19 授業中に彼女からちょいエロ攻撃
「ふう……」
俺は自分の席で一息つく。
長い長い授業とホームルームが終わり、ようやく放課後になった。
クラスメートたちは徐々に教室から出ていき始めている。
そんななか隣の席のルイが笑いを噛みを殺していた。
「く、くく……っ。お疲れさま、
「誰のせいだと思ってるのさ……」
「んー」
ルイはあご先に手を当て、わざとらしく、そしてあざとく首をかしげる。
「あたし?」
黒髪がふわっと舞って、すごく可愛い。
わざとやっているのは分かっているのに、そのあざとさに鼓動が高鳴ってしまう。
俺は机に突っ伏し、大きく息を吐く。
「分かってるならもう少し手加減してほしかった……」
「あはは、だって涼介のリアクション、マジ面白いんだもん」
「まったく……」
事の起こりは、朝の登校中のこと。
俺たちは恋人同士としてこの先、
結論としては、最初は優しくし、その後ルイが動きに慣れてきたら、俺が夢中になる――というもの。なんとも生々しい話だけれど、きちんと話し合えたことがとても嬉しかった。
その後、ルイの下着の話などもあって俺は気持ちが高ぶり、思いっきり抱き締めさせてもらった。そのまま登校時間ギリギリまでハグし合い、朝からこんなにドキドキしてしまってまともに授業が受けられるのだろうか、と思っていたのだけど……うん、無理だった。
なんせ隣の席に張本人のルイがいる。
授業が始まっても彼女のことが気になって仕方ない。
朝の生々しい話のこと、初めてのために用意してくれているというルイの下着のこと、柔らかな抱き心地のこと……色んなことが頭を巡ってしまって、授業どころじゃなかった。
だけど、学生の本分はやっぱり勉強だ。
俺は雑念を振り切り、どうにか集中しようと頑張った。
が、しかし。
さすがは彼女というべきか、そのギリギリの状態をルイに気づかれてしまった。彼女は面白がり、授業中にとことん俺をからかってきた。
「ルイ、こういうのはよくないと思う。すごくよくないと思う」
クラスメートたちが教室から出ていったことを確認し、俺はいくつかのルーズリーフの切れ端を摘まむ。
ルイが授業中に手を伸ばし、こっそり寄越してきたミニ手紙だ。
『そういえば、あたしの今日の下着、何色でしょーか♡』
『ヒントは赤か白か黒。どれでしょう? っていうか、どれが好き?』
『正解したらちょっとだけ見せてあげよーかな♪』
考えてもみてほしい。
頭が雑念でいっぱいになってる時に、その本人から次々にこんな手紙を送られる側の気持ちを。とても正気じゃいられない。
しかし俺の抗議などどこ吹く風で、隣のルイはネコのようにニヤニヤする。
「えー、でも涼介も楽しそうに見えたけど?」
「楽しんでない、楽しんでない。俺は困り果ててたんだよ?」
「ほんとー?」
「本当さ」
「五限の倫理の時も?」
「う……っ」
痛いところを突かれ、言葉を失う。
するとルイが身を乗り出してきて、ミニ手紙の一つを摘まみ上げた。
シャンプーの匂いでクラッとなりそうな俺へ、ルイは手紙を見せる。
『すぺしゃるヒント。先生にバレないよーにこっち見て?』
手紙をひらひらとさせ、ルイは苦笑。
「涼介、普通にガン見してくるんだもん。バレるんじゃないかと思って、あたしの方がドキドキしたし。あれで楽しんでないとか無理ない?」
「やっ、あれはもう楽しむとかそういう次元じゃないから……っ」
「ふーん?」
わざと気のない返事をし、ルイは乗り出していた体を戻す。そうして自分の席で頬杖をつくと、ニヤっとしながら空いている方の手を下ろしていく。
そしてあろうことか、自分のスカートをゆっくりと上げ始めた。
ルイの今日の下着が何色か、というクイズへのすぺしゃるヒントだ。五限の倫理の授業中も同じことをされ、俺は大いに動揺した。むしろこれで動揺するなという方が無理だと思う。
「くく……あはっ! 涼介、またガン見してるしー!」
「そりゃするって!」
「涼介ってば、マジえろーい!」
「ああもう……っ」
今日一日、こうやってずっとルイにからかわれている。このままじゃ彼氏としての沽券に関わる。どうにかしないといけない。かくなる上は……っ。
「ルイ、ちょっとこっち来て」
「ん、なに?」
「いいから、いいから」
「なにかエロいことするつもりじゃないでしょうね? ここ学校だからねー?」
まだからかい顔のまま、ルイが頬杖をやめてこちらを向く。
その瞬間、俺は動いた。
今だ……!
