


 髪だって先輩の好みに合わせて伸ばしてるし。

自分というものがない私は、先輩に導かれるのが好きでうれしかった。


 それから少しして、放課後の更衣室で初めてのキスをした。

誰かが来たらどうしようという恐怖と、いけない事をしている罪悪感と、先輩の発情した表情。そして暖かい舌が差し込まれて。


 唇が離れ、先輩が耳元で囁いた好きという言葉とともに、やさしく右胸の先端を撫でられ、初めて自分では抑えられない声が出ることを体験した。


 あのとき更衣室の前を人が通らなかったら、私は私で居られなかったかもしれない。

 たったそれだけのことなのに下着が濡れてしまい、子供っぽいと思っていた自分の身体が大人の女性になっていたことを知った。

 

「素っ気ないふりしてるけどさ、わたしに合わそう合わそうって動いてくれてるところが好きだよ。そら


 そんな風に甘くささやいてくれた先輩は昨日、学校の3階から他の女と飛び降りてしまった。

 

 他の先輩が教えてくれた。

真惟まい先輩は一年生の女子と無理心中したって。


 恋愛の話は一切しなかったし、興味無いと思ってたけど。なんて付け加えられたけど、先輩のこと分かってないなって思った。

 

 ……ううん。私も、分かっていなかったんだ。

 

 先輩が死んでしまったこと、なんでか現実感が湧かなくて涙が出ないな。



「ただいまー。お母さん、ちょっと話があるんだけど……」


 夏の容赦ない日差しが肌を刺す中、部活が中止となったので帰宅した。


 一晩どうしようか悩んだけど、お母さんには話しておこうと思う。

 

「あら、おかえりなさい。やっぱり部活は中止? 瑠衣るいちゃん来てるわよ」


なんて言い出そう。付き合ってると思ってた女性の先輩が実は二股していて、しかも飛び降りて亡くなったのがその人で……ん?


「え、誰って?」


「瑠衣ちゃんよ。学校でショックな出来事が起きたのは分かるけど、幼なじみの名前も忘れちゃったの?」



「おかえり~、空」


お母さんの後ろから、透き通った声が私の名前を呼ぶ。


聞いたことがないその声の持ち主は、


「部屋、いこっか」




 同じ年齢くらいだろうか。

他校の制服を着ているその子は、私のいろんな初めてを奪って死んでいった先輩と同じくせっ毛ハーフアップロングで。


「え、うん……いや、誰!?」







幼なじみという割には、キョロキョロと部屋の中を眺めている。それはまるで初めて来たように。


「あの……瑠衣ちゃんだっけ? 私がおかしいのかな。ちょっと記憶がないんですが……」




「やっぱそうだよね。……空は空だよね?」


質問の意図が分からない。





「よく聞いてね。空。わたしは真惟まいだよ。昨日、"突き落とされて"死んじゃって」


はー? 何言ってるのこの子。ニュースで見たのか誰かから聞いたのか知らないけど、さすがに気分が悪い。


「嘘みたいな話だけど、この瑠衣って身体に転生しちゃったみたいなんだ」


転生。


「……は?」

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