ブラッディ・ユートピア
月影澪央
第1話 成功不可能な任務
世界で一番治安がいいと言われているこの国。その理由は国民性などだと言われているが、実際のところその影響はごく一部にすぎない。
本当は、凶悪犯を始末する国が認めた殺し屋が存在することが主な理由だ。
表向きにはどの国でも殺し屋なんて許されたものじゃないが、この国ではそれによって治安は維持されている。おそらく他の国も裏ではやっているだろう。
銀髪銀眼、名前の通り閃光のような速さで命を刈り取る《閃光》と茶髪赤眼の《黎明》。二人は殺し屋だった。
相棒となった二人は、組織に呼び出されてアジトに向かった。
組織のアジトがあるのは政府機関が集まる地域。警察本部の地下にあり、やっていることも含めて警察の部署の一つと言ってもいいくらいだ。ただそうするとお互い困るので、協力や秘密保持の契約で繋がっているだけだ。
目立たない裏口から入り、顔認証で中に入ると、二人は専用のエレベーターで地下に潜る。
同じ建物にあるが、警察とはお互いに接触できないようになっている。無いとは思うが、お互いに被害が出ることは避けたい。
「二人でなんて初めてだよね」
「組めって言われた時以来。まあ、複数人での任務ってほとんど無いし」
「確かに」
《閃光》と《黎明》は期待しながらエレベーターの階数表示を見つめる。
到着してエレベーターを降りると、二人は所属する班の部屋に向かった。
「どうもー」
《黎明》がそう言いながら部屋に入るが、返答はない。それが当たり前だ。
班に所属するエージェントたちはそれぞれ色々な役割を担っている。二人みたいな殺し屋もいるし、情報を集めるスパイもいる。
今日二人を呼び出したのは班のリーダー、《慧眼》。二人を組織に勧誘した人物だ。新しい班に新人二人を誘い、二人に仕事を与え、引き合わせてくれた恩人でもある。二人は親友レベルにまで仲を深めていた。
そして二人が部屋の中を進むと、奥の長机に座った一人の男がいた。
「どうも」
「こんちはー」
二人がそう挨拶すると、資料を見ていた男が顔を上げ、二人のことを見る。
「おう、来たな」
その男が班のリーダー、《慧眼》だ。
「まあ座ってくれ」
《慧眼》は二人を正面の椅子に座らせ、机を挟んで向かい合うように座る。
「今日誰もいないんですね。珍しく」
座ってすぐに辺りを見回し、《閃光》がそう言った。
本来なら誰かがいるはずだが、今日は誰もいない。三人だけしかいなかった。
「ああ。今日は全員出てもらった」
「出てもらった?」
「今日は三人だけで話がしたかった」
「何ですかそれ」
重要な任務なら、それこそサポートが必要になるだろうからこの状況はあり得ない。それほど重要でないなら、わざわざ隠す必要もない。そして二人の頭によぎったのは……
「もしかして、誰か裏切ったとか……?」
組織内の誰かを始末するのなら、本当に白だとわかっている一部だけで話をするのもわかる。
「いや。そういうわけではない」
「そうですか」
二人は安心して胸を撫で下ろした。
「それで、今回の任務は何ですか? そこに三人だけで話さないといけない理由があるんですよね?」
《黎明》が早く進めろと思っているのが他の二人も察せられるほど伝わってきた。そして《慧眼》は急いで話を任務の話にする。
「今回のターゲットは、今まで多くの人間を殺してきたであろう人物だ。……だが、そのほとんどがうちの組織のエージェントたちだ」
「それって……」
「今まで何人ものエージェントを派遣して、全員消息不明。少なくとも二十人。成功は不可能だと言われる任務だ」
二人は何も言えなかった。
「まだ一般人への被害は出ていない。元々どんな罪で暗殺命令が出ているのかも教えられてない。正直断ってもいいと思っている。でも、これは上が直接二人を指名してきた任務。どうするかは二人が決めていい」
それほど殺す意味は感じられない。それでも他が引き受けてきたのは上から直接指名されたからだろうか。結局は権力に逆らうことはできない。
「なんか、やる気にはなれないですね」
《閃光》はそう言った。《閃光》としては、その人が完全に悪人でないと殺したくないという気持ちがある。
「そうだよな。レイはどう思う?」
《慧眼》は《黎明》にそう聞いた。レイというのは彼の愛称だ。ちなみに《閃光》はヒカル、《慧眼》はケイと呼ばれている。
「オレは……それが与えられた仕事なら、従うだけです」
「そうか……」
二人の意見が食い違ってしまった。でもこれは二人での仕事。どうしたらいいか……とケイは少し考える。
「……レイなら、そう言うと思った。どうせどちらかが折れないといけない。なら、俺もやります」
「ヒカル、別に無理しなくても……」
「いいんだよ。レイとなら、成功するかもしれないって思える」
「……そっか」
ケイが策を思いつくより前に、二人は決意を固めたようだった。
「詳しくお願いします」
「ああ。そうは言っても、ほとんど情報はないぞ」
そう言って、ケイは二人に資料を表示させたタブレットを見せる。
「名前はユーリ。黒薔薇城を拠点にしていると思われるが、そこには多くのトラップがある……らしい。確証はない」
黒薔薇城――その昔、とてつもない財力を持っていたブラックローズ一族が住んでいた館だ。首都郊外にその館はあるが、詳しいことは誰もよく知らない。
「黒薔薇城ってことは、その血縁とかなんですか?」
「いや。今あの一族に生存者はいない。廃墟に住み着いただけだろう」
「そうですか」
「……他には?」
「以上だ」
「え?」
「これ以上わかっていることはない」
「「嘘だろ……」」
二人は声を揃えてそう呟いた。
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