すかさず手を伸ばし、指先をルイの髪の間へすべらせる。
「ちょ……!?」
不意の攻勢に対し、驚いた顔をする、ルイ。とっさに逃げようとするがもう遅い。俺は細い腰を抱き寄せて、彼女の髪を優しく撫でる。
「あ……っ。な、なにするのよぉ……っ」
途端、ルイはとろんとしてしまった。文句を言っているが、呂律が回っていない。一瞬で甘えん坊のような表情になっている。
俺がハグやイヤらしいことに弱いように、ルイは髪を撫でられることに弱い。これで形勢逆転だ。
「今日一日のお返し。これくらいしないと、俺の気も済まないからね?」
「ちょ、だからってこんな……っ。ここ、教室……!」
「教室でさんざん俺をからかってくれたのは誰だったかなぁ?」
「りょ、涼介はいいの! でもあたしはダメッ。さっきまで思いきり涼介のことからかってたのに、髪撫でられた途端、ゆるゆるになっちゃうとか恥ずい……っ」
「いいよいいよ。もっと恥ずかしがっていこう」
「も~っ!」
きれいな黒髪をさらさらと指で梳き、彼女を撫でる。
すると見る見るうちに力が抜けていき、ルイは根負けして、しな垂れ掛かってきた。
俺は椅子に座ったまま、そんな彼女を抱き留める。
よしよし、と褒めてあげるのも忘れない。
「うぅ、ムカつくぅ……。今日はあたしが涼介を可愛がる日だと思ってたのにぃ……」
「残念だったね。俺だってやられっ放しじゃないよ。だって俺もルイのこと可愛がりたいし」
「やだ。今日はあたしが可愛がりたい」
「ルイの番はもうさんざんやったでしょ?」
「やーだ!」
「ってかもう口調が甘えん坊になってるし」
「あーもー、涼介のばかぁ……!」
俺の胸元にぐりぐりと額を押しつけてくる。
うん、可愛い。すごく可愛い。甘えん坊のルイを見ていると、さっきまでの悔しさがきれいさっぱり浄化されていく。
一方、ルイはちょっとだけ顔を上げると、なんとも悔しそうな可愛い表情で見上げてくる。
「ったく、涼介ってば嬉しそうな顔しちゃって……」
「うん、実際嬉しいからね?」
「……本当はもっとあたしにエロいことして欲しいくせに」
「ま、まあ否定はしないけれど」
しまった。
一瞬、口ごもってしまった。
その隙を逃さず、ルイは瞬時にニヤニヤ顔になる。
しかし髪を撫でられているので、完全には調子を取り戻せていない。
半分、とろん。
半分、ニヤニヤ。
そんな極限状態で彼女は甘く囁く。
「早く……あたしに手ぇ出しちゃえばいいのに」
「――っ!」
ドクンッと心臓が高鳴った。
それは……ずっと考えていたことだ。
まだ付き合ったばかりだから。
こういうことには順序が必要だから。
そういう理由のもとに俺たちは踏み止まってきた。
だけど俺もルイも正直限界だ。
好きで、好きで、本当に好きで。
心から相手のことを求めている。
それはとても自然なことだと思う。
だから俺はそっと髪から手を離し、彼女の頬に触れた。
「涼介……?」
「……あのね、ルイ」
どうしようもなく緊張しているのが自分でも分かる。
それでも勇気を振り絞って口を開いた。
「俺、ルイともっと深い仲になりたい」
「え……」
一瞬、ルイは言葉の意味がわからないみたいに目を瞬いた。
だけど宝石のような瞳がだんだんと見開かれていく。
「え? え? それって……っ」
「明日は土曜だよね? だから――」
奇しくも明日は俺とルイが付き合って、初めての週末だった。
これ以上の機会はない。
俺は胸の高鳴りに身を任せ、言葉を紡ぐ。
「――明日、俺とデートして下さい!」
「する! するする! 涼介とデートするぅ!」
1秒の間もなく、了承してくれた。
嬉しい。どうしようもなく嬉しい。
こうして俺たちは一歩進むことになった。
今までは一緒に登下校するだけだったけれど、そこからもう一歩深い仲になって――明日、俺たちはデートをします。
